デザイナーのキャリアとしごと 三舛 悦人
デザイナーが語る、キャリアのこれまでとこれから。

ロボットのデザインで磨いた
「課題発見力」
「工業デザイナー」という職業を知ったのは高校生のときでした。ネコ型ロボットの某アニメの影響でずっとロボットを創りたいと思っていた私は、それまでは機械工学の道を考えていたんです。でも造形やコンセプトを考えるデザイナーという仕事を知って、ロボット以外にも幅広い製品に関わっていけることに魅力を感じて、進路を変更しました。

大学院在学中は2年連続でロボットコンペに出品し、卒論では林野火災の消火ロボットと関連システムを研究するなど、ロボットの可能性を追求してきました。この分野は、省人化・省力化・高効率化といった厳しい要求に応えるだけでなく、人の安全や快適さを守り、現場に新しい価値をもたらすことが求められます。そのためには単なる機能設計ではなく、「どんな体験を提供できるか」「どうすれば人にとって魅力的で役立つ存在になるか」を考え抜く必要があります。こうしたプロセスで鍛えた課題発見力と、価値を創造する問題解決力は、デザインの企画を立てる今の仕事でとても役立っていると思います。
卒業してヤマハ発動機に入社したのは、ロボティクス、モビリティ、マリン製品など幅広い商材を扱っていることに惹かれたからです。また大学院時代、ドイツに1年間留学したことでグローバルに働きたいという思いが強まりました。海外売上比率が9割を超えるヤマハ発動機なら、いつかそんなチャンスもあるだろうと思ったんです。
遊び方が、貪欲で豪快!?
アメリカで未知の楽しさに遭遇!
実際に入社してからは、ショーモデルなど先行デザイン関係の仕事をしていたのですが、2019年9月には早くもアメリカ駐在をする機会を得て、「プランナー」として仕事をすることになりました。担当する商材はRV(※1)とゴルフカー。どちらも自分にとって馴染みがなく、どのように使われているのか全く知らないものでした。プランナーも初めて、商材も未知、ユーザーの人種も文化も違う。さぁ大変です(笑)。
まずは「とにかく市場へ行って顧客価値を学べ」という前任者の助言に従い、ショーやファンミーティングに片っ端から足を運んでユーザーと話をしました。そして自分自身でも理解を深めようと、商材を体験する機会を持ちました。初めてサイド・バイ・サイド(※2)に乗ったときは、もう衝撃でしたね。こんな未知の楽しさがあるのかと。車のような安心感がありながら、ぬかるんだオフロードをしぶきを上げて走破していく。これをトラックに積んであちこち運び、走ってスリルや高揚感を味わい、ドロドロに汚れた車両を掃除して積んで帰る。時間も手間もかかるのに、それ以上に楽しんでいる姿に驚きました。そして体験を通じてデザインの大切な知見も得ました。自然のスケールに負けない遠目で見ることを想定した工夫や、泥をかぶっても魅力的に見せるデザインが必要なのだと、身をもって実感したのです。
※1:RV(Recreational Vehicle)とは、ヤマハ発動機ではATV(四輪バギー)やROV(オフロード専用車両)など 未舗装路で走行できるアウトドアレジャー向けの車両を指します。
※2:ROVと呼ばれるオフロード専用の四輪車両の一種


慣れない環境のためいろんな苦労がありましたが、自分らしいやり方で仕事を進めようと私が心掛けたのは「対話の質」です。相手の意見をただ聞くだけでなく、その背景や真意を理解しようと努め、自分の意見も誠意をもって伝えることで、信頼関係を築いてきました。 大事にしたのは相手の意見を丁寧に聞き、自分の意見を丁寧に伝えること。そしてわからないことはそのままにせず質問して、商材に詳しい現地メンバーの知見を引き出すこと。そこに少しずつ自分自身の視点を混ぜていく。そうやって初心者ならではの新しい視点と、彼らの知見を融合し、相乗効果を狙ったのです。その積み重ねが少しずつ成果につながったと思います。知識や経験がないことは、むしろ強みになり得るということ。そして、英語の言語力よりも「対話力」が大切だということ。これが、アメリカで学んだ大きな気づきだったかもしれません。
人と人をつなぎ
価値を紡ぐ「ハブ」としてのプランナー
駆け足のように5年の駐在期間が過ぎ、2024年8月に帰国しました。実務経験を積んだことで、プランナーとしての仕事の進め方も大きく変わってきました。
最初は「どうやって仕事をうまく回すか」で精一杯でしたが、今は「担当デザイナーの想いを尊重しながら、プロジェクト全体の理想をどうカタチにできるか」「そのために商品企画や開発の仲間とどう協力し、共に考えられるか」という視点に変わりました。デザインプランナーの仕事は、異なる専門性をつなぎ、対話を重ねながら理想を形にするクリエイティブな橋渡しです。

さらに、社内の理想を紡ぐだけでなく、市場で得た顧客価値の知見を活かし、自分の提案も織り込みながらチームで創り上げていく――その過程にこそ、この仕事の醍醐味があります。自分がプロジェクトのハブとなり、針穴に糸を通すように「みんながなるべくハッピーになれるポイント」を探りながら進める。そして、その先にあるのは、チームの力を最大化し、未来のお客様に価値ある体験を届けることです。だからこそプランナーには、共創を導く力とクリエイティビティが問われると考えます。
これまで携わってきたのはRVとゴルフカーが中心ですが、今後はさらに幅広い商材に関わってみたいですね。あるいは、全く新しい領域に対してヤマハ発動機ならどんなことができるか、そんな商材がないところに新しい提案を生み出すような仕事にも、いつか挑戦してみたいです。
