バイクの技術と、プールの記憶が、什器になる。共創を前に進めた「本音」の話【イベントレポート】
バイクの職人技と、プールの素材が、什器に生まれ変わる。共創のリアルな試行錯誤と「本音」の話です。
バイクの職人技と、プールの素材が、什器に生まれ変わる。共創のリアルな試行錯誤と「本音」の話です。
バイクの鍛造部品が、テーブルに。プールの廃材が、ソファに。
異なる現場で培われたものが、什器へと姿を変え、会場に並んでいました。ヤマハ発動機の共創スペース・リジェラボ(横浜)で開かれた「PRODUCT REGENERATION ―遊び心と共創から生まれる再生型社会―」。今回の主役は、株式会社船場(以下、船場)・株式会社博展(以下、博展)・ヤマハ発動機の3社共創で生まれた「アップサイクル什器」です。
ここでいう「再生」には、2つの顔があります。1つは、鍛造や塗装に込められた職人の技術と想いを、バイクという製品の枠を越えて受け継ぐこと。もう1つは、行き場を失いかけた廃材に、新しい役割を与えること。どちらも、不要になったものを処分する話ではありません。そして当日、より強く伝わってきたのは、完成した什器の美しさよりも、すれ違いやモヤモヤを越えて前に進んだ、共創そのもののプロセスでした。立場の違う企業が腹を割り、ともに新しいものを生み出すには、何が必要なのか——その手がかりの話です。
入り口は2つあった——技術から、素材から
オープニングに立ったのは、ヤマハ発動機 技術・デザイン統合戦略部の東山。この1年、2つのアップサイクルプロジェクトを担当してきました。1つは、モーターサイクル事業と船場による「技術」起点の共創。もう1つは、撤退が決まったプール事業と博展による「素材」起点の共創です。
入り口は「技術」と「素材」で違っても、2つのプロジェクトを動かした共通点は同じでした——人の想いです。
「技術やアセットの掛け算も、もちろん大事です。でも、何より大事なのは、お互いの想いを通わせること。そもそも我々は人間ですから。言葉にすると簡単ですが、やってみると本当に難しい。それこそが、共創の核だったと感じています。」
ここから、2つの共創の舞台裏が、登壇者たちの言葉で語られていきます。
「これは簡単じゃないぞ」から始まった共創
最初のトークセッション「技術と想いの再生」に登壇したのは、船場の空間デザイナー・田口裕都さんと、ヤマハ発動機でモーターサイクルの企画管理を担う角谷智。2人がそろって振り返ったのは、最初の「すれ違い」でした。
角谷正直、最初はお互いのことを何も知らなかったんです。動き出してみると、着ている服から考え方まで、何もかもが違う。これは簡単じゃないぞ、というところからのスタートでした。
2005年入社。USオフロード競技モデルの商品企画を担当。上海・米国ジョージア州での駐在を経て、先行企画や未来洞察業務に従事。現在はマーケティング統括部にて企画管理を担当。
田口最初にモーターサイクル事業部の方とお話ししたとき、この企画にかける思いやこだわりの強さを、これまでのどんな仕事よりも熱く感じたんです。ただ、いざ工場へ伺うと、アップサイクルに使えそうな廃材が、ほとんどなくて。廃棄物はほとんど出ないくらい、工場のなかでリサイクルが進んでいる。持ち帰って什器にする、という最初の前提が、そこで崩れてしまったんです。
1997年京都府生まれ。2020年岡山県立大学デザイン工学科建築都市デザイン領域を卒業後、株式会社船場に入社。空間デザイナーとして商業施設やオフィス等のデザイン業務に従事。
角谷そうなんです。だから正直、僕らも懐疑的で。そこから何かを抜き出して、1つ2つ什器を作って、これが何になるのかな、と。──今は違いますよ。でも当時は、僕らの熱量ばかりが先走って、船場さんをずいぶん戸惑わせてしまったと思います。それに、ヤマハ発動機には、デザイナーさんを信頼して、細かい指示はしない文化があって。「こうしてほしい」ではなく、「こんな価値を感じるものを」と、コンセプトだけ預けてしまう。
田口そのコンセプトを、どう形にするか。僕らも何かアイデアを出さなければと、必死で。何を作れば2つの想いを体現できるのか、ずっと考え、悩んでいました。
