関係人口とは?意味や背景、現在の活用状況までわかりやすく解説
人は「住む」以外に、地域とどのような関係を築けるのでしょうか。関係人口の意味や背景、事例を通じて、新しいつながり方の可能性を探ります。
人は「住む」以外に、地域とどのような関係を築けるのでしょうか。関係人口の意味や背景、事例を通じて、新しいつながり方の可能性を探ります。
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「関係人口」という言葉をご存じでしょうか。
移住でも観光でもなく、地域に継続的に関わり続ける人々を指すこの概念は、2010年代後半に地域づくりの現場で注目を集めました。政府の地方創生政策にも盛り込まれ、各自治体で取り組みが広がった一方、「関係人口」という言葉の一般社会への浸透は限定的だったようにも思えます。
しかし今、「コミュニティ」「共創」「ファン」「関係資本」「二拠点居住」といった言葉が各所で語られる中に、関係人口の思想と重なる考え方を見出すことができます。
言葉こそ広く一般へ定着しなかったものの、その問いかけはいまも生きている――そんな視点からこの概念をあらためて読み解いていきます。
関係人口とは何か
関係人口とは「地域と多様に関わり続ける人々」
関係人口とは、特定の地域に移住するわけでも、単なる観光で訪れるわけでもなく、その地域と継続的・多様な関わりを持ち続ける人々を指す言葉です。
この概念は、雑誌『ソトコト』編集長の指出一正氏らが2016年ごろから積極的に提唱し、その後、総務省の「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会(2018年)」で取り上げられました *1。検討会の報告書では、関係人口を「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々」と定義しています。
定住人口・交流人口との違い
地域との関わりを考えるとき、従来は大きく「定住人口」と「交流人口」の2軸で語られてきました。「定住人口」は文字通り、その地域に住民票を置き、生活の拠点を置く人々のこと。「交流人口」は観光客や帰省者のように、外部から訪れるが居住しない人々を指します。
関係人口は、「定住人口」と「交流人口」の間にある多様な関わり方を捉えるために生まれた概念です。
それは、観光のような一過性のものでも、移住のようにハードルの高いものでもない、「継続的なつながり」です。たとえば、ふるさとへの継続的な支援、地域産品の定期購入、地域課題への専門的な貢献、週末の農作業参加など、その形はさまざまです。
関係の深さにもグラデーションがあり、地域の情報を発信するだけの「関心層」から、定期的に訪れて交流する「交流層」、地元の人々と共に汗をかく「共創層」まで、さまざまな関わり方があります。
なぜ関係人口が注目されたのか
人口減少と移住政策の限界
関係人口という概念が注目された背景には、地方における人口減少の深刻化があります。
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じており、地方ではその影響がより早く表れています。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」によると、2050年にかけて、全国のほとんどの市区町村で人口減少が見込まれています *2。
こうした状況を受け、国は2014年に「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、地方創生を本格化させました。その中心的な施策の一つが移住促進です。しかし、雇用や住環境、子育て支援などの条件を整える必要があり、すべての自治体が移住者を獲得できるわけではありませんでした。
そこで注目されたのが、「移住しなくても地域に貢献できる人を増やす」という発想です。移住せずとも地域を応援したり、仕事や趣味を通じて地域に関わったりしてくれる人々とのつながりを地域の力として捉える概念として、関係人口が注目されるようになりました。
関係人口を可能にした社会変化
関係人口が注目されるようになったもう一つの背景として、移動コストの低下とインターネットの普及があります。
SNSは地域の魅力を遠くに住む人へ届けるチャネルとなり、LCCの台頭や高速バスの充実は「ちょっとした遠出」のハードルを下げました。首都圏に住みながら地方の農村に月1回訪問する、オンラインで地域の人々と議論に参加するといった関わり方が現実的な選択肢になっていったのです。
さらに2020年以降のコロナ禍はテレワークの普及を後押しし、「どこでも働ける」環境を一時的に加速させました。地方移住やワーケーションへの注目が集まり、都市と地域を行き来しながら暮らす二地域居住も、新たなライフスタイルの選択肢として認識されるようになりました。
関係人口は広がったのか
では、関係人口という考え方は社会にどこまで根付いたのでしょうか。
総務省は、2018年の検討会で「関係人口」を地方創生の重要な担い手として位置づけ、その後も、モデル事業や支援制度を通じて自治体の取り組みを支援してきました *3。
