身体性とは? “頭でわかる”と“身体でわかる”の違い
知識として理解するだけでなく、動く・触れるといった体験を通して認知が深まる身体性の考え方を、日常や環境との関わりから解説します。
知識として理解するだけでなく、動く・触れるといった体験を通して認知が深まる身体性の考え方を、日常や環境との関わりから解説します。
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私たちは日々、多くの情報に触れながら生活しています。
インターネットやSNSを通じて、知識やノウハウはすぐに手に入ります。
それでも、「頭では理解しているのに、なぜか行動できない」と感じることはないでしょうか。
例えば、運動した方がいいとわかっていても、なかなか始められない。
自然が大切だと知っていても、実際に自然の中に行く機会はそれほど多くない。
情報としての理解と、実感としての理解のあいだには、思っている以上に大きな差があります。
こうした違いを考えるとき、手がかりになるのが、認知科学のキーワード「身体性(embodied cognition)」です。
身体性(embodied cognition)とは何か―認知科学における定義
身体性とは、人の理解や思考、判断が、身体と環境との関わりの中で生まれるという考え方です。
近年の認知科学では、人の認知は脳内の情報処理だけでなく、身体と環境との相互作用の中で生まれるという「身体化された認知(embodied cognition)」の研究が進んでいます。人は頭の中だけで世界を理解しているわけではなく、身体の感覚や動きを通して環境を感じ取り、意味を理解しているという考え方です。
私たちは、触れる、動く、操作する、自然の中を歩くといった身体の経験を通して、物事の意味を学んでいます。
例えば、自転車の乗り方を考えてみてください。
説明書を読んだだけでは、自転車に乗れるようにはなりません。実際にまたがり、バランスを崩しながら何度も試すことで、少しずつ身体が感覚を覚えていきます。
こうした理解は、知識として覚えるというより、身体の感覚や動きを通して身につく認知と言えるでしょう。
身体性が失われつつある現代社会
一方で現代社会では、身体を通して環境と関わる機会が減っているとも言われています。
世界保健機関(WHO)の報告によると、世界の成人の23%と青少年の81%が推奨される身体活動量を満たしていません。身体を動かす機会の不足は、世界的な課題として指摘されています*1。
*1 出典:WHO『Global Action Plan on Physical Activity 2018–2030』p.15
日本語訳は慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科(日本運動疫学会協力)による翻訳版を参照
また、日本でも子どもたちの自然体験の機会が減少していることが報告されています。
国立青少年教育振興機構の調査によると、「海や川で泳いだことが何度もある」と回答した子どもの割合は、1998年の60.2%から2019年には50.8%へと低下しています。
同様に、「昆虫をつかまえたことが何度もある」と回答した割合も、50.2%から43.6%へと減少しています*2。
川遊びや昆虫採集など、自然の中で身体を使う体験が、長期的にみると少しずつ減っていることがうかがえます。
*2 出典:国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度)』
自然の中を歩く。
水に触れる。
土や生きものに触れる。
こうした体験は、単なるレジャー・遊びではなく、身体を通して環境を認知する機会でもあります。
便利で効率的な社会になる一方で、私たちは知らないうちに、身体を使って環境と関わる機会を減らしているのかもしれません。
モビリティと身体性の関係
身体を通した認知という視点は、モビリティ(乗り物)を通した体験とも深く結びついています。
モーターサイクル(バイク)やマリン製品(ボートや水上バイクなど)といったモビリティは、単なる移動手段ではありません。アクセル操作やバランスの取り方、振動や風を感じる感覚などを通して、人が身体で環境を感じ取り、理解していく体験を生み出します。
たとえばバイクに乗るとき、人は視覚情報だけで判断しているわけではありません。バランス感覚や加速度、路面から伝わる振動といった身体感覚を総合的に使いながら、状況を把握し、操作を調整しています。そこには、人と機械のあいだで身体を介した認知のプロセスが働いています。
人が機械を操作することで、環境との関係を身体で理解していく。
ヤマハ発動機では、このような身体性に基づく認知のあり方に着目し、「人機官能」という考え方を掲げてきました。
人機官能とは、人と機械が一体となり、操作する喜びや感覚的なつながりを大切にする思想です。 モビリティを操作する体験の中では、身体の動き、機械の応答、そして周囲の環境が連続的に結びつきます。人はその相互作用の中で、速度やバランス、空間の広がりを身体的に理解していきます*3。
つまり、モビリティの体験は単なる移動ではなく、身体を通した認知を生み出す場でもあるのです。
*3 参考:ヤマハ発動機『人機官能』
身体性を取り戻すための小さな実践
身体性は特別な能力ではありません。
むしろ私たちが本来持っている、ごく自然なあり方です。
少し歩いてみる。
触れてみる。
試してみる。
そんな小さな行動を通して、頭の中だけでは見えなかったことが少しずつ見えてきて、物事の理解が深まることがあります。
もし世界の見え方を少し変えたいと思ったら、まずは身体を動かしてみることから始めてみる。身体性という視点が、その一歩を後押ししてくれるのかもしれません。
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