東山本来は、僕のような共創の担当が、お互いの言葉を翻訳しないといけなかった。言葉にすれば簡単なことが、やってみると本当に難しくて。打ち合わせのたびに、痛感していました。そこがうまくいかず、すれ違う時間が続いたんです。
モノではなく、技術と想いをアップサイクルする
バイクの技術を受け継ぐ4つの什器。エンジン部品をレジンに5層封入した「鍛造テーブル」、SRシリーズ歴代モデルのサンバースト塗装をまとう「塗装テーブル(SRシリーズモデル)」、実車のフロントフォークを脚にした「塗装テーブル(YZF-R25モデル)」、ハンドルを回すと点灯する「エンジン・クラフト照明」。
角谷きっかけは、発想を変えたことでした。工場に廃材がほとんどないなら、モノではなく、職人の技術や想いそのものをアップサイクルすればいい、と。
角谷これ、コンロッドという、エンジンの中心にある部品です。二輪の場合通常走行時約5,000〜6,000回転している。通常2つの部品を組み立てて作るところを、あえて1つの塊から作り、ものすごく冷やして、かち割り氷のようにパンと割る。すると寸分の狂いもなく同じ断面が2つでき、組み合わせると境目すら見えない。そこまでやるのは、時速100キロで走る二輪に絶対の信頼がおけないと、誰も安心して遊べないから。ここまで品質にこだわらないと、遊びは届けられないんです。
田口その熱が、最初はなかなか形にならなくて。でも、営業や制作も交えて100案近いアイデアを持ち寄って、ワークショップを重ねるうちに——塗装を生かしたテーブル、エンジンの動きを伝える照明、と方向性が見えてきた。そこから、一気に距離が縮まりました。完成した塗装テーブルの仕上げ、あのサンバースト塗装は、ヤマハ発動機の職人さんご自身に手がけていただいたんです。僕らの普段の仕事では、お客さま側が最後の仕上げをすることって、まずないんです。そこが、いちばん共創らしいところでした。
角谷実はずっとやきもきしていたんですが、半年たってふと自分を見つめ直す時が来て。自分の物差しだけで喋っていたなと気づいたんです。相手は空間をつくり続けてきた会社で、エンジンを作る僕らとは違う。思った通りのアウトプットでなくても、その裏には必ず意図がある。そう気づいたとき、少し変わってきました。
東山こだわる部分と、避けたい部分を、お互いに言葉にできるか。そこが共創のカギだったのかもしれません。
撤退の寂しさが、初動の熱になった
続くセッション「素材と想いの再生」は、博展のデザイナー・高橋匠さんと、ヤマハ発動機でプールの生産管理を担う野村隆敏。高橋さんは、思いがけない打ち明け話から始めました。
高橋実は恥ずかしながら、ヤマハ発動機さんがプールを作っていることを知らなかったんです。この会場で、ご存じだった方ってどれくらいいますか?
体験を軸とした空間デザインに従事。コンテクストから空間を紐解き、より深い体験を追求する。光を用いたインスタレーションなどアーティスト活動も展開。近年はサーキュラーデザイン領域で活動中。
会場に挙手を求めると、知っていた人はわずか。FRP(繊維強化プラスチック)製プールの製造は、ボートづくりの技術から派生した事業ですが、撤退が決まっています。プロジェクトが向き合ったのは、規格に合わず処分されるはずだった子ども用プールの廃材。そして何より、そこで働いてきた人の想いでした。
野村学生時代まで水泳をやってきて、インストラクターを経て、この会社でプールの運営から製造へ。ずっと背後に、水泳があるんです。僕より熱い先輩もいて、自分たちを「プールマン」と呼んでいました。これだけ個性のある事業をやってきたという誇りがある。だからこそ、事業の撤退は寂しい。でも、こうして什器として形に残って、会社のなかで使われている。それが、ちょっと嬉しいんです。
大学卒業まで水泳部員として競泳を続け、水泳インストラクターを経てヤマハ発動機へ入社。以降、プールの運営・製造に携わり、現在はプールユニットの生産計画管理を担当。
高橋その野村さんの話を聞くうちに、想像を超える深い愛を感じて。プールは単なるプロダクトではなくて、人々の生活を豊かにしてきたものなんじゃないか、と。だから単にアップサイクルするのではなく、人と人のコミュニケーションが豊かになるものを作りたいと思ったんです。
遊び心で、素材の枠を越える
