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“気持ちいいクルマ”を支えるパフォーマンスダンパー

ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。

生産累計200万本(2020年現在)を達成した「パフォーマンスダンパー」

ボディが語る“声”から生まれた技術

そっと鳴らすと潮風になごみを運ぶマリンベル。そのベルに人が手を添えた状態では、振動はすぐ静まり響かなくなります。パフォーマンスダンパーの原理は、手がベルの振動を押さえ、揺らぎを減衰する原理と同じで、その効果は“気持ちいいクルマ”となって現れます。(#1) パフォーマンスダンパーの外観は一本の棒状で、中間部には衝撃吸収器(ダンパー)が入っています。これをクルマのボディに直接装着することで、操縦安定性、乗り心地、質感などが向上し、気持ちいい乗り味を実現するのです。トヨタ「クラウンアスリートVX」(2001年/限定300台販売)に展開して以来、今日までVW、Audi、BMW、ポルシェ、ボルボ用アフターパーツを含め、軽自動車から高級車(#2)まで既に200万本を超えるパフォーマンスダンパーが車両に搭載され(2020年現在)、多くの方にその効果を感じて頂いています。

トヨタ2000GTの時代からの継承

もともと私たちヤマハは、1965年の「トヨタ2000GT」を皮きりに、自動車用エンジンを開発・生産し、自動車メーカーへの供給を進めてきました。さらに1990年代には“もっと楽しいクルマ”をめざして次の挑戦に。「自分たちが開発、製造したエンジンの性能を、クルマとしてもっと活かす方法はないか?それは気持ちいいクルマに繋がる筈だ」と。そこで自動車用サスペンションの開発をスタートさせ、1997年には「REAS」(リアス)と呼ぶサスペンションを実用化。左右サスペンションの油圧系を連結して左右のバランスを整え、走行性、操縦性の向上に貢献するものでした。
その「REAS」の開発も終盤を迎えたある日の技術者の呟きが、パフォーマンスダンパー誕生の発端でした。場所は静岡県、ヤマハの袋井テストコース。最終コーナーを過ぎ、下りの長い直線に入って全開加速をすれば、2,500ccクラスのテスト車両の車速は200km/hを優に越えます。そのとき彼は「サスペンションは素晴らしいが、ボディがわずかに揺らぐ感じがする」と。そして、「それならボディのごく僅かな振動を吸収することができれば、もっと気持ちいいクルマになるかも?」とひらめいたのです。
“ボディの僅かな振動を抑えるには、ボディをいたずらに硬くせず粘性を与えることこそがポイントでは・・・”という仮説のもとで研究開発は進んでいきました。ボディの厚みや剛性を増やしても振動は消えないからです。剛性だけに着目してもボディの揺らぎは止めることができないのです。ただ、周囲のすべての技術者からの賛同を得るには時間がかかりました。クルマの操縦安定性を高める方法としては、ボディ剛性を高めるというアプローチが主流だったからです。しかし、ボディ剛性を上げただけでは、レースなど限られた条件でタイムを争うときに有効だとしても “気持ちいい”には繋がらないと私たちは判断し、開発をさらに進めたのです。
ごく少人数で始めた開発当初は、特注の制振ゴム板でボディの左右を繋ぎ、開発のベクトルに間違いがないかを確認。そしてオイルを使ったダンパーを試作して搭載。その後はクルマの特性にあわせたレイアウトの調整、減衰の特性や力の強弱をあわせこみ、わずか1年で実用化へとこぎ着けたのです。
オイルが弁を押し広げ、その狭い隙間をオイルが通過するときの抵抗を使い、運動エネルギーを“熱”に変換するというパフォーマンスダンパーの構造と原理は、実はクルマやバイクのサスペンションと同じです。大きい衝撃をいなし、小さな動きを吸収しています。通常のサスペンションとの相違点は、殆ど動くことのないボディに直接取り付ける仕組みであること。そして、通常のサスペンションの100分の1以下の伸縮長で、また、100分の1以下のしゅう動速度に対して高精度で減衰力を発生する仕組みを実現(#3)(#4)したのです。

「あの僅かなクルマの“揺らぎ”を感じとれたのは、ヤマハのテストコースが平坦で高速直線路を備えていたことも関連するでしょう。コーナーを攻めるとかの意識ではなく、直線の高速走行でクルマを走らせ、ボディの語る“声”を聴けたのが大きかったのかも」と開発者は振りかえります。バイクの開発を主軸としたコースレイアウトの独自性が、ひとつの契機となって生まれたパフォーマンスダンパー。その仕組みは、今日ではオートマチック・スーパースポーツ「TMAX」に装着するアフターパーツやスノーモビル用(#5)としても実用化されています。
しかし、ダンパー技術の次元が飛躍したわけではありません。それまで誰も気づかなかったボディの”揺らぎ“をハードルとして見つけだし、その解決に培ってきた高性能サスペンションのノウハウを応用したところに、私たちオリジナリティがあるのです。

※REAS(リアス):ヤマハ発動機が1997年に実用化した独自の自動車用サスペンション技術。左右サスペンションの動きを制御することで走行性能を向上させる相互連携ショックアブソーバー・システムで、左右輪のショックアブソーバーの間に介在させた「REASバルブ」が走行中のクルマの左右の揺れをしなやかに抑えることで、タイヤの接地性の向上、快適な乗り心地と優れた操縦安定性の両立を実現する。トヨタのSUVやアウディの最高峰モデルの一つである「RS 7 Sportback performance」等に採用されている。

関連リンク
変形や振動を穏やかに整え吸収する車両用車体制振装置
 「ヤマハパフォーマンスダンパー」の生産累計が100万本を達成(プレスリリース)

REASについて(プレスリリース)

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