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海を守り、海で遊び、海で稼ぐ。「海の再生」をビジネスにする挑戦【イベントレポート】

「PLAY for REGENERATION」第4弾。海の環境悪化に向き合い、藻場再生、昆布養殖、海藻研究、水中清掃を行う4人の実践者が想いを語ります。

「PLAY for REGENERATION」第4弾。海の環境悪化に向き合い、藻場再生、昆布養殖、海藻研究、水中清掃を行う4人の実践者が想いを語ります。

2025年12月25日


寿司が食べられなくなる未来がやってくる……?!

磯焼けによる海藻の減少、海洋ごみによる生態系への影響、気候変動による海水温の上昇──日本の海は今、静かに、しかし確実に変化しています。

一方で、こうした課題に対して「ビジネスとして取り組むこと」の難しさも語られます。環境保全は大切だけれど、どうやって収益を生むのか。持続可能な形で事業化できるのか。そもそも、人を巻き込めるのか。

2025年11月17日、「リジェラボ」で開催されたトークイベント『PLAY for REGENERATION Vol.4』では、海の再生に多様なアプローチで取り組む実践者たちが集まりました。ブルーカーボンの可能性を追うヤマハ発動機、横浜で昆布を養殖する幸海ヒーローズ、海藻の研究・栽培・販売に挑むシーベジタブル、そして釣りと水中清掃で循環をつくるMarine Sweeper。

彼らが語ったのは、「まず自分が海で遊び、楽しむこと」の大切さでした。今回の記事では、イベントで語られた海の再生×ビジネスの可能性をお届けします。

(興味を持っていただけたら、ぜひ次回以降のイベントにご参加ください!)

登壇者プロフィール

藤川 辰徳 (ヤマハ発動機株式会社 技術研究本部 共創・新ビジネス開発部 企画1グループチーフ)
2013年にヤマハ発動機へ入社。ASEAN地域の海外工場支援やオートバイの生産準備推進を経て2023年より現職。「100年先の後世に豊かな海を残したい」という想いのもと、藻場再生プロジェクトを推進し、海洋の社会課題解決に挑む。企業として気候変動対策と海洋保全を両立させる新たな事業モデルの構築に挑戦中。

富本 龍徳 (合同会社幸海ヒーローズ 代表)
横浜市金沢区でコンブ養殖を起点に、海の環境保全と地域活性化を両立。「日本の海にコンブの森を作る」をミッションに掲げ、横浜・金沢八景で昆布養殖を展開するほか、遊び心をもって食品開発や銭湯コラボなども展開。グリーンカーボンの約5倍のCO2を吸収する海藻の力に注目し、ブルーカーボンの推進にも貢献している。

高山 奈々 (合同会社シーベジタブル 事業開発マネージャー)
地域プロデュースの領域でキャリアを重ねた後、海藻の研究から食文化づくりまで一貫して取り組むシーベジタブルへ入社。日本沿岸に生息する1500種類以上の海藻の可能性に着目し、事業化を進める同社の姿勢に共感。「海藻の食文化が広がれば社会は良くなる」という信念のもと、百貨店との企画運営や、企業・自治体・漁業者との共創プロジェクトを推進している。

土井 佑太 (Marine Sweeper 代表)
会社員から海洋保全活動へと転身。釣り具の水中回収・再製品化を行い、釣りを通した環境保全を全国で展開。水辺の保全活動を釣り人主体で進めるほか、湖や海でのクリーンアップ活動にも注力している。回収した釣り具をリサイクルしてルアーに再生するなど、循環型のビジネスモデルを推進する。

100年先の子どもたちに、豊かな海を残したい

まずは登壇者たちのプレゼンテーションからスタート。最初に登壇したのは、ヤマハ発動機の藤川辰徳。オートバイや船舶など、多くの製品を生み出してきた同社が今、海の再生事業に本格的に取り組んでいます。

「ヤマハ発動機は自然の恵みがあってこそ、人々に遊びのよろこびを提供し、人間の可能性を広げる製品を生み出してきました。しかし、昨今の環境変化により、その恩恵をこれまでのように受けられなくなる未来が訪れる可能性があります。だからこそ、気候変動対策や生物多様性への貢献に真剣に向き合う必要があると考えています。」

藤川が注目するのはブルーカーボン、海洋生態系が吸収・固定する二酸化炭素です。陸上の森林による吸収を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、海藻や海草による吸収を「ブルーカーボン」と呼びます。特にアマモなどの海草は、大気中の二酸化炭素を吸収し、海底に炭素を蓄積する力を持っています。