FRPプールから生まれた2つの什器。廃棄予定の子ども用プールを3分割できる「プールソファ」と、プール底板に横浜市の再利用材プロジェクト「REYO」の体育館床材を掛け合わせた「スツールボックス(プール×体育館床材)」
高橋正直、最初は、目の前のプールの断片を見て「これ、どう活かせるんだろう」と。ずいぶん悩まされました。突破口になったのは、「遊び心」です。プールの価値も、これまでの概念も一旦忘れて、ゼロから考える。リジェラボに並ぶ余白のある什器を見て、「ここまでやっていいんだ」とハードルが下がったんです。プールソファに残した手すりも、その表れですね。だから2つ目は思いきって、プールの床材に、ちょうど改修期だった横浜市の体育館の床も掛け合わせました。「この素材だから、これにしか使えない」という決まりはない。一回違うものに使ってみるだけでも、循環のきっかけになるんです。
野村正直、最初は「何になるんだろう」と思っていた廃材が、まさかの形に。とくに、学校の床と掛け合わさって、こんなにいい雰囲気になるとは、びっくりしました。ものをつくる側として、遊び心で愛着が生まれるという発想は、正直なかったんです。空間を、そして事業そのものをデザインしていく、そのすごさに驚かされました。
東山お二人の話に共通していたのは、「掛け合わせ」でした。違う立場や価値観を持ち寄って掛け合わせるからこそ、1社だけでは生まれない、思いがけないものが生まれてくるのかもしれません。
野村今回のプロジェクトを通じて、あらためて思うんです。プールが使われなくなっても、素材として必要とされるシーンがあるはずなので、ただ捨てられるだけじゃなく、どう循環させ、社会のなかにいい形で活用できるか。そんな道を、これから考えていきたい。
触れた什器が、会話を生み出す
トークのあとは、什器の見学・体感タイム。会場で使われていたテーブルが、実は、競技用プールをアップサイクルした什器だった——その種明かしに、あちこちで「これがあのプール?」と声が上がります。照明をのぞき込む人、プールソファに腰かける人。作り手と参加者の距離が、一気に縮まっていきました。
続くグループディスカッションのお題は、「什器を見て感じたこと」と「自社がアップサイクルを通じた共創をするなら何をしたいか」。
話し合いのなかでは、さまざまなアイデアが上がりました。各地の企業とヤマハ発動機が組み、テーマを変えながら共創展を開く「巡回展」の構想。つくり手の想いやプロセスの物語まで、ユーザーに伝わるようデザインしたいという「ストーリーテリング」の視点。「錆びた台車と、船を包んでいた袋。それだけ聞くとただのゴミだと思われがちですが、組み合わせ次第でこんなにおしゃれになる」という気づきも飛び出します。
一方で、あるグループからは率直な指摘もありました。アップサイクルは売れにくく、ビジネスとして続けるのは大変そうだ、と。それでも議論の末にたどり着いたのは、別の価値でした。アップサイクルされたモノには、価値の物差しを変える力があり、「会話を生む媒介」になる——現にこの日、什器の話を入り口に、業種も立場も異なる人同士の対話が広がっていたのです。
工数がかかっても、共創でしか見えない景色がある
イベントの締めくくりは、両社のプロジェクト責任者による対談「共創で生み出す再生の未来」。船場の荒毛大輔さんと、博展の鈴木亮介さんが登壇しました。
荒毛共創というかたちを取ったことで、クライアントワークとは違う関わり方ができたこと。そして最終的なアウトプットによって、こういう場でお話ができていることですね。通常の、デザインをして納めるだけの仕事では起きないことなので。
鈴木僕も、まさにこの場かなと思っています。いいアウトプットができたことがパワーになって、皆さんに集まっていただき、それが新しい循環につながっていく。この感覚をものすごく感じています。
商業施設を中心とした空間づくりに携わり、設計ディレクション、施工ディレクション、内監業務などを担当。
荒毛正直、効率の面だけで見れば、簡単ではありません。工数はかかるし、最初は何が正解かも見えないまま進んでいく。それでも、効果をひとつずつ示していくことで、ここまで前に進めてこられました。おかげさまで、リジェラボが「日本空間デザイン賞2025」の企業プロモーション空間部門で金賞をいただけたことも、大きな追い風でした。