こうした政策の後押しを受け、各自治体では、それぞれの地域や企業の文脈に応じた多様な取り組みが生まれています。
関係人口の代表的な事例
海士町:地域外の人を「支援者」ではなく「当事者」にする
島根県隠岐郡にある海士町は、関係人口の取り組みで全国的に知られる先進地域です。同町の特徴は、人口約2,300人の少子高齢化・人口減少が進む離島という制約を前提に、「島の外にも地域経営の担い手をつくる」という発想で地域づくりを進めてきたことです。
2024年に開始した「海士町オフィシャルアンバサダー制度」では、情報発信や交流イベントへの参加だけでなく、プロジェクトへの参画やコミュニティ運営への関与など、多様な関わり方を用意しています。デジタル名刺を活用したファンコミュニティを構築し、オンラインとリアルの両方で関係性を深める取り組みが進められ、制度開始から約1年で登録者300名を突破しました *4。
海士町の取り組みは、「どう人を集めるか」だけではなく、「どう関わり続けてもらうか」に重点を置いている点に特徴があります。多様な関わり方を設計し、地域外の人材やネットワークを地域経営に取り込もうとしていることから、関係人口の考え方を実践する代表事例として注目されています。
山古志:住んでいなくても「村民」になれる
人口約800人、高齢化率55%超の限界集落・新潟県長岡市山古志地域(旧山古志村)は、関係人口の概念をデジタルによって拡張した先進事例として注目されています。
2021年に、地域の象徴である錦鯉をモチーフにした「Nishikigoi NFT」を発行し、購入者を「デジタル村民」と位置付ける取り組みを開始しました。デジタル村民はオンラインコミュニティに参加し、地域の未来についての議論や投票に参加できます。発行から約1年で、デジタル村民数はリアルの住民数を超える1,032名に達し、海外からの参加者も集まりました。さらに、デジタル村民の「リアル帰省(来訪・滞在)」も、延べ800人超に拡大しています *5。
この取り組みの特徴は、「グローバルな関係人口をデジタルで創出する」という独自の定義のもと、NFT販売益を独自財源とし、外部の知恵・資金・人材を呼び込む仕組みをゼロから設計した点です。地理的な距離を超えて地域との関係を築く仕組みを実現したことで、「住んでいなくても地域の一員になれる」という新しい関係人口の形を提示した事例として注目されています。
近鉄×おてつたび:観光客を関係人口に変える
大手私鉄・近畿日本鉄道(近鉄)は2025年、おてつたびと連携し、伊勢・鳥羽・志摩地域で関係人口の創出を目指す取り組みを開始しました *6。
おてつたびは、人手不足に悩む地域事業者と旅行者をマッチングするサービスです。旅行者は、農家や宿泊施設などの仕事を手伝いながら地域に滞在し、その対価として、報酬や宿泊場所の提供を受けます。近鉄は、この取り組みに参加した利用者に近鉄特急ポイントを付与することで、地域との接点づくりや、将来的な移住・起業を後押ししています。
この取り組みの特徴は、観光客を単なる「訪問者」で終わらせず、地域との継続的な関係へと発展させようとしている点です。地域で働き、地域の人と交流し、その後も再訪する。そうした関係の積み重ねを通じて、地域のファンや将来的な関係人口を育てようとしています。関係人口という考え方が、企業の事業戦略にも取り入れられ始めていることを示す事例と言えるでしょう。
| 事例 | 主体 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 海士町 (島根県) |
自治体 | オフィシャルアンバサダー制度(デジタル名刺でファンコミュニティを構築) | 「どう関わり続けてもらうか」を重視した設計。 約1年で登録者300名を超える。 |
| 山古志 (新潟県長岡市) |
地域団体 | Nishikigoi NFT=「デジタル村民」 | 距離を超えた関係をゼロから設計。 デジタル村民は1,032名でリアルの住民数を上回る。 |
| 近鉄×おてつたび (三重県 伊勢・鳥羽・志摩地域) |
民間企業 | 地域での労働体験×旅×特急ポイント | 観光客を一過性で終わらせず、継続的な関係人口へ育てる。 |
これらの事例から分かるのは、関係人口という考え方が政策の中だけでなく、自治体や企業の実践の中にも取り入れられていることです。さらに、自治体も企業も、それぞれの文脈で概念を翻訳し、具体的な仕組みに落とし込むことで成果を創出していることがわかります。
関係人口はなぜ一般化しなかったのか
これほど注目され、政策にも組み込まれながら、「関係人口」という言葉は一般社会ではあまり使われていないのが現状です。その理由を考えると、いくつかの構造的な難しさが浮かび上がってきました。
1 測定の難しさ
「定住人口」は住民基本台帳で、「交流人口」は観光客数などで把握できます。しかし「関係人口」には統一された統計基準がありません。「何回訪れたら関係人口か」「どの程度関与したら該当するか」の線引きが難しく、定量的に評価しづらいという課題があります。
2 定義の曖昧さ