「海にも森があるんです。沿岸の藻場は、陸の森と同じように二酸化炭素を吸収し、イカやタコ、魚たちといった生き物の住処にもなっています。でも近年、海の環境変化でこの『海の森』が失われつつあります」

そこで藻場再生による海洋生態系をよりよくしていく取り組みを進めていますが、「収益化には苦労している」と藤川は話します。「今はロマンを語ることしかできないんですけど……事業化の糸口に、いろんなエリアで活動を広げていきたい。海への関心を高めながら関係人口を増やし、最終的には100年先の後世にも豊かな海を残していきたいです」と笑顔をのぞかせました。

昆布で「海の森」をつくり、地球を救う

続いて登壇したのは、幸海ヒーローズの富本龍徳さん。横浜・金沢八景の八景島シーパラダイスのジェットコースターの周辺の海で昆布養殖を行うというユニークな取り組みで注目を集めています。

富本さんのプレゼンテーションは、遊び心満載。「海にイノベーションならぬイソ(磯)ベーションを起こす!」という思いに始まり、昆布の魅力を広めるアンバサダーを「コンバサダー」と名付けたり。堅苦しくなりがちな環境問題を親しみやすく伝える工夫が随所に見られます。

「今、日本中で磯焼けが広がっています。海藻がなくなるということは、魚の住処がなくなるということ。酸素の供給源もなくなり、二酸化炭素の吸収・循環も生まれません。例えば、回転寿司に行っても魚の寿司じゃなくて、肉の寿司や野菜の寿司しか回っていない未来が、すぐ目の前に来ているんです」

昆布の生産量も、ここ30年で右肩下がり。業界全体に「斜陽産業だ」という空気が漂っていたと言います。

「でも、昆布にはすごい力があるんです。杉の木と比べても、5倍の二酸化炭素吸収量がある。海の温暖化対策として、昆布は非常に有効なんです」

幸海ヒーローズは、活動の前進となる里海イニシアティブの時代に、横浜市が運用していたブルーカーボン・クレジット認証制度を通じて、日本で初めてコンブによるクレジットを取得しました。現在は北海道でもプロジェクトを展開し、昆布を活用した商品開発も進めています。

「昆布の力は食品だけじゃありません。老舗企業とのコラボで化粧品を開発したり、ビールを作ったり、温泉にも使えます。電気自動車から電源供給して昆布の足湯イベントをやったりも。使用後の昆布は肥料にして、完全なサーキュレーションを目指しているんです」

富本さんは呼びかけます。「僕は常々、一人じゃ地球は救えないと思っているんです。だからこそ、いろんな人を巻き込んでいきたい。ぜひ一緒にやりましょう!」

1500種類の海藻が、日本の海に眠っている

シーベジタブルの高山奈々さんは、会場に問いかけました。

「皆さん、何種類ぐらいの海藻を食べたことがありますか?」

昆布、わかめ、海苔、もずく、ひじき……会場からは次々と海藻の名前が挙がります。しかし、日本の沿岸海域には1500種類以上の海藻が生息していると言うのです。さらに、実は毒がなく全てが食用になる。そんな海藻は世界的にも注目されており、生産量は20年間で3倍以上に増加。世界銀行は、海藻市場が2030年までに1.7兆円になると予測しています。

日本は縄文時代から海藻を食べてきた、世界で最も古い海藻文化を持つ国の一つ。それでも食べているのは約50種類で、1400種類以上はまだ未知なる食材だといいます。そんな海藻を扱うシーベジタブルの強みは、種苗を育てる研究開発力。採取した母藻から種苗を生産し、陸上栽培と海面栽培の両方を展開しています。

「もともとは『すじ青のり』という海藻の生産から始まった会社です。天然すじ青のりの主産地だった高知県の四万十川では1980年代以降に収穫量が大幅に減少し、各社から『国産のものを使いたい』という相談を受けて、地下海水を使って陸上で栽培することに成功しました」

全国的に黒海苔の生産量が激減する中、2024年には陸上で黒海苔の量産にも成功。さらに、海面でも様々な海藻を栽培し、その効果が出ていると言います。

「海藻を栽培しているエリアとしていないエリアを比較すると、ワレカラやヨコエビといった葉上動物の個体数が大きく増え、それを食べに来る魚類も最大36倍も増えたというデータが出ています。海藻を育てることで、海にポジティブな影響があるんです」

シーベジタブルでは社内のシェフとともに、海藻の新しい楽しみ方を模索しながら、加工品の開発も進めています。三越伊勢丹とのコラボレーションも実現し、百貨店の地下で海藻を使った惣菜やスイーツが並ぶようになりました。

「想像もつかない使い方を皆さんが考えてくださるので、そういったコラボレーションから海藻の可能性もさらに広がっていくと思っています」

「楽しみながら」海を守るには?

