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都市の体温はどこから生まれる?答えは“正しさ”ではなく、“楽しさ”の中にあった【イベントレポート】

街にぬくもりを取り戻すのは、“正しさ”ではなく“楽しさ”。RINNE×NEWPARK×ヤマハ発動機が語る、創造力と共創の未来。

街にぬくもりを取り戻すのは、“正しさ”ではなく“楽しさ”。RINNE×NEWPARK×ヤマハ発動機が語る、創造力と共創の未来。

2025年11月7日


あなたには、愛着のある街の風景はありますか?

例えば、ビル街に現れるキッチンカー、川沿いに置かれたベンチ、子どもたちの声が響く路地裏。街にそうした、ほんの少しの居場所や余白があることで、人々は立ち止まり、ほっと安らぎ、誰かとのつながりを感じられる。そうしたぬくもりを、この記事では「都市の体温」と表現してみたいと思います。

では、市民として、企業として、行政として、私たちは、それぞれの立場からどうしたら「都市の体温」を上げていくことができるのでしょうか?

そうした問いを出発点に、9月3日、「リジェラボ」ではトークイベント『PLAY for REGENERATION Vol.2わたしたちの創造力は、都市の体温を再生できるか?』を開催。株式会社RINNE代表の小島幸代さん、株式会社NEWPARK代表の渡辺英暁さんをゲストに迎え、「都市の体温」をめぐる創造力について考えを深めました。

今回の記事では、その様子の一部をお届けします。

小島 幸代 さん(株式会社RINNE 代表) /大阪芸術大学でデザインを学んだ後、クリエイティブに特化した人事コンサルティングに16年従事。"不要になったものをアイデアや想像力で楽しく活かす思考"が環境や社会を良くするという考えのもと、アップサイクルを核としたRINNEを創業。Rinne.bar運営。現在は企業や行政、教育機関の「捨てる/捨てないデザイン」の研修講師、ファシリテーション、プロジェクト・アドバイザー、クリエイティブディレクションなども手がける。

渡辺 英暁さん(株式会社NEWPARK 代表) /株式会社パルコでの商業・文化施設によるまちづくりと、広告会社・デジタルクリエイティブ企業でのサービス開発・ブランド開発の経験を経て、株式会社NEWPARKを創業。自然、まちづくり、テクノロジーをキーワードに、都市のコモンズの再編集を目指す。専門は、UXデザイン、コミュニケーションデザイン。都市で小さな森を育てるシェアフォレストサービス「Comoris(コモリス)」の共同代表。

ビジネスを通じて感じた違和感

まず口火を切ったのは、アップサイクルをテーマに活動する株式会社RINNE 代表・小島幸代さん。広告・IT業界でのキャリアを経て、彼女は「豊かなはずが、どこか満たされない」感覚に気づいたといいます。その気づきこそが、彼女の活動の出発点でした。

「広告・IT業界で16年間働くなかで、とにかく消費を煽ることが当たり前とされる世界に身を置いてきました。しかしその裏では、暮らしの手触りが失われ、孤独を抱える人が増えていく。物質的には満たされているのに、幸せを感じられない人が増えているという矛盾に、私はずっと違和感を感じていたんです。

暮らしを自分たちの手に取り戻すには、どうすればいいのか。そのヒントを得るために、私はアメリカのポートランドを訪れました。そこで目にしたのは、誰もがごく気軽に『作る』ことを楽しむ光景です。廃材をアップサイクルした楽器で遊ぶ子どもがいたり、自分で溶接した自転車を誇らしげに見せてくれる人がいたり。みんながすごく楽しそうで、ものづくりがとても身近なものとして息づいていることを実感しました。

暮らしを自分たちの手に取り戻すには、どうすればいいのか。そのヒントを得るために、私はアメリカのポートランドを訪れました。そこで目にしたのは、誰もがごく気軽に『作る』ことを楽しむ光景です。廃材をアップサイクルした楽器で遊ぶ子どもがいたり、自分で溶接した自転車を誇らしげに見せてくれる人がいたり。みんながすごく楽しそうで、ものづくりがとても身近なものとして息づいていることを実感しました。

「Rinne.bar」では、お酒を飲みながらでも安心して作業ができるよう、安全面にも十分な配慮がされている。(※店舗は2025年7月31日で通常営業を終了し、2027年7月に台東区所有の古民家への移転を最終調整中。現在は出張営業を行っている)

なぜバーにしたのかというと、大人にこそ来てほしかったから。子どもは面白いと思えばなんでも作ります。でも、大人は「これはゴミでしょ」といった固定観念があったり、忙しかったりして、作ることへのハードルが高い。だからこそ、大人にも、ものづくりを楽しんでほしいと思っていました。

