本文へ進みます

武蔵野大学×広島・鞆の浦×ヤマハ発動機——グリスロをめぐる共創の現場から

武蔵野大学の学生が、鞆の浦を舞台にグリスロのPR動画を制作。若者ならではの視点と率直な対話から、「街の価値を引き出すモビリティ」としての新たな可能性が浮かび上がりました。

武蔵野大学の学生が、鞆の浦を舞台にグリスロのPR動画を制作。若者ならではの視点と率直な対話から、「街の価値を引き出すモビリティ」としての新たな可能性が浮かび上がりました。

2026年3月12日


ヤマハ発動機の共創スペース「リジェラボ」に、26人の大学生が集まりました。

「グリスロって、正直どうなんだろう?」

そんな素朴で核心を突く疑問から始まった、武蔵野大学・三重野ゼミの学生たちによるグリーンスローモビリティ(以下、グリスロ)のPR動画発表会。

「モビリティと街づくり」をテーマに活動する三重野ゼミの学生たちは、3か月にわたり、広島県福山市にある歴史ある港町・鞆の浦(とものうら)を舞台にグリスロと向き合ってきました。鞆の浦では現在、ヤマハ発動機のグリスロが、「潮待ちタクシー」という名で、観光や地域の足として運行しています。この発表会は、学生たちの活動の集大成です。

「今日は、いい動画を評価する日ではありません。学生のうちに、社会人と関わり合い、いろんな経験をしてください。そうした経験そのものが、社会に出る準備になります。」

発表会の冒頭、三重野教授は学生たちにそう語りかけました。

武蔵野大学 経営学部経営学科 特任教授 三重野 真代氏
国土交通省在職時に「グリーンスローモビリティ」という名称を創出し、グリスロの普及推進に貢献。
2025年9月に設立した(一社)グリーンスローモビリティ協議会の代表理事も務める。

学生たちの目に、鞆の浦とそこに暮らす人々、そしてグリスロはどのように映ったのでしょうか。「若者のリアルな本音」にこそ、次世代のモビリティ社会を紐解くヒントが隠されていました。

言葉の外側で伝える——大学生が見せたPRの別解

会場には、少し緊張した面持ちの学生たちと、学生を迎えるヤマハ発動機のグリスロ担当者4名。そして、現地・鞆の浦で実際にグリスロを運行する、アサヒタクシー・山田社長の姿もありました。
学生たちは3チームに分かれ、それぞれ異なるターゲットに向けて制作した動画を発表します。

40〜50代の夫婦を想定したチーム。
同年代の若者をターゲットにしたチーム。
高齢者や、移動に不安を抱える人に目を向けたチーム。

一見すると、マーケティング演習のようにも見えます。しかし、この3つの設定は、実はグリスロ導入時に多くの地域で議論される論点と重なります。

「観光向けか、生活の足か」
「高齢者中心か、若い世代にも広げるか」

学生たちは知らず知らずのうちにグリスロ導入の縮図を体験していました。

グリスロの強みを音だけで伝える

トップバッターの「赤パプリカ班」が設定したターゲットは、40~50代の夫婦。「ゆっくり巡る鞆の浦」をテーマに、落ち着いたBGMとわかりやすいテロップで構成された動画は、完成度の高いPR映像になっていました。

印象的だったのは、港のフェリーを映すシーンであえてBGMを止め、エンジン音や波の音をそのまま入れた演出です。

「音へのこだわりは、とても重要だと思っています。グリスロは電動車両なので、とても静かなんです。普通の車で移動すると気づきにくい地域の音も、グリスロなら聞こえる。そうした特性が、映像から伝わってきました」

「静かさ」というグリスロの機能的価値を映像だけで伝える構成に、ヤマハ発動機の野口は称賛のフィードバックを送りました。

ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 LSM業務グループ グループリーダー 野口純(左)

言葉や説明を足さずに音だけを残したことで、「静かに走る」というグリスロの特性が、かえって際立つ、映像ならではの表現でした。

担当者も驚いた「ローアングル」の感性

続く「ジュニア班」は、若者をターゲットに設定。鞆の浦が、映画『崖の上のポニョ』やアニメ『ウルヴァリン』などのロケ地であることに着目し、「聖地巡礼×グリスロ」という切り口で発表しました。

フィードバックの中には、この切り口が、日本政府が行うロケ地への誘致・クリエイター支援の流れと重なるという指摘も。学生の発想が、思いがけず大きな文脈とつながった瞬間です。