鈴木共創は、アウトプットの正解イメージがないなかで進めるのが醍醐味で、だからこそイノベーションが起きる可能性を秘めている。その分、工数はかかります。だから1つのプロジェクト単体で生産性を見ることにこだわらないほうがいい。この場から新しいつながりが生まれ、1つのプロジェクトから5つの展開が生まれました、と経営層には定量的に伝える工夫をしています。
空間・体験設計を軸に、サーキュラーデザインや社会性のあるプロジェクトのリサーチ/プロトタイピング・企画・実装を手がける。
荒毛正直、知らないことが、すごくつらかったんです。熱量がとても強く、応えたいのに、バイクの知識では到底、敵わない。でも、どこかで開き直れたのが大きくて。バイクのことは敵わなくても、空間をつくることなら僕らはプロだ、と。相手に合わせにいくのではなく、プロ同士でどう組み合わせれば最適になるかを考える。そう割り切れてから、噛み合いはじめました。
鈴木相手の熱量って、正面から受け止めようとすると、こちらが食らってしまう。だから僕は、合気道みたいに相手の力をそのまま活かして勢いに変えていくイメージで。感情がこもると、言葉はぎゅっと凝縮されて、本当の意図が見えにくくなる。その裏側で、相手が本当は何を考えているのか——そこを見つけて、デザインに乗せていく。そこが、クリエイティブのいちばん面白いところなんです。
荒毛やりたいことの核に、シンプルな思いがある方。それを一緒に掘り下げていける方と、ぜひ共創したいですね。
鈴木自社の課題を、自分の言葉で語れる方。それが伝わると、つながりは一気に広がるんです。
東山経済的な成立と、そこに込められた人の想いを再生していくこと。その両立は、本当に難しい。それでもなお、共創じゃなきゃ見られない景色、共創じゃなきゃ作れない価値が、絶対にあると思っていて。その壁を、一緒にジャンプしていける人と、やっていきたいですね。
前に進む瞬間は、誰かが本音を出したとき
クロージングで再びマイクを握った東山は、2つの共創を「2つの型」として整理しました。価値観の距離が遠いところから、現場に触れ、時間をかけて対話で縮めていった船場×モーターサイクルの「技術型」。想いがすっと伝わり、初動の熱で走り出した博展×プールの「素材型」。型は違っても、前に進めたポイントは共通していたといいます。
「前に進む瞬間は、誰かが本音を出したときでした。互いの事情や悩み、うまくいかないことを、勇気を出してそのまま開く。それを一社の課題ではなく、この場の全員の悩みに言い換えていく。そして、やってあげるではなく、課題や悩みを自分ごとにしていく。このサイクルを回すことで、チームは深まっていくんじゃないかと思います」
分野や文化の違いは、摩擦ではなく資源である。色々なプロが集まるからこそ、解ける課題の幅が広がる——。そう語ったうえで、東山はこの1年の総括を、率直な言葉で締めくくりました。
「共創を支える立場として、課題も残りました。今回の経験で、共創を前に進めるのは、共感と納得の両輪なんじゃないかと。相手のモノサシや辞書に合わせた言葉で、いかに描きたい景色を見せていくか。いい共創が生まれる型を仮説をもって生み出し続けていきたいと思います」
その後の懇親会でも、プールソファに腰かけて話し込む人、コンロッドを片手に担当者と語り合う人。技術と廃材から生まれた什器たちが、新しい会話の真ん中にありました。
共創を前に進めたのは、技術でも素材でもなく、互いに本音を打ち明ける対話でした。技術は受け継がれ、廃材は新しい役割を得て、什器になる。立場の違う3社が本音で交わった先に、どんな景色がひらけていくのか——その答えは、まだ途中にあります。
最新のイベント情報は、リジェラボの公式サイトにてご覧いただけます。
https://www.yamaha-motor.co.jp/regenerative-lab/event/
※所属部署・役職は公開当時のものです。
※本記事は公開当時の取材内容および情報に基づいて構成しており、現在の状況とは異なる場合があります。
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