コロナ禍直前のオープンで集客は難しかったものの、SDGsという言葉の広がりと重なったこともあり、60以上のメディアに取り上げていただきました。座席数はわずか12席ほどでしたが、2024年には延べ5,800人ほどのお客様がいらっしゃるほどのお店になりました。

都市に森を作る

小島さんに続いて登場したのは、「Comoris(コモリス)」を共同で運営する株式会社NEWPARK 代表・渡辺英暁さん。都市の小さな空間を森へと変えていくというユニークな活動を、「自分自身、心から楽しんでいる」と笑顔で語りました。

「『Comoris』は『みんなで、近所で、森をシェアする。土や微生物とお隣さんになる』というコンセプトのもとに立ち上がりました。我々が目指しているのは、都市に失われた森をそのまま取り戻すというより、都市ならではの森を作っていくこと。マイナスをゼロに戻すのではなく、新しい価値を生む“クリエーション”です。

2024年は実証実験として、代々木上原にある45平米の空き地を借り、15名のメンバーとともに森作りを始めました。さらに、地域とのつながりを深める取り組みとして、近隣の方も交えて、森で朝ごはんを食べる『森の朝食会』という交流の場を開催しました。

「森の朝食会」の様子

面白かったのは、犬の散歩をしていた人とランニングをしている人が同じ食卓を囲み、互いを知る機会が生まれたこと。街中の小さな森が、異なるコミュニティをつなぐ場所にもなっていたんです。

森ではDIYも盛んで、大人も子どもも、インパクトドライバーを手に、思い思いのものを制作したり、環境改善に取り組む方のアドバイスを受けて、隣家の木を剪定したりもしています。最近一番流行ってるのが、「ねこじゃらしのお茶」。先をほぐすと、クセのない麦茶みたいな味になって、おいしいんです!こうして食を通して自然とつながれることもすごく楽しいんですよね。

時間をかけて、地域の人とコミュニケーションをとる

ゲストお二人のトークの後は、本イベントの司会を務めるハーチ株式会社の大石竜平さんと、ヤマハ発動機でリジェラボ運営責任者を務める福田晋平も加わり、「都市の体温を上げる」というテーマでクロストークが始まりました。

今回のイベントの問いは「わたしたちの創造力は、『都市の体温』を再生できるか?」ですが、ゲストのみなさんはどのようにお考えですか?

小島私のその問いに対する答えは、イエスです。でも、自分たちが2020年からお店を続けるなかで分かったこともあります。それは、地域の方々は、真面目な話や上から目線の難しい話では心を開いてくれない、ということです。

だからこそ私たちはあいさつを欠かさず、町内会費を払い、地域と関わり続けてきました。その際に大切にしてきたのは「みんなが笑顔になりますよね」「街にとって面白いですよね」といった”楽しさ”を伝えること。そうやって3年ほどかけて、ようやく関係が築けてきたと感じています。正しさだけではなく楽しさが、「都市の体温」を再生する上で大事なことなのかもしれません。

左から、司会を務めたハーチ株式会社の大石竜平さん、渡辺さん、小島さん、福田

渡辺「都市の体温」を上げるには、地域の方との関わりが欠かせませんが、その信頼関係を築くには時間がかかることもあります。「Comoris」には、やりたいことを持ったメンバーがそれぞれ参加していますが、僕はその中で、郊外に“みんなで共に育てるシェアフォレスト”を広げたいと考えています。

もともと僕自身「ニュータウン」と呼ばれるような郊外で育ちました。造成が終わったニュータウンには、庭や公園といった人口の緑はあっても、住人が自然と関われる機会は少ない。さらに、高齢化の問題もあって、人がゆるやかにつながる場所も失われつつあります。そこで、「Comoris」の考え方を郊外版として展開することで、自然と関われる機会をつくり、既存の住人と新たな居住者・来訪者が交わるきっかけを生み出したいと考えています。

ただ、小島さんの話にもあったように、地域の方にいきなり「森を作りましょう」と声をかけても、なかなか受け入れられないことも多い。だからこそ、まずは都市部で事例を積み重ねながら、時間をかけて郊外へと活動を広げていきたいと思っています。

みなさんのお話を聞きながら、「都市の体温を上げる」うえで「遊び」がキーワードになると感じています。遊びには、計画された部分と偶然生まれる部分があると思いますが、そのバランスについて、どう考えていますか?