「実は僕、普段は海に潜って金目のものを拾っているだけなんです。トレジャーハンティングみたいなものですね。遊んでお金が増えるって考えたら、ワクワクしませんか?」

そう語るのは、Marine Sweeperの土井佑太さん。会社員から海洋保全活動に転身し、全国の釣り場で水中清掃を行っています。

土井さんが見せたのは、実際に海中で撮影した写真。そこには、ごみだらけの海底、釣り糸に絡まったウミガメ、釣り針に引っかかったウツボやカニの姿がありました。どれも土井さんが自ら潜って撮ってきた写真です。特に衝撃的だったのは、カニの写真。本来10本ある手足のうち、8本を失っているカニが、それでも釣り糸から脱出できずに死んでいました。

「引っかかったから自分で手足を切って脱出しようとしたんだと思います。あと1本を切ったら脱出できそうだけれど、1本では後に餌を食べられなくなって死ぬ。ここで死ぬか、自分で手を切って餓死するか——そんな究極の選択を迫られていたのでしょう」

こうした光景が、私たちの見えない水中で日々起きている。それを何とかしようと、土井さんは全国10箇所近くで水中清掃活動を展開しています。例えば、回収した釣り具は、リサイクルしてルアーに再生。循環型モデルを志向しますが、土井さんが強調するのは、まず消費者の行動変容が必要だということ。

「最初は環境に良い製品を作れば売れると思っていましたが、失敗しました。消費者が環境重視の選択をしないと企業も動かない。だから今は、教育・普及啓発に力を入れています」

難易度が高い環境ビジネスへのトライは「経験値もたくさん入ります」と自身の成長機会でもあると言います。挑むのは「ネイチャーポジティブな経済をどう作るか」。地球環境という資源をいかに高く売り、その分だけ地球資源を回復させられるのか。土井さんの挑戦は今日も続いています。

海のビジネスは「利権と合意形成」に壁がある

ここからは、登壇者全員によるクロストークへ。会場からの質問にも答えながら、海の再生ビジネスの課題と可能性を深掘りしていきました。

海で事業を展開する上で、皆さんが直面している課題について教えてください。

土井海のビジネスって、利権との戦いになるんですよ。特に「漁業権」と「地先権」。これらの権利をいかに侵害しないか、もしくはこの権利と共に協業できるか。権利侵害になるとその地域でのビジネスは絶対にできないので、まずここの知識を高めないといけません。 地域との合意形成が一番のポイントです。どんなに素晴らしいソリューションを持っていても、それを受け入れてもらわないと進まないんです。

高山本当におっしゃる通りだなと思って聞いていました。シーベジタブルも海で海藻を栽培する時には絶対に漁師さんにお世話になるので、基本的には現地の漁業権を持たれている方と連携する形になります。自分たち1社でできることは非常に少なく、私たちのように海藻ビジネスを幅広く手掛けようとすると、様々な方と協業が必須です。最近でも、秋田県での養殖藻場*1造成で日本郵船からご支援をいただくことになりました。
*1:一般社団法人グッドシーが提唱。海藻を海中でロープや籠を使って育てることで、海の生態系を育む藻場の役割を果たす。

富本やっぱり合意形成が大事ですよね。僕らも昆布養殖をするうえで漁業権がないので、各地で展開するなら漁師さんとパートナーシップを組むしかない。彼らにどうやって動いてもらうかというと、まずは経済的なメリットをしっかり説明することからです。例えば昆布養殖は冬場、どうしても漁獲量が下がるタイミングでの副収入につながります。自治体と話す時も同様ですね。

藤川私も同感で、地域との合意形成が大事。ブルーカーボンの話でいくと、海の森を増やそうと藻場を作るうえで海藻などの養殖を始めたけれど、「どうやら今年は海藻が売れるらしいから収穫したい」という意思決定がされることもある。どうしても経済合理性が強く働くなかで、社会的インセンティブのほうに惹きつける、行動変容をいかに起こせるのか、という観点は常に持ちながら活動しなければならないと思っています。

「遊び」と「遊び心」が、人を動かす

皆さんの活動に、市民はどう関わればいいでしょうか?

