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ヤマハ発動機株式会社 Revs Your Heart

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レースに関連する広報発表資料をご覧いただけます。

YZR-M1開発秘話
【このテキストはマールボロ・ヤマハ・チームの英文リリースの翻訳です】
2002年7月1日
マールボロ・カタルニア・グランプリ
2002年6月16日 カタルニア/スペイン

 今シーズンから新設され、4月の開幕戦・日本GPで幕開けとなったモトGP。マールボロ・ヤマハ・チームは開幕前のヨーロッパのテストで様々な課題に直面したが、その後の努力でYZR-M1の開発はここにきて大きな成果を見た。エンジニア達の昼夜を問わない献身的作業は、開幕後ほどなく実を結び、フランスGPとイタリアGPではM.ビアッジ、C.チェカのライディングによりレースをリードする活躍を見せるに至ったのである。YZR-M1の進化の秘密は何か? ヤマハはいったい何をしたのか? マールボロ・ヤマハ・チーム監督のD.ブリビオが、その秘密を明かす・・・。

-------ここ2~3ヵ月の進歩には満足していますか?
「もちろんです。我々は大きな前進を果たしたのです。それもかなり短期間に。イタリアGPムジェロでのM1は、へレスやウェルコムの時とは比べものになりません。ヤマハのエンジニアたちは、寝る間を惜しんで開発に取り組み、マシンの特性向上に成功しました。
おかげでこのところの好成績が実現したのです。彼らの仕事ぶりには本当に驚かされます。今後マールボロ・ヤマハ・チームはこのマシンで勝利を目指します。その日は着実に近づいているのです。
 今年新設されたばかりのモトGPが見応えあるものとなり、ファンの方々やメディア関係者はもちろん、我々自身も興奮できるものになることを望んできましたが、いま我々はその興奮と感激とをみなさんにお届けできるようになったと感じているのです。これはモトGPクラスの意義のひとつで、そこには技術的進歩が必要とされていたわけです」

-------ここ数ヶ月の最大の進化は何ですか?
「コンピュータ制御のエンジンブレーキ・システムの進歩です。開幕前の2月、バレンシアで行われたIRTAテストでこれを初めて披露する事となったわけですが、この革新的テクノロジー開発は、ライダーから十分なフィードバックを得られるようになるのに数週間を要しました。
 5月のフランスGPで初めて最新のユニットを使用した時、マックスとカルロスはすぐにタイムアップに成功。それ以来、コーナー進入でより深くまで突っ込むことが出来るようになり、同時により走りに気持ちを集中できるようになったのです。このことはセットアップ作業にも好影響を及ぼしました」

-------そのシステムはどのようにして改良されたのですか?
「これはワンウェイ・クラッチ上でメカニカルに働く電子制御システムです。メカニカル・コンポーネントのいくつかを変更しましたが、大きな変更はソフトウエアでした。フランスで使用した新しいソフトは、より多くのパラメーターを備えているため、システム調整に関し、より詳細に行えるようになりました。それまでは繊細なセットアップを追求するだけの十分な余裕がなかったのです。
今では様々なサーキットのそれぞれの場所に合わせた調整が、かなり精密に行えるようになりました。ハードブレーキングのコーナーと緩やかなブレーキングのコーナーとでは、明らかに違う働きをするのです。
 このシステムは、エンジンとシャシーからの様々なパラメーター情報、例えばギアポジション、スロットルポジション、ブレーキ圧などを反映します。もちろん技術は常に進歩を続けて行く訳ですが、これで基本的なセッティングはでき上がったと考えています。
 シーズン序盤は1回のプラクティス中に5~6回、システムのマッピングを行っていました。今はベースセッティングが出来ているため、その回数が減りました。今はパラメーターからのデータが十分に得られるようになったので、システム作動の方法をより精密にするとき、かなり詳細に行うことができます」

-------この特別なシステムを作ろうと考えたのはいつですか?
「マックスとカルロスはコーナー進入時のエンジンブレーキについての課題をたびたび訴えました。はじめは別のプレートを試してみるなど、ワンウェイ・クラッチに関する作業を行いました。11月になってもっと別の何かが必要だということに気づき、それからコンピュータや電子制御システムに考え及んだのです」

