デザインから「再生」を問い直す。ランドスケープとバイオミミクリーが描く未来【イベントレポート】
デザインから「再生」を問い直す。バイオミミクリーの実践者、ランドスケープデザイナー、モビリティデザイナーが集い、自然から学ぶ“再生のデザイン”を語り合いました。
デザインから「再生」を問い直す。バイオミミクリーの実践者、ランドスケープデザイナー、モビリティデザイナーが集い、自然から学ぶ“再生のデザイン”を語り合いました。
「デザイン」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
美しいプロダクト、洗練された空間、目を引くビジュアル——多くの人がイメージするのは、何か新しいものを「つくる」行為かもしれません。しかし、デザインの本質は、それだけではないようです。
一方で、こうした課題に対して「ビジネスとして取り組むこと」の難しさも語られます。環境保全は大切だけれど、どうやって収益を生むのか。持続可能な形で事業化できるのか。そもそも、人を巻き込めるのか。
2025年12月22日、「リジェラボ」で開催されたトークイベント『PLAY for REGENERATION Vol.5』のテーマは「自然から学ぶ『再生のデザイン』。バイオミミクリー※の実践者、ランドスケープデザイナー、そしてモビリティデザイナーという、異なる領域で活動する3人が集まりました。
※バイオミミクリー:自然界の生き物や仕組みをヒントに、技術やデザイン、ビジネスの課題解決に活かす考え方。例としては、カワセミのくちばしを参考にした新幹線の先頭形状がある
彼らが語ったのは、「つくる」ことではなく「育む」こと。完成形を目指すのではなく、変化を前提としたプロセスをデザインすること。そして、自然や人間の営みから学び、それを「再編集」していく姿勢でした。
今回の記事では、デザインという行為を通じて「再生」の意義を問い直した、そんなイベントの模様をお届けします。
(興味を持っていただけたら、ぜひ次回以降のイベントにご参加ください!)
登壇者プロフィール
東 嗣了 (一般社団法人バイオミミクリー・ジャパン 代表理事/株式会社SYSTEMIC CHANGE 代表取締役)
米国大学院にてバイオミミクリーを専攻。コスタリカなど世界でのフィールドワークを経て、日本人初のバイオミミクリー・スペシャリストを取得。組織開発コンサルタントや組織と関係性のためのシステムコーチとして、自然界の知恵をビジネスやデザインに応用する取り組みを推進している。幼少期から自然と釣りを愛し、アリゾナでのネイティブアメリカンのワークショップ参加をきっかけに、自然との対話を深める。三島 由樹 (株式会社フォルク 代表)
ランドスケープデザイナー。アメリカで学び実務経験を積んだ後、日本に帰国し、大学教員を経て2015年株式会社フォルクを設立。「シモキタ園藝部」をはじめ、地域の人々と共に緑を育て、管理する仕組みをデザイン。全国各地にて、まちとみどりと人をつなぐ場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営に取り組む。東京藝術大学非常勤講師 。主な受賞として、緑の都市賞 内閣総理大臣賞、日本造園学会賞、土木学会デザイン賞など。中村 智 (ヤマハ発動機株式会社 技術・研究・デザイン本部 技術・デザイン統合戦略部)
幼少期から世界各地で過ごし、イギリスとドイツでモビリティデザインを学ぶ。ベルリンを拠点にフリーランスとして活動した後に、2013年にヤマハ発動機へ。クリエイティブ・ストラテジストとして、デザインと戦略を往復しながら、プロダクトの背後にあるストーリーを価値へと変換する役割を担っている。コンセプトカーや未来のモビリティを描く先行デザイン領域を担当。柔軟で自由な発想を大切にし、デザインを通じてアイデアに命を吹き込むことで、未来の社会や人々の前進に寄与することを目指している。
人間界の知恵を一度黙らせ、自然へ問いを投げよう
最初に登壇したのは、バイオミミクリー(生物模倣)の専門家、東嗣了さん。代表理事を務める一般社団法人バイオミミクリージャパンでは現在、建築会社や研究開発部門へのコンサルティング、高校生・大学生向けのワークショップ、子ども向けプログラムなど、幅広い層に自然界の知恵を届けています。
代表理事を務める東さんの出自は、意外にも生物学者でもエンジニアでもデザイナーでもなく、ビジネスコンサルタントだといいます。
「私は組織開発・人材育成を中心にビジネスの世界で生きてきた人間です。なぜ、そんな私がバイオミミクリーを始めたのか。それは、どんなに売り上げを上げても、社会課題を解決できないという限界を感じたからです」