概念の幅広さは、関係人口の強みであると同時に弱みでもあります。ふるさと納税の返礼品を受け取るだけの人と、地域に週3日滞在して地域おこし協力隊的な活動をする人では、関わり方に大きな違いがあります。しかし、どちらも同じ「関係人口」として語られてしまう可能性があり、関係の深さや持続性が見えにくいという課題もあります。
3 施策化の難しさ
関係人口の創出は、観光PRのような単発のキャンペーンでは実現しません。地域に関わった人が継続的に地域とつながり、やがて何らかの形で地域に貢献するまでには時間がかかります。また、担い手の確保やコミュニティ運営などに継続的なコストも必要です。成果が現れるまでに長い時間とコストを要することから、短期的な成果を求められやすい行政施策とは相性が良くない側面もあったと考えられます。
4 関係人口の当事者が使わない
加えて、「関係人口」という言葉自体が、行政や地域づくりの文脈から生まれた概念であることも影響しているかもしれません。実際には地域と継続的に関わっていても、自分のことを「関係人口である」と認識している人は多くありません。当事者が日常的に使わない言葉は一般社会には広がりにくく、そのことも関係人口という言葉が定着しなかった理由の一つと考えられます。
関係人口は今どのような形で残っているのか
言葉そのものの普及は限定的だったかもしれませんが、その思想は形を変えながら社会に溶け込んでいます。
1 二地域居住
2024年、国土交通省が「二地域居住」の促進を施策として明示したことで、制度整備が進みました。生活拠点を複数持つライフスタイルは、「特殊なもの」から「選択肢の一つ」へと変わりつつあります。都市と農村を行き来する生活は、関係人口の具体的な実践形態の一つです。
2 コミュニティ参加
地域との継続的な関わりは、地域コミュニティやオンラインコミュニティという形でも広がっています。特定の地域に住んでいなくても、イベントやプロジェクトへの参加を通じて地域とつながり続ける人々は少なくありません。
こうした関係性の価値は、人と人、人と地域のつながりそのものに価値があるとする「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」や「関係資本」といった概念とも重なります。
3 ファンベースと共創
企業やブランドにおける「ファン」という概念も、関係人口と構造的に近いものです。単なる消費者ではなく、価値観に共感し、継続的に関わり、時には一緒に何かをつくる存在――この考え方は、地域との関係性にもそのまま応用できます。 近年注目されている「共創(Co-creation)」というキーワードも、外部の人々が地域や組織とともに価値を生み出すという点で、関係人口の思想と重なっています。
これからの地域・企業にとって関係人口はどんな意味を持つのか
関係人口という概念が提起した問いは、今も有効です。それは、「人は住む場所だけで地域と関わるのではなく、関心や行動を通じて複数の場所とつながれるのではないか」という問いです。
人口減少が進む地域にとって、地域の未来を支えるのは必ずしも住人だけではありません。外部の人材や知識、ネットワークをどう呼び込み、地域につなげるかは、今後ますます重要なテーマになるでしょう。海士町や山古志の事例が示すように、鍵となるのは、関わる人が「意味ある貢献をしている」と感じられる役割設計です。
また企業にとっても、関係人口の考え方は示唆を与えます。単発の接点を増やすのではなく、顧客や地域との継続的な関係を育てるという発想は、ファンコミュニティや共創の取り組みにも通じるものがあります。
関係人口という言葉そのものは、一般に広く定着したとは言えないかもしれません。しかし、「移住か観光か」という二分法では捉えきれない様々な関わり方が存在することを示した点で、この概念が残した意義は小さくありません。
「地域と、どのようにつながるか」
この問いは、私たちの社会にじわりと浸透し続けています。
出典・参考
*1 出典
総務省『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書―「関係人口」の創出に向けて―』(2018年1月26日)
*2 出典
国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)報告書』 pp.153-194(2023年)
*3 参考
内閣官房「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(2022年)
国土交通省「二地域居住等の推進に関する関係省庁連絡会議」資料(2024年)
*4 出典
一般財団法人島前ふるさと魅力化財団「海士町オフィシャルアンバサダー制度、制度開始から1年で加入者300名を突破!」(2025年9月26日)
*5 出典
内閣官房「デジタル田園都市国家構想」デジ田メニューブック
山古志住民会議 公式note
*6 出典
株式会社おてつたび プレスリリース「おてつたび×近鉄 伊勢・鳥羽・志摩地域での連携」(PR TIMES、2025年2月25日)
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