Maker Faire Tokyo 2025で展示される装置たち
その研究は、「のりもの」を超えたより深い感動を呼び起こすために。

わたしたちが考える「感動」とは、ココロやカラダが感じたり、動いたり、夢中になったときに生まれるもの。
それをさらに深めるためには、人の心や身体の動きをもっと知る必要があります。
人はどんなとき、誰かや何かと「つながった」と感じるの?
モノやマシンが「自分の一部」のように感じられる瞬間って、どんな感覚?
心が通じ合ったとき、身体ってどんな風に動くんだろう?
わたしたちは「つながり」や「一体感」の瞬間を探り、仮説を立てて体験装置をつくるなど、試行錯誤を重ねています。
モノづくりの原点である「感動」に向き合うために「人間研究」を続けているのです。
モトロイド
MOTOROiDとは?
MOTOROiDは、ヤマハ発動機が提案する「Togetherness × Oneness = 人と機械の新しい関係性」を体現した実験的モビリティ。
ヤマハ発動機が大切にしている「人機官能」の思想のもと、自分で立ち上がり、人を認識し、身振りでコミュニケーションを行う「生き物のようなバイク」として設計することで、人に「心が通っているかのようだ」と思わせる存在感のありかたを探っています。


MOTOROiD開発の背景と特徴
「人機官能」とは、「人と機械を高い次元で一体化させることにより、さらなる悦びや興奮が生まれる」という、ヤマハ発動機らしいモノづくりのコアとなる考え方です。
これまでは、「Oneness=身体的な一体感」に着目して研究・開発を進めてきましたが、そこに「Togetherness=精神的・心理的な一体感」も加えることで、より深く新しい人と機械の一体感へと繋がっていくと考えています。
MOTOROiDは、そのTogethernessの入り口となる存在として開発されました。
機械が意志を持っているかのように振る舞うことで、人は自然と「こいつ、生きてるかも」と思い始める。この「感情移入できる存在感」の生み出し方が、技術的なテーマのひとつです。
例えば、MOTOROiD自身がスタンドを上げて立ち上がる際の動作は、一瞬で機械的に終わらせるのではなく、まるで人が「よっこいしょ」と立ち上がるような「間」や「重み」を感じる動きを意識して設計しています。
重要なのは、言葉や疑似的な表情などを使って「マシンが頑張っている」という情報を押し付けるのではなく、「重さを感じさせる振る舞い」で人間側が「そうだよね、重いよね」と自然と共感できるような余地を残すこと。あくまでモノはモノのまま「感情移入できる対象」を目指しています。
このMOTOROiDは製品化を前提としたものではありません。「ヤマハ発動機は、今後どんな体験や感動を作るべきなのか」という問いを探る試みなのです。

エプレゴナ
e-plegonaとは?
e-plegonaは、2人で円形のタッチスクリーンを操作しながらリズムを交わすことでコミュニケーションする装置。 プレイヤーが「送る」リズムを、別のプレイヤーが「受け取る」ことがゲームの基本ですが、即興演奏のように双方のプレイヤーが役割を交代しつつバランスよく「送る」「受け取る」操作を行うことで高得点となるように設計されており、「心が通じ合った!」という瞬間が多くなるにつれ、音楽も盛り上がっていきます。


e-plegona開発の背景と特徴
e-plegonaは、人と人の心が通じ合う感覚、つまり「Togetherness=精神的・心理的な一体感」 を探るために開発された、インタラクティブなリズム体験装置です。言葉を使わず、音と動きだけで息を合わせていく体験を通じて「気持ちがつながる瞬間」をデザインする試みでもあります。
重要なのは、二人の「バランス」です。リズムを一方的に送りすぎても、単に受け取るだけでも 、美しい音楽を奏でられません。常に相手の状態や意図に想いを馳せながら、相手と息を合わせる ことが求められます。
「送られすぎて困ってる?」「少し待って相手に送ってもらおう」というように、相手の様子を推測し、協調してゆく。そこには、「あうんの呼吸」や「ノンバーバル(非言語的)なコミュニケーション」が自然に発生します。
この仕組みは、「人はどうやって“通じ合えた”と感じるのか?」という、ヤマハ発動機が行う人間研究のテーマに直結しています。 研究ではe-plegonaをプレイする2人の脳波を計測して「チームフロー(集団での没入状態)」に入る過程の解明を進めており、将来的にはこの知見を、人と機械の間でのTogetherness体験に応用する構想も描かれています。
ヤマハ発動機がe-plegonaを通じて挑んでいるのは、単なるデバイスの設計ではありません。
「感動が生まれるメカニズムとは?」
「人と人が“通じ合えた!”と思う感覚は、どうやって生まれるのか?」
といった問いと向き合いながら「新しい感動」を一つの形にしたのが、このe-plegonaなのです。

フローたいけんき
Flow体験機とは?
この椅子型のインタラクティブ装置は、ユーザーが前後左右に傾くことで画面を操作する、つまり体そのものがインターフェースになるように設計されています。
プレイヤーが挑むのは、前方から飛んでくる光のリングをくぐるというシンプルなミッション。
最初は戸惑うかもしれませんが、次第に「どれくらい傾ければ、どう反応するか」が身体でわかり、スムーズにリングをくぐれるようになる「没入していく感覚」を体験できます。


Flow体験機の背景と特徴
Flow体験機は、「Flow=没入状態」や「Oneness =身体的な一体感」は、どうやって生まれてくるのかを探るプロジェクトの中で開発されました。ヤマハ発動機らしいFlow体験を成立させるために、この体験機は3つの条件を満たすように設計されています。
・身体性(直感的な操作)
全身を使って操作することで、考えずとも「感じるままに動く」状態を作る。
・没入感(集中を促す空間設計)
視界の中心に集中する画面・単純なルール・音の演出などにより、周囲を忘れるような設計。
・スキルに応じたゲームバランス
上達に合わせて難易度の調整(リングの位置が変化)を自動で行い、「難しいけれど、なんとかできる」状態を維持することで、自然にFlow(没入状態)に入りやすくする。
この体験のポイントは、上達することで操作感が「消えていく」こと。操作している意識が薄れ、まるで自分自身が空を飛んでいるような感覚が生まれる。この感覚は、ヤマハ発動機が目指す「人機官能(人と機械の感覚的な一体化)」とも通じるものがあります。
ヤマハらしいFlowを体験できる装置をつくり、Flowの効果やFlowと感動のつながりを探るというこの研究では、短時間でFlow状態に入る方法を模索するとともに、未来の製品やサービスへの応用も目指しています。これはつまり、感動は「偶然の産物」ではなく、「設計可能な体験」なのではないか、という研究でもあります。
未来のモビリティが「没入しやすい設計」となることで、ユーザーはさらなる「操る喜び」を感じることができる。そこには「単なる乗り物」を超えた、より深い感動体験があるはずです。