15年前、まだSDGsという言葉すらなかった時代からサステナビリティの世界に入った東さん。企業にその重要性を説いても「売り上げが上がれば関係ない」と言われる時代でした。しかし、社会は大きく変わり、啓蒙だけでなく実践が求められる時代に。そこで出会ったのがバイオミミクリーでした。
「アメリカのサステナビリティ関連のカンファレンスで、バイオミミクリーのブースは立ち見が出るほどの人気でした。ボーイングやユニリーバなど世界中の有名企業が、バイオミミクリーを活用してイノベーションを起こしている。雷に打たれたような衝撃でした」
バイオミミクリーとは何か。東さんは基本から説明しました。
「バイオミミクリーは、1997年に生物学者のジャニン・ベニュスが作った造語です。バイオは生命や生き物、ミミクリーは真似する・模倣するという意味。日本で最も有名な事例が新幹線です」
トンネル進入時の騒音問題を解決するため、JR西日本の開発部長がヒントにしたのがカワセミが水に飛び込む時に抵抗なく魚を捕る、そのくちばしの形状。意外にも、開発部長が日本野鳥の会のメンバーだったことが、新型車両の誕生に貢献したわけです。
東さんが今回のイベントテーマに合わせて紹介したのは、鳥の衝突問題を解決した事例。
「2020年、アメリカで鳥が高層ビルに衝突して1500羽が死んだというニュースがありました。調べてみると、アメリカでは毎年10億羽の鳥がバードアタックで死んでいる。日本でも結構あるんです。今のビルは美しく、景観を大事にして自然に溶け込んでいるので、鳥がぶつかってしまう」
この問題に対し、ドイツのある会社はバイオミミクリーでは“鉄板”の問いを立てました。「自然界だったらどうやってこの問題を解決するの?」──答えは、クモの巣にありました。
「鳥はクモの巣に引っかからない、見えるんです。クモにとっても、鳥に毎回壊されたらエネルギーがかかって非効率。お互い共存するために、クモの巣は紫外線を反射していて、紫外線が見える鳥は引っかからない。そういう共存の仕組みがあることがわかりました」
この原理を活かし、紫外線を反射する窓ガラスを開発。鳥には糸状の形状が見えますが、人間には見えません。デザインも景観も満たされ、自然界に優しいガラスが実現しました。
「自然界は38億年かけて、何が機能し、何が適切で持続可能かを検証してきました。ゴミという概念はなく、循環してきたわけです。私たちが今向き合っている課題を解決するヒントが、この自然界にあるんじゃないか」
バイオミミクリーには大きく3つの概念があります。一つ目は「エトス(生命に対する態度)」。単に真似するのではなく、生命の原理原則による評価が大事だといいます。二つ目は「様々なレンズを使った模倣」。バイオミミクリー思考というフレームワークを使いながら、デザインを抽出していきます。三つ目は「つながりを取り戻すこと」。
「バイオミミクリーを学んでいた時、『人間界の知恵をもう一度黙らせなさい。そこで考えるな。自然に問いを投げろ』とすごく言われました。38億年に対する敬意が大事なんです。私は、この統合的な考え方に惹かれました。単に真似するだけ、イノベーションだけだったら、多分興味を持たなかったと思います」
最後に東さんが強調したのは、専門性をつなぐことの重要性でした。
「バイオミミクリーの世界には、研究機関の方、エンジニア、企業、学校、専門家がいます。自然のフィールドをつなげながらイノベーションを起こす。都市計画のデザイナーと熱帯雨林の研究家をつないだり、地域住民も交えながらデザインを考えたり。私は組織開発の人間なので、蜂の巣の研究をしながら働きやすい組織を考えたり。いろんなものがつながってイノベーションを起こしていくのが、バイオミミクリーの世界観なんです」
ランドスケープデザインは、役割を「再生」する
続いて登壇したのは、ランドスケープデザイナーの三島由樹さん。八王子出身で、2年前に事務所を地元の八王子へ戻し、元々は駐車場だった場所を地域に開かれた庭に変えた「ajirochaya」という施設で、デザイン事務所を営んでいます。
「まず、ランドスケープデザインとリジェネラティブの関係を考えると、ランドスケープは何か新しいものを作るというよりは、常に再生の中にあります。常にリノベーションし続けた結果がランドスケープである、ともいえます」
三島さんが強調するのは「プロダクトではなくプロセスをデザインする」という考え方です。一般的にランドスケープデザインは「景観設計」と訳されますが、三島さんはこの定義に「少しモヤモヤする」と言います。
「何を作るかというよりは、何を育むか。何かが育まれる土壌を作っていくことが、ランドスケープデザインの本質だと思っています」