-------シャシーにもたくさんの変更が見られます。なぜですか?
「2001シーズン終了後の11月、マックスとカルロスが実質的にテストに参加出来るようになってから何度もテストを行いました。ブルノ、セパン、フィリップアイランドなどのコースではとても好調で、大きな問題はほとんどありませんでしたが、バレンシアやエストリルなどタイトなコースではまだ改良の余地があると考えられました」

-------新型シャシーを作ることに決めたのはいつですか?
「11月と12月は剛性バランスの異なるシャシーをそれぞれテスト。そこから今後の方向性を決定しました。2月のバレンシアGP後にシャシーのモディファイを考え始め、3月初旬のムジェロのテストで最初のニュー・シャシーが届きました。
 さらにその下旬には別のバージョンができ上がり、鈴鹿の事前テストに間に合いました。これらのテストを通して我々は、結局もっと別の、何かが必要なのだと判りました。つまり、まったく新しいシャシーです。
 そのシャシーは今月上旬に行われたイタリアGPでついに投入されました。この新型シャシーはジオメトリーと重量配分が以前と異なるのですが、それに加えてより乗り易くするためにタンクとシートを替えました。
 我々が追求したのは、ブレーキングでの安定性とフロントエンドのフィーリングの向上、コーナリング特性とハンドリングとの最高のバランスを見つけることでした。ライダーふたりは、ともにフロントエンドのフィールの向上を確認していますが、ハンドリングについてはまだ確かな手ごたえがありません。
 ムジェロに続いて、バレンシアで新型シャシーの限界を確認するためのテストを行いました。様々なテストを繰り返して大量のデータを得ることが出来たため、さらに改良してゆく方法を見つけることが出来ました。
このシャシーは今とても順調ですが、これから数レースの間にモディファイが必要になるなら、迷わずに取り組んでいくでしょう。そして、もしもさらに別のシャシーが必要だということになるなら、それも迷うことなくやるでしょう」

-------エンジン性能向上のために何を行ったのですか?
「2月の段階でラップタイムがあまり伸びていないことが分かった時、マシン性能に関係するすべての箇所、つまりシャシー、エンジンブレーキ、そしてエンジンそのものの改良に取りかかりました。
 エンジンに関しては開発を継続的に行っており、常に新パーツを製造、常に性能と乗りやすさの両方を追求し続けています。鈴鹿以後、カムシャフト、シリンダーヘッド、クランクケースなど多くのパーツをモディファイ。それぞれの改良点は小さなものですが、2月の時点の状況と比べるならば、大きな成果を見ることができるはずです」

-------エンジン排気量は変更したのですか?
「シーズン開幕前のテストでは何通りかの排気量を試しています。しかし鈴鹿でひとつに決定。それ以来排気量は変わっていません。最大の990ccにはまだ届いていません」

-------出力はどうですか?
「鈴鹿のあと10馬力ほど向上しています。キャブレターの使用について疑問を投げ掛けた人もいますが、M1は今、とても速く、そして乗りやすいマシンになっているのです。
 我々がキャブレターの使用を決定した理由は、キャブレターとフュエル・インジェクションには、明らかな性能差がある訳ではないからです。それにライダーの多くがキャブレターのフィーリングを好んでいます。インジェクションはエンジン特性の調整においてかなり融通が効くはずなので、我々も完全に諦めたわけではありません。今も検討は続いていますが、今のところキャブレターをインジェクションに替えることですぐに効果が得られるという状況ではありません。
 シーズン前はインジェクションのほうが燃料消費で有効なのではないかと、少し心配しましたが、これまでのところこれに関して問題は起きていません。 
 ただ我々は今でも、インジェクション仕様のエンジンをベンチテストにかけ、数値的な向上を目指しています。効果が確認されれば、シーズンの後半には採用することになるでしょう」

-------この2~3ヵ月はヤマハのレーシング部門にとって辛い時期だったと思いますが、今は大分落ち着きましたか?
「2月以降、レーシング部門はとても忙しく、スタッフは夜を徹して、また休みを返上して長時間の作業を行ってきました。しかしそのような状況がいつまでも続くはずがありません。今は通常に戻りつつあります。
 もちろん、いまだに皆忙しく仕事はハードです。というのも我々の目標はグランプリでの優勝という重大なもので、しかも今、その実現に着実に近づいているのです」

-------レース部門からの新しいパーツ投入にはどのくらいの期間を