また、学生ならではの感性とカメラワークにも称賛の声が上がりました。

「グリスロを撮影しているアングル、まあまあ下から、ローアングルで撮ってましたよね。私たち社員が撮ろうとするとどうしても立ったままの視点で撮ってしまいがちですが、それを違う角度から撮れる感性が素晴らしい」

ヤマハ発動機の田口がそうコメントしたように、低い視線で街を切り取る映像は、オープンエアなグリスロの「道路や街との近さ」を直感的に伝えていました

さらに、若者をターゲットとする動画ならではの改善点として、「客観」から「主観」への転換が示されました。

「ターゲットが同年代なら、ガッツリ自分たちが映し出されていてもよかった。モノを映すだけじゃなく、自分たちが楽しんでいる表情まで映すとかね」

「場所」の紹介だけでなく、そこで自分たちがどう遊び、どう感じたかという「主観」こそが、同世代の共感を呼ぶ最大のコンテンツになる。 理屈で説明するのではなく、身体全体で楽しさを表現することの重要性が浮き彫りになりました。

「安心感」をどう可視化するか

最後の「さかもと班」は、60代以上の高齢者や移動に不安がある層をターゲットにした動画を発表。特筆すべきは、グリスロの「坂に強い走行性能」を映像で直感的に伝えた点でした。

グリスロは「坂道はのぼれないのでは?」と思われがちですが、実際には、急な坂でも力強くのぼります。しかし、映像で「坂の勾配」と「安心感」を表現するのは難しい。グリスロのマーケティングを担当するヤマハ発動機・岩田は、その課題感から次のようにコメントしました。

「実際に行くとすごく急な坂なんだけど、映像で見せるのは難しい。でも、坂の下から見上げる構図で『こんな坂ものぼれるんだ』という安心感をうまく表現できていました」

アングルを工夫することで、言葉で説明する以上に説得力のある「安心感」を可視化してみせた学生たち。ターゲットが抱える「坂道移動の不安」に対し、映像表現で解決の一案を提示しました。

グリスロは、地域の価値を引き出す装置

坂道、路地、港の風景。
飲食店や休憩所、その地に住む人々のいつもの生活。

徒歩では遠く、車では通り過ぎてしまう距離を、グリスロはゆっくり走ります。

グリーンスローモビリティは、時速20km未満で、公道をゆっくり走行する電動モビリティと移動サービスの総称。地域の交通課題を解決する環境負荷の低いサービスとして、各地で導入が進められている

「グリスロは、速く目的地に着くための乗り物ではありません。ゆっくり移動することで、街の音や人の気配を五感で感じることができます。私たちがやっているのは、グリスロを通じて、人と人、人と地域、人と社会をつなぐチャレンジなんです」

ヤマハ発動機でグリーンスローモビリティ事業を牽引する森田が、グリスロの思想を説明します。

ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 LSM事業推進グループ グループリーダー 森田浩之

一方で、その価値を「どう伝えるか」という点では、現場ならではの悩みもあるようです。映像制作を担当する岩田はこう話します。

「グリスロって、魅力を伝えるのがなかなか難しいんですよ。ただの移動だったら普通の車でいい。オープンエアだからこその気づき、自然の音、グリスロの車内外で生まれる会話や交流の楽しさ……そういうものを映像でどう見せるか……」

ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 LSM業務グループ 
岩田浩嗣(左)

そんな中、ある学生が振り返りの中で発した言葉が、ヤマハ発動機のメンバーに新たな気づきを与えてくれました。

「グリスロは、『地域の価値を引き出す手段』だと思います」

グリスロは主役ではない。街と、そこに住む人、そこに訪れる人が主役である。グリスロは、その街が本来持っているけれど見過ごされている景色や、埋もれている音、匂い、人々の温かさを引き出すための一つの「装置」である。 学生の何気ない一言が、グリスロを「移動手段」ではなく、「地域の価値を引き出す存在」として捉え直す視点をくれました。

鞆の浦では、グリスロでゆっくり走るからこそ、港から路地の店先までの風景が“流れ”としてつながり、街の魅力が点ではなく面で見えてきます。

窓がない車両ならではの潮の匂いと波音を浴びながら、坂道の先の福禅寺・對潮楼(たいちょうろう)や、鞆の浦らしい町並みに自然と視線が向いていく。気になったお店があれば、ふと降りて寄り道も。江戸時代から続く伝統的な薬味酒「保命酒(ほうめいしゅ)」や練り物を手に取るうちに、鞆の浦の滞在が、“移動”ではなく“味わう時間”に変わっていく。

学生が言った「地域の価値を引き出す手段」という言葉は、鞆の浦の風景の中でも確かな実感として存在していました。

「忖度なし」が切り拓く、理想の姿

発表のハイライトの一つは、学生たちの「忖度のなさ」でした。 今回は、ヤマハ発動機のグリスロ担当者へ向けた発表会ですが、学生たちが作成した動画には、他社メーカーの車両が堂々と、しかも魅力的に映し出されていたのです。

これには、ヤマハ発動機の田口も苦笑いしつつ、称賛を送りました。

「今日、ヤマハ発動機で発表する場なのに、他社さんの車をバシッと映したのは……やっぱね、忖度なかったですね。素晴らしい。ここで変な気遣いをし始めたら、つまらない大人になっちゃうからね(笑)」

ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 ストラテジーリード 田口慎一郎
(一社)グリーンスローモビリティ協議会の副理事長も務める

「ユーザーにとって良いことはなにか」「その街を形づくっているものはなにか」をありのままに捉える。常識や忖度で大人が勝手に引いてしまう境界線を、学生たちは軽々と飛び越えていきます。

その姿勢こそが本質的な議論を生む鍵となるのかもしれない。そんなことを考えさせられる一幕でした。

大学生が体験した、グリスロの「数字で測れない価値」

発表会後の座談会。緊張から解放された学生たちから、率直な本音があふれました。

「正直、最初に乗った時は『スピードの出ないバスだな』って感じでした」

ある学生はそう告白しました。バスタイプのグリスロには、既存の公共交通と変わらない印象しかなかったと言います。しかし、鞆の浦でオープン型の「カートタイプ」に乗った時、感覚が一変します。

「バスタイプより、鞆の浦のカートみたいなやつの方が、俺は楽しかったです。風とかあるし、ガタガタ揺れるのが楽しい。若者が乗るなら、ああいうカートの方が需要があるんじゃないかな」

乗り心地の良さや走行音の静かさを追求しがちなメーカーの視点に対し、「揺れるのが楽しい」「カートみたいでいい」という若者の声。これは「移動の質」に対する大切な評価軸です。

カートタイプのグリーンスローモビリティ

さらに、別の学生は、体験を通じて、グリスロが持つ「体温」を感じていました。

「最初に乗った時、隣にご高齢のおばあちゃんがいらっしゃって。『これがあるからスーパーに行けるのよ』って話しかけてくれて。初対面なのに自然と会話が始まったんです。グリスロがその人の生活の支えになっているんだって、すごく感じました」

ただの移動手段だと思っていた乗り物が、誰かの生活を支え、見知らぬ人との会話を生むきっかけになっている。学生たちの素直な感想には、数字ではあらわせないグリスロの価値が、彼ら自身の言葉で表現されていました。

対話の先に見えた、グリスロの未来

学生たちの動画を見たアサヒタクシーの山田社長からは、こんな提案がありました。

「もしよければ、タクシーの中にサイネージを入れて、この動画を流したい。数年後に新しくなる乗り場や飲食部門でも、みんなが作ったものを流させていただいて、どんどんアピールしていきたい」

イベント後にお話しを聞いてみると、アサヒタクシーの車内でも学生たちの動画を放映することが決まったとのこと。学生たちの視点が、地域交通の現場で活かされていきそうです。

アサヒタクシー株式会社 代表取締役 山田康文氏
(一社)グリーンスローモビリティ協議会の副理事長も務める

都市や地方が抱える移動の課題に対し、グリスロができることは未知数です。しかし、利便性や効率といった機能面が重視されてきた交通の議論に、「楽しさ」や「コミュニケーション」といった要素を重ねることで、まったく違う価値が立ち上がる可能性があります。

武蔵野大学の学生のみなさんとの対話は、グリスロの未来の可能性を想像する時間となりました。

グリスロが各地でどのように使われ、どんな風景を生んでいるのか。
その取り組みや背景は、こちらのWebサイトでも紹介しています。

ヤマハ発動機 グリーンスローモビリティ Webサイト

※所属部署・役職は公開当時のものです。
※本記事は公開当時の取材内容および情報に基づいて構成しており、現在の状況とは異なる場合があります。

RePLAYでは
メールマガジンを配信中!

公開記事やイベント情報を
月に一度のペースでお届けしています。
ぜひご登録をお願いします!

メルマガ登録
記事をシェアする
LINE
X

私たちは共に遊びをつくる
パートナーを探しています

お問合せ

地球がよろこぶ、
遊びをつくる

ページ
先頭へ