この考え方に気づかせてくれたのが「東京ストリートガーデン」というプロジェクトでした。根津という町で路上の植木鉢に注目し、それらを地元のお寺で借りたリアカーで集めて展示。愛着が詰まった植木鉢を貸してくれた人たちが、会場の古民家カフェに集まると、園芸談義を始めたといいます。
「普段つながっていなかった人たちが、植物を通じて関係性を作っていきました。ものを作るというより、植物や園芸を通じて関係性を作っていくことが大事だと気づきました」
こうした背景をもとに取り組んできたのが「シモキタ園藝部」というプロジェクトです。小田急線の地下化によって生まれた「下北線路街」の緑を、町の人たち300名が小田急電鉄から仕事として受け、手入れをしていく取り組みです。
三島さんが課題として感じていたのは、再開発で生まれた緑の管理方法でした。通常は管理業者が維持していくため、町の緑は住民が触れない、使えないものになってしまう。そこで提案したのが、「維持管理」ではなく「活用管理」という考え方です。
「植栽管理という仕事を、専門職の仕事から町の文化的な行為へと再編集する。そうすると、管理がコストではなく、関係を育てる社会的な行為になっていきます」
シモキタ園藝部で大事にしているのは、一人ひとりのプロジェクト。マスタープランがあるわけではなく、一人ひとりがやりたいことを手掛けていき、その総体として全体像ができていくことを大切にしています。
三島さんのプロジェクトのもう一つの特徴が、その場にある材料を使った環境再生です。徳島県石井町で進めている庭の再生プロジェクトでは、先人が家を水浸しにしないため、あるいはより野菜をたくさん採るために生み出した合理的な知恵を、現代の課題に応用。アスファルトやコンクリートを砕き、環境をより良くしていく材料として使い直します。
「ただ物質を回しているだけではなく、役割を循環させているんです。今までは道を平坦にするという役割だったものを、これからは水をより良く通す役割にしていきます」
三島さんが各地で実践するのは、こうした環境再生のワークショップたち。鳥取県江府町では屋根から落ちる雨を排水するのではなく地面に浸透させる昔の知恵を、瓦や藁、竹といった地域にある材料を使って再現。和歌山県田辺市の学校では、子どもたちが校庭作りをカリキュラムの一環として体験し、竹を使った暗渠づくりや植物のフェンス作りに取り組みました。
さらに三島さんが力を入れているのが、「地域性種苗」という考え方です。ホームセンターで買ってくる植物ではなく、その地域に生えている植物の種から育てる。地域のDNAを大事にしたワークショップを通じて、子どもから大人までが地域の木を地域で育て、植えていく循環を作っているのです。
「レンズを変えていく」と見えるものも変わっていく
ここからはヤマハ発動機の中村智を交え、登壇者によるクロストークへ。中村は幼少期から世界各地で過ごし、イギリスとドイツでモビリティデザインを学んだ後に、ヤマハ発動機へ入社。コンセプトカーなど未来のモビリティを描く先行デザイン領域を担当してきました。
「ヤマハ発動機の歴史の中で作り出してきた価値観を再編集して、新しいものに応用したり、新しい価値を作ったりできないか、と試みてきました。再編集する、問いを変えるといったことは、今日のお二人のお話とも非常に共通点があると思っています」と中村は言います。
この日のクロストークでまず語られたのは、デザインに対する発想や心構えについて。
東私自身はデザイナーではありませんが、バイオミミクリーでは「レンズを変えていく」という考え方があります。植栽を手入れする時でも、竹になぜ節があるんだろう、なんで空洞なんだろうと問いを持つ。好奇心を持つことが全てのスタートで、都市のビルの中でも「どうしてこうなんだろう?」と不思議なことに出会えます。
三島東さんの「レンズ」は同感ですね。デザイナーというと、自分のスタイルを押し出すイメージがあるかもしれませんが、私はどちらかというと人のことを好きになっちゃうタイプ。特に地域で暮らすおじいちゃん、おばあちゃんや子どもたち、いろんな世代の人たちに話を聞くことを大事にしています。そこから自分が今まで持ってなかったレンズをかけさせてもらう。これは民俗学者の宮本常一さんの本と出会って学んだアプローチです。
中村工業デザインでは人間中心のヒューマンセンタード・デザインという考え方があり、「使う人のことを考えた結果としての形」を考えていきます。その中で私が大切にしているのは、コンセプトを立てて、そこへ導くための「問い」をどこに見つけるかということ。問いの設定が変わると、ものの見方が変わります。その問いを、いろんな角度から考えられるかどうかが、次の発想につながっていくと思います。
東幼少期から自然が大好きで釣りも大好きでしたが、一度離れる時期がありました。社会人になってからまた繋がりたいと思い、子どもと昆虫採集をするうちに見える景色が変わってきました。アリゾナでシャーマンのワークショップに参加した時、自然の中を歩いていて鳥が飛んだり木の形を見た瞬間に、自分の問題が晴れた感覚があった。そういう体験から、自然界にあるものをプロダクトやサービスに翻訳できないかと考えるようになりました。
三島大学入学時は建築の分野から入り、安藤忠雄さんの「光の教会」を見て憧れの念を抱きました。ある日、里山の風景の良さ、作者不詳でもただ美しいものがあることに気づき始めました。民芸運動の柳宗悦さんたちが語った、名もなき人が作った器や彫刻の美しさ。そういう「アノニマスデザイン」に惹かれ、それをどう作り出せるかを今も試みています。
中村私は元々スーパーカーがかっこいいと憧れた世代で、フェラーリをデザインしている仕事があるんだというところから入りました。でも、考え方を多角的にしなければと思い始めたのは、ドイツの大学院でのディベートの授業。あるデザインについて肯定と否定の両方の視点から考えさせられたことが、問いを突き詰めていく考えの原点になっています。
KPIの呪縛を、どう超えるか?
話題はビジネスとデザインの掛け合わせへ。ここで浮上したのが、KPI(重要業績評価指標)との向き合い方という課題でした。
中村モビリティをデザインしていく時、基本的には使う人のことを思ってデザインするのが原点ですが、最近はサステナビリティも求められます。捨てることまで考える、そもそも捨てない方がいい、ということも含めてです。作ったものがどんな世界で動いているといいのか、その世界に踏み込んでデザインできないかと考えています。三島さんの「シモキタ園藝部」のように、いろんな人が関われるモビリティの在り方、モビリティが存在する移動以外の理由みたいなものを広げられないか。今日のお話はヒントになると思って伺いました。
三島私の仕事の悩みは、常にクライアントのKPIとの戦いです。クライアントと、KPIをどう設定するかを一緒に考えたりします。でも結局、稟議を通すため、予算をつけるための建前になりがちです。特に大企業がリジェネレーションや環境への取組を、グリーンウォッシュではなく、そしていかにKPIという呪縛から逃れて、本当に意味のあることをやれるのか。どういうアプローチをすればいいのかと日々感じています。
中村とある会社で、新しいことをやる時には「失敗をKPIに入れてしまえばいい」と聞いたことがあります。チャレンジをしていて必ず成功するとは限らない場合、失敗したということから何を学ぶのか、どう変化していけるのかをKPIに設定する。自然界の中でもおそらく失敗を繰り返して今の形になっているので、突然の正解があるわけじゃない。プロセスとして設定できればいいのかなと思います。
三島失敗がKPIになるのはすごくいいですね。あとは、そもそもKPIじゃないところ、数値化できないことをきちんと業績に結びつけましょう、みたいなことを大企業が言い出したら、本当に世の中が変わるはず。それをやれているのは家族経営企業だけだと思うんですよ。「跡継ぎの3代目」などと仕事をすることが多いのですが、彼らはKPIの呪縛から外れた提案をかなり受けてくれる。地元の人からの評判など、自分たちの儲けだけを考えていないからでしょう。大企業的な論理と少し外れたところでビジネスへ投資できる。そういうところから大企業が学べることもあるのではないでしょうか。
東バイオミミクリーの話でいうと、今までは「便利さの追求」「効率的なイノベーション」「競合に打ち勝つ」といった世界観で、生物模倣技術に寄っていました。ただ、それによっていろんなネガティブなインパクトも起こっている。たとえば、バイオハッキングという考え方で、「トンボの飛行体を真似て殺傷兵器を作る」というのはやはり考えものです。自然界を単に真似するだけではない世界観が必要でしょう。
もう一つ、プロセスの話にすごく共感しています。イノベーションを起こすことやプロダクトができることはもちろん素晴らしいですが、バイオミミクリーを切り口として、自然界に対する気づきを得た瞬間に、私たちの考え方や態度は変わっていきます。単純に環境を守ろう、再生しようというのは、遠い存在で分断されている。生き物や植物への敬意を感じた瞬間に、私たちの態度は変わる。そのプロセスが、再生やリジェネレーションの本質じゃないかと思っています。
人間もまた、自然の一部である
三島徳川吉宗が桜を川の土手に植えてお花見という文化を作った話があります。すると、人がそこを踏みしめて土手が安定する。土木工事とお花見という楽しみ事をセットにしたわけです。人間には愚かさもあるかもしれないけれど、人間らしいふるまいを肯定したり活用したりすることが大切だと思っています。そういう考え方は、バイオミミクリーの世界にも見られるのでしょうか?