土井今年、海に行った方、どのくらいいますか?やっぱり海に触れる機会、特に子どもたちは減ってしまっているんです。守ろうと思っている対象を大切に思うためには、そこでの経験が必要でしょう。海遊びをしていない人は、海を守ろうとはあまり強く思わないはず。寿司が好きなら思うかもしれないけれど(笑)。

そういった愛を育む上でも「遊ぶ」ことは大事。もっともっと皆さん、海で遊んだ方がいいと思います。そうすると見えてくる課題とか、やりたい使命感とかも強くなる。僕のところは水中清掃がメインですが、マリンアクティビティのガイドも続けている理由でもあります。まずは遊びに来てもらうことが第一歩かなと思います。

高山ぜひ海藻を食べてください!シーベジタブルとしては、まず食べてもらうことで収益を得て、海藻を育て、海を豊かにしていくというモデルです。シェフやお客様からも「こんなに海藻って美味しいんだ」と、本当にびっくりしていただけます。実は私自身も、友人の結婚式の引き出物に入っていたシーベジタブルの「すじ青のり」があまりに美味しくて、それがきっかけで働くことになったんです。

富本あとは環境問題って、どうしても漢字ばかりで堅苦しいので、それをどうやって魅力的に見せるかに遊び心が必要かなと。僕らがポップな印象を与えられるようなネーミングなどを積極的に使うのもその一つですね。それから、あえて自分の失敗や困りごとを発信するようにしています。「環境ビジネス・環境問題に関わりたい」と漠然と思う人へ、僕らの「助けて!」が届くと実際の活動につながるんです。

藤川ヤマハ発動機は海で楽しむための乗り物を数多く手がけている会社です。私は「こだわりを持って熱狂を生み出すことが得意な会社」だと思っています。まずは海での「遊びの余白」をつくり、そこから熱狂へと高めていく。その瞬間こそ、人の心を最も揺さぶるはずです。藻場の再生についても、そうした感情と結びつけられないかと、妄想しながら話を聞いていました。

土井僕らの事業は海に潜るトレジャーハンティングで、「海で遊んで1万円分のゴミが拾えた」みたいな感覚なんですが、それも人を巻き込む上ではすごく大事かなと思います。楽しいお仕事でもらえる1万円と、すごくしんどいお仕事してもらう5万円があるとして、特に若い世代は前者の1万円に心躍る人たちの割合が多い印象です。若手活躍という意味でも遊び心の扱い方は組織づくりにおいても重要かなと思います。

高山シーベジタブルの共同代表の蜂谷は、「海藻は本当に美味しくてみんなに食べて欲しいから作っているんだ」と目を輝かせていつも話をしてくれます。そのまっすぐな動機とエネルギーを保ち続けることは案外難しいですが、メンバーそれぞれが同じような想いを持っています。そういった姿勢に触れ続けると、どんなに大変な時でも「私もやってみるか」と前に進むエネルギーに変わっていくんだな、と感じています。

海で遊び、海を守り、海で稼ぐ循環を

この日のトークセッションを通じて見えてきたのは、「まず自分が海で遊び、楽しむこと」から始まる海の再生でした。確かに課題は山積しています。しかし、彼らが一貫して示したのは、まず自分が心から楽しみ、それを諦めずに続けることで、やがて持続可能な形が見えてくるという道筋でした。

懇親会では、会場のあちこちで熱心に会話を交わす参加者の姿がありました。「共創の木」と名付けられたボードには、参加者一人ひとりが「海の再生×ビジネスを進めるためにしたいこと」を書いたコースターが次々と吊るされていきます。まさに「海で遊び、海を守り、海で稼ぐか」という問いに、参加者全員で向き合った証でした。

懇親会ではシーベジタブルのすじ青のりや、幸海ヒーローズの昆布の試食も用意され、参加者たちはその美味しさに驚きの声を上げていました。

寿司が食べられなくなる未来を避けるために。100年先の子どもたちに豊かな海を残すために。実践者たちの挑戦は、これからも続いていきます。

最新のイベント情報は、リジェラボの公式サイトにてご覧いただけます。
https://www.yamaha-motor.co.jp/regenerative-lab/event/

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