渡辺まさに、「計画と偶然のバランス」はすごく大事な気がしています。例えば「Comoris」では、「街の人に採っていってほしい」という思いのもと、ハーブや果実を森の中ではなく外側に植えているんです。実際に紫蘇を摘んでおにぎりを作り、持ってきてくれた方もいました。「外にハーブを植える」といったような計画はするんですが、その先に何が起こるのかは、偶然に委ねる。そうすることで生まれた出来事を、僕らが経験し直すことができるのが、すごく面白いんですよね。

小島「Rinne.bar」でも、“こう遊べますよ”というメニューはある程度あります。だけど、偶然を楽しんでもらいたいので、細かい手順までは決めていません。方向性はあるけど、プロセスは詰めない、という感じです。

福田なるほど。たしかに全部が計画通りに運んでしまうと、予定調和な出来事しか起きなくなってしまいますよね。余白があるからこそ偶然が生まれる。自然のなかで遊ぶとき、無計画では危険が伴いますが、計画しすぎてもつまらない。これは、都市でも同じだと思います。「自然の中での遊び」と「都市での遊び」をはっきりと分けずに考えるのが大事なような気がします。

渡辺たしかに、「驚き」とか「不安」といった感情があるからこそ遊びは面白いんですよね。だからこそ、「ちょっとしたリスク」を含めて、偶然をどれくらいデザインできるかが大事だと思います。そう考えたときに、一般的に考えられている「計画」とは違う発想が必要になってくる。

例えば、これまでの都市計画では、「設計者がデザインしたプランの上で、人々にどう過ごしてもらうか」という発想でした。でも、「都市の体温を上げる」ためには、「どうしたら人々が、自分自身で工夫して楽しめるか」という余白をデザインすることが、すごく大事になってくるのではないでしょうか。

独創的なアイデアが飛び交う、大盛り上がりのワーク

イベントの後半は、「街のへんな道具発明」ワークショップ。横浜市内の公共建築物から出た古材を新たな価値へとアップサイクルする「REYO 横浜市再利用材プロジェクト(以下、REYO)」とコラボし、「一見役に立たなそうだけど、都市の体温を上げる道具」を考えます。

テーブルの上に並ぶのは、50センチほどの板。実はこれ、公立学校の体育館で使われていた床材です。この木材を使い、4〜5人のチームで「こんな道具があったら、街の体温が上がるのでは?」というアイデアを形にしていきます。

初対面同士のワークショップは静かな立ち上がりになりがちですが、開始の合図と同時に、どのテーブルでもワッと議論が始まりました。

「体育館の床材だし、懐かしく思えるのが鍵では?」
「自分がものづくりに参加してる気持ちになれるといいですよね」
「この板のサイズ、ポストイットを貼るのにピッタリじゃないですか?」

などなど、どのテーブルでも途切れることなくアイデアが飛び交います。

あっという間にワークの時間がすぎ、発表タイム。「どなたか発表をお願いします」という呼びかけとほぼ同時に、はいっ!と手が上がりました。「実はもう、実物を作っちゃいました」という言葉に、どよめく会場。

「私たちは『街のアイデアボード』を考えてみました。この床板材を、そのまま街に置いて、通行人の方から付箋でいろんなアイデアを貼ってもらうんです。皆さん見てください。この床材、付箋サイズぴったりなんですよ!これが置いてあるだけで、一人ひとりのアイデアが引き出されるんじゃないかなと。しかも、加工費ゼロです!」

この短時間で、アイデアから実装まで落とし込むとは!その遊び心と実行力に、場内から拍手が起こります。その他のテーブルでも、「簡単に解体できる屋台」「きのこの原木」など、ユニークなアイデアがたくさん生まれていました。

リジェラボに満ちた、静かな熱気

会場には、まるで公園で遊ぶ子どもたちのように、自由に発想し、楽しく共創する参加者の姿がありました。ここが横浜のビル街の真ん中であることを、思わず忘れてしまいそうになります。

イベント後、参加者からはこんな声も寄せられました。

「自分の会社にいるだけだと考えが凝り固まってしまうので、環境を変えたくて参加しました。『都市を再生したい』という同じ思いを持った仲間とつながれたのが、なにより嬉しかったです。」

「『都市の体温を上げる』というテーマに惹かれて参加しました。ワークがとても楽しくて、もっと時間がほしかった!またぜひ参加したいです。」

「これからスタートアップで都市に関わる事業に取り組むのですが、小島さんや渡辺さんのトークからたくさんのヒントがもらえました」

人と人の「つながり」と、常識を飛び越える「遊び心」があれば、都市の体温は上げられるーー。この日、リジェラボに満ちていた静かな熱気が、そのことを確かに示していました。

最新のイベント情報は、リジェラボの公式サイトにてご覧いただけます。
https://www.yamaha-motor.co.jp/regenerative-lab/event/



執筆・撮影:山中散歩 編集:日向コイケ(Huuuu)

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