デザイナーのキャリアとしごと 滝藤 学
デザイナーが語る、キャリアのこれまでとこれから。

日本のものづくりの底力を、
海外に伝えたい
大学時代にスペインへの留学経験がある私は、世界における日本のものづくりのプレゼンスを留学中に強く実感してきました。そこから「日本の高品質なプロダクトをもっと世界に届けたい」「語学を活かしてグローバルに働きたい」と思うようになり、メーカーの営業職を希望するようになったのです。前職では国内・海外への営業、マーケティング、商品企画などを担当してきました。
ヤマハ発動機に入社したきっかけは、ブランドマーケティング部の募集を知ったことです。前職では広報やSNSマーケティングなども担当していたため、自分の経験が活かせると思い、応募に至りました。縁あって2020年に入社し、コーポレートブランディング業務に従事するようになりました。正直、それまでバイクには学生時代に原付バイクに乗っていた程度で、あまり深い知見はなかったのですが、会社の主要事業であるモーターサイクルを深く理解したいと思い、二輪免許も取得しました。
しばらく経って業務にも慣れてきたある日、社内で「デザイン企画でプランナーを探しているらしい」という声が聞こえてきました。それに対して私は「興味あります!」と、つい手を挙げてしまいます。なぜならものづくりが好きでメーカーで働いてきた私のなかで、「もっとヤマハ発動機のものづくりの上流に関わりたい!」という思いがどんどん強くなっていたからです。結果的にデザイン企画への異動が実現し、私はモーターサイクルのデザインプランナーとして新たなスタートを切ることとなりました。
やる気と学ぶ意欲があれば、
プランナーへの道は拓ける
当時の私にとっては、はじめてプロダクトのデザインを仕事で扱うことに不安もあり、その分必死で勉強しました。実務ではOJTで先輩に付き、基礎からマンツーマンで叩き込んでいただきました。わからない単語は片っ端からメモして後で調べる日々。デザイン用語やモーターサイクルの知識を地道に積み上げながら、時間があればコミュニケーションプラザに通ってさまざまなモデルのデザインを教材に勉強しました。
私が担当するデザインプランニングでは、情報を集め、調査分析し、ユーザーのマインドや乗車シーン、装いまでを想定してふさわしいデザインの方向性やコンセプトを考えています。そしてデザイナーに「ことば」で伝え、優れたアウトプットにつなげていきます。プランナーの仕事は地道に学ぶ姿勢と、プランづくりや戦略を考え抜く意欲がある人に門戸が開かれていると感じています。ぜひ多くの人に知ってほしいですね。


いまは一人でプロジェクトを担当するようになり、まさに「ものづくりの最前線」でさまざまな経験をさせていただいています。最近ではイタリアで、ユーザーの動向調査や市場調査を実施してきました。自分たちも現地で数百キロを走り、ヨーロッパのモーターサイクル文化からたくさんの刺激や知見を得てきたばかりです。
「バイクに詳しくない人」だった頃の
感性を忘れない
また、前職での経験もいまの仕事に大きく活きています。海外の取引先とのタフな交渉を通じて粘り強いコミュニケーション力が身についたおかげで、開発者とデザイナーの間で意見が割れた場面でも、間に入ってお互いの立場を考慮しながら話をまとめられるようになりました。
また海外売上比率が高い当社では、海外拠点の意見も重要であり、日本側だけでデザインを進めることはできません。もし海外との認識合わせをおろそかにすると手戻りが起き、開発に遅れが出てしまいます。だからこそ意見の食い違いをネガティブに捉えず、全体が納得できるポイントを探りながら提案する姿勢を大切にしています。その甲斐あって、担当するプロジェクトでは今のところ大きな手戻りは発生していません。ありがたいことに、プロジェクトメンバーからもその点を評価していただける場面もあり、少しずつ信頼関係が深まってきているのを実感しています。


バイク歴が浅く、あまり詳しくなかったことが逆に強みになることもあります。バイクに詳しい人曰く、つい「こうあるべき」と視点が固まりがちになるそうで、「バイク歴の浅い滝藤の意見はどう?」とよく聞かれるんです(笑)。今ではモーターサイクルデザインの良し悪しも自分なりの言葉で語れるようになり、どっぷりとバイクの世界に染まりつつある気はしますが、かつての“詳しくなかった頃の自分”が持っていた先入観やこだわりのない感覚は、これからも大切にしていきたいと思っています。
現在は担当のプロジェクトも増え、早くも後輩の指導を任されるようになりました。そして、初めて自分が担当したモデルがいよいよ市場に発売される予定です。先輩からは「街で自分の製品に乗っているお客さまを見ると本当に感動するよ」と聞いているので、早くそれを味わってみたいですね。