東すごく大事な問いだと思います。花を楽しみにして、みんなでそれを鑑賞するというのは、私たちが持っている「力」だと思います。バイオミミクリーでもよく「We are nature(私たち人間が自然自身である)」という言い方をしますね。
三島ランドスケープ・エコロジーという分野で「ヒューマン・アズ・エコロジカル・エージェント」という言葉があります。人は環境を壊す悪者みたいな位置付けをよくされるけれど、よく考えてみたら人ほど環境に影響を与えている存在はいない。振る舞いを少しでも変えることができたら、ものすごくインパクトを起こせるんじゃないか。そのきっかけの一つが、僕は園芸だと思っています。必要なのはプロの技術ではなく、みんなが種の植え方や剪定の仕方など、前近代の人が当たり前のように持っていた植物に対する知識と技術を身につけるということ。それが広まっていくと、結果的に環境や社会にいいことが起きてくる気がします。人を悪い存在と決めつけず、むしろ、そのポテンシャルを活かしていけるといいのでしょう。
分断を超えて、専門性をつなぐ
クロストークの最後、オンライン配信を見ている視聴者に向けて、それぞれがメッセージを送りました。
中村工業製品を作っている会社として、人がいるからこそ作れた素晴らしさというのもあるので、そこは引き続き探求していきます。ただ、今回お二人のお話を伺って、どうやって社会の中で共存していくものとして考えられるのか、人の営みとして周りの人と一緒に共存していけるのかも含めて、考えていければいいなと思いました。
三島今回のようなヤマハ発動機の取り組みも踏まえて、さらにリジェネラティブの本質を考えるきっかけが増えたらいいと思っています。特に大企業がグリーンウォッシュになっていくと、みんながそれに追随してしまう。だからこそ大企業から「私たちはリジェネラティブをこういう風に捉えています」と提案していくタイプの場を作っていけると望ましいでしょうね。そこにはいろんな価値観があっていいはずです。
東バイオミミクリーは一つの考え方で、それが全てだとは思っていません。言わば、スパイスやエッセンスです。今、活動していて思うのは分断が起こっているということ。研究室や企業のR&Dなどが進んでも、それが閉じた世界になっている。すごくもったいないです。ある昆虫博士は「僕はもう人間界に戻れないと思ってました。でも、僕の昆虫の知識が実はこんなふうに使えるってなると、すごい嬉しいです」と言ってくれました。専門性を持つ方々がもっともっとつながっていけると、私たちが予期しないものが生まれていくんじゃないか。すごくワクワクする未来が待っているんじゃないかと思っています。
プロセスをデザインする時代へ
この日のトークセッションを通じて見えてきたのは、デザインという行為の再定義でした。完成形を目指すのではなく、変化を前提としたプロセスをデザインすること。人と人、人と自然をつなぐ関係性を育むこと。そして、既にあるものの役割を再編集していくこと──。
三島さんの言葉を借りれば、「消費されるデザインは、ケアや管理を外注してきた。これからの再生型のデザインは、ケアや管理が価値の中心になってくる」のです。
また、東さんが語ったように、自然界のすごさに気づいた瞬間に、私たちの態度は変わっていきます。中村が示したように「問い」を変えることで、ものの見方も変わります。そして、人々が自らの手をかけたことで、結果的に街が美しくなっていく。そういったプロセスへの働きかけこそが、これからの「再生」には必要な視点なのかもしれません。
懇親会では、会場のあちこちで参加者同士が熱心に会話を交わす姿がありました。それはまさに、デザインを通じて「再生」を問い直すという問いに、参加者一人ひとりが向き合った姿だったといえるはずです。
寿司が食べられなくなる未来を避けるために。100年先の子どもたちに豊かな海を残すために。実践者たちの挑戦は、これからも続いていきます。
最新のイベント情報は、リジェラボの公式サイトにてご覧いただけます。
https://www.yamaha-motor.co.jp/regenerative-lab/event/
執筆:長谷川賢人
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