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デザイナーのキャリアとしごと 小島 拓也

デザイナーが語る、キャリアのこれまでとこれから。

HMIのユーザー体験を、もっと豊かに もっと自由に UI/UXデザイナー 小島 拓也

モビリティのHMIデザインは
多様な業界の人材が活躍中

HMI(Human Machine Interface)領域では、メーター、ウインカーなどのスイッチ類など、ハンドルまわりをデザインの対象としています。ヤマハ発動機にはたくさんの商材がありますが、私は主にモーターサイクルのメーターと専用アプリのデザインを担当しています。
現在、ほとんどのモーターサイクルのメーターはTFT液晶に置き換わりつつあり、そこでのライダーとモーターサイクル間のコミュニケーション、言い換えると「メーターを介したUI/UX」の設計・演出が非常に重要になっています。とは言ってもTFT液晶メーターの歴史はまだ浅く、発展途上の段階です。そのためこの領域のデザインを専門的に手がける人材が少なく、ゲーム、ウェブ、アプリ開発など異業種から転職してきた方がたくさん活躍しています。様々な業界のUI/UXデザイン経験が活かせる分野なのではないでしょうか。

私自身も最初からこの分野が専門だったわけではありません。学生時代はニュージーランドと日本の大学でインダストリアルデザインを学び、ロボティクスのベンチャー企業でキャリアをスタートしています。そこではロボットから雑誌の付録、ときには会社の年賀状まで、デザインに関わることなら何でも担当してきました。ここで幅広い対象物を経験したことで、ユーザー心理に対する感覚がかなり鍛えられたように思います。
その後は自動車メーカーに転職し、クルマのインテリア・エクステリアのカラーデザインを5年ほど担当しました。本格的にUXデザインを学んだのはそのあとです。いま私たちが世の中の情報を得る手段は、ほぼスマホ、タブレット、PCが中心ですよね。つまり画面上のUI/UXを介しています。カーインテリアにおいても、液晶パネルの存在は物理的にもUX的にもかなり大きくなりつつありました。確かにモビリティの形やスタイリングは人の心を動かしますが、今後はHMIのユーザー体験がそこに大きく影響するのではないかーーそう考えて2年ほど仕事を離れ、改めてUXデザインをみっちり勉強したんです。

クルマとバイクのHMIにおける
共通点と相違点

その後はデザイン事務所に籍を置いて、UI/UXデザイナーとして別の自動車メーカーの仕事に携わりました。ヤマハ発動機はたまたま知人を介してデザイナーを募集していることを知ったのですが、HMIのなかでも特にメーターのデザインに今後注力していくこと、そしてHMIグループを組織として拡充していきたいという企業姿勢に惹かれて入社を決めました。クルマとバイクでHMIに求められることに違いはあるのですが、根本的に共通している部分では自分の知識と経験が役立つと思ったんです。それは何かというと、まずパッと見るだけでユーザーに情報を伝えなければならないこと。その情報が操作を左右し、命に直結していること。そして自動車もバイクも使い方を誤ると危険につながるということ。でもその部分だけに注目すると、メーターは機能に徹したシリアスなデザインになってしまいます。お客さまに選んでいただくには、ブランドが積み重ねてきたヘリテイジやストーリー、そして所有欲を満たすものでなければなりません。どちらも両立させていくところにHMIデザインの醍醐味があるのではないかと思います。

もちろんバイクならではのHMIの特徴もあります。たとえば車種によって必要な情報が全く異なるところ。たとえばスーパースポーツバイクにおいては、余計な情報やエンターテインメントの要素はそれほど必要ありません。むしろ走行に集中できるストイックなメーターこそ、ユーザーにとって最もエンターテインメント性を高めていると言えるかもしれません。でも普段使いする街乗りスクーターやレンタルバイクのメーターは、もっとユーザーフレンドリーなほうがいいですよね。その製品に慣れていない人には文字で説明が必要だったり、チュートリアルが必要なこともあるでしょう。製品によってどんなメーターが必要なのかは、ユーザーの体験、感情のコントロール、提供する価値など、あらゆることを緻密に考えた末にようやく導き出せるものなのではないかと思います。

HMIの提供価値
もっと広げていきたい

そのほかにも、メーターのデザインはいろいろな可能性を秘めています。たとえば同じ製品でもビギナーとベテランでは必要とする情報が違うでしょうし、一人のユーザーが同じ製品を使い続けるとしても、文字の視認性は年齢とともに変化します。そういう要素をユーザーの属性や習熟度、あるいはライフスタイルで切り替えていけたら便利ですよね。またクルマやバイクをカスタムして自分らしさを演出するように、メーター表示をカスタムして愛着感を高める仕組みを作るのも面白いと思います。このように、メーターの提供価値はまだまだ無限に広がっています。特にヤマハ発動機は、バイクの他に四輪バギー、自転車やマリン製品など対象となる製品の幅が広いので、それぞれのUI/UXを設計する必要があります。だからこの領域に向いていると思うのは、どんなことでも興味をもって面白がることができる人。バイクやクルマだけでなく、家電、映画、アウトドア……いろんな分野のUI/UXに触れて、貪欲かつ柔軟にデザインのヒントを探す姿勢が大切です。

このように、メーターは小さい部品でありながら、非常に奥深くてやりがいのある対象物です。まだまだデザインの余地が残されていて、考えることが尽きません。昔のバイクのアナログメータ―は、針の動きひとつでユーザーをワクワクさせてくれました。今後はテクノロジーの恩恵を活かしながらも、人の感性を揺さぶるような「ヤマハ発動機ならでは」のUI/UXを追求していきたいですね。

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