本文へ進みます

自動車の快適な乗り心地と高度な操縦安定性の両立を図る新技術 相互連携ショックアブソーバー・システム(REAS)リアス 開発について

1997年05月08日発表

 ヤマハ発動機(株)は、自動車用サスペンションの新技術として、左右サスペンションの動きを最適に制御して走行性能を向上させる「相互連携ショックアブソーバー・システム(REAS=Relative Absorber System)」をこのほど開発しました。
左右輪の高性能ショックアブソーバーの間に介在する「REASバルブ」で走行中のクルマの左右の揺れをしなやかに抑える機能を発生させ、かつタイヤの接地性を大幅に向上させることにより、快適な乗り心地と優れた操縦安定性を両立させた新技術です。

 一般に自動車用サスペンションは、主にふたつの役割を受け持っています。ひとつは、路面のショックを吸収して『快適な乗り心地を実現すること』、二つ目は加速及び制動時・カーブ走行時等の車体の姿勢変化を抑えて『優れた操縦安定性を確保すること』です。しかし、優れた操縦安定性を確保しようとサスペンションを堅くすると、一方で乗り心地が悪化するなど、両者は互いに相矛盾する要件となっていました。 

 このほど新開発の「REAS」は、ギャップ通過時などソフトな乗り心地が求められる場合には比較的少ない減衰力(ショックを吸収する力)で良好なクッション性を確保すると同時に、カーブ走行時や左右路面の凹凸規模が異なる時、横風を受ける時など、クルマが横方向(ロール方向)に動こうとする時には、新たに適度な減衰力が付加されてロール方向のエネルギーを吸収し、車体挙動の安定化を図る新機構です。これにより、『快適な乗り心地』と『優れた操縦安定性』を同時に実現することが可能となりました。

 構造は、応答性に優れた左右ショックアブソーバー(減衰力発生機構)をオイル通路で連携・連結し、その間に1.REASバルブ、2.ガス室、3.フリーピストン、から構成される第3のユニットを組み込んだものです。ここでは、左右ショックアブソーバーの作動速度の差異が、中央のREASバルブを流れるオイルの流量に比例する構造となります。

 「REAS」ではこの比例原理を利用し、左右ショックアブソーバーの作動速度差に応じ、相互に対し最適な補助減衰力を「REASバルブ」により必要に応じて自動的に発生させます。つまり、「作動速度差感応式ショックアブソーバー」とも呼べるシステムです。



REASの特色

1.

車体の動き(特にロール方向の動き)を安定化できるので操縦安定性の向上及び不快な横揺れの解消が可能

2.

補助減衰力を必要時に自動的に発生出来るので、柔らかいスプリングも使用でき、その結果、さらに快適な乗り心地が実現可能

3.

車体姿勢の安定化によりタイヤが路面に接する力の最適化が図れ、タイヤ本来の性能を引き出すことが可能

 

なおこの技術は、乗用車、トラック、バス、レース用車両等、幅広く適用できる可能性を持っています。
また、生産車両への採用に当たっては、搭載レイアウトや要求スペックに合せる為の各種作り込み等の開発が必要となります。



REASの開発の狙い

 サスペンションの主要機能部品には、スプリング(バネ)とショックアブソーバー(ダンパー)があります。スプリングは、ショックを和らげる働きを受け持ち、一方のショックアブソーバーは、衝撃を熱に変換して吸収する働きを受け持っています。そして、この二つの組み合わせが乗り心地、操縦安定性を決定づける重要な要素です。

 近年ショックアブソーバーに対する研究開発は各方面で行われ、減衰力を発生させるバルブ形状、オイル通路など、その発生機構の改善等が行われてきました。また、最近では、ショックアブソーバーの特性を逐次調整するなど、車体挙動を積極的に制御する電子制御サスペンション技術も実用化されています。

 このほど開発の「REAS」では、新たにロールエネルギー吸収機能を効果的に発生させ、快適な乗り心地と優れた操縦安定性の両立を図っています。
また、作動にタイムラグや不連続性がなく乗員・人間の感性に適合し易いこと、複雑な機構がなく軽量シンプルで設計の自由度が広いこと、などの特色があります。


 


REASの構造と作動

●「REAS」の構造のポイントは、次の3点となっています。

1.

左右ショックアブソーバーは、独立したオイル室をもち、その連結部にREASバルブを設けています。

2.

左右共通のガス室を持っています。

3.

オイルとガスを分離し、左右で連結作動するフリーピストン(セパレートピストン)をもっています。

 

●「REAS」の作動原理を、両極端である「完全逆相」と、「完全同相」のケースを例に説明すると、下記の通りとなります。



左右サスペンションが逆方向に作動する場合(完全逆相)

 下図(図1)は、車体を後方から見たイラストで、車体が右に曲がる場合のアブソーバーの動きとオイルの流れを示しています。遠心力で車体は左に傾いているところです。

 この場合、左側のショックアブソーバーは圧縮し、右側のアブソーバーは伸びようとします。左側ショックアブソーバーのピストンロッド進入体積分のオイルの流れは、伸び行程で退出した右側のピストンロッド退出体積分のオイルを補充するため、bバルブ(REASバルブ)を通るBの流れとなります。これにより、左の圧縮側ショックアブソーバーは、aバルブの減衰力にbバルブの減衰力が付加され、また、右の伸び側ショックアブソーバーは、cバルブの減衰力にbバルブの減衰力が付加され、車体のロールエネルギーを吸収します。

 

[図1]



左右サスペンションが同方向に圧縮する場合(完全同相)

 下図(図2)は、左右同時に凸面ギャップを通過するなどの例です。この場合、左右のショックアブソーバーのピストンロッド進入体積分のオイルは、Bの流れとなり、これはセパレートピストン(フリーピストン)が動くことで吸収され、bバルブ(REASバルブ)をオイルは通過しません。結果的に、減衰力は、a、cの主バルブによる発生だけとなり、相対的にソフトな乗り心地を実現出来ます。

 

[図2]


ページ
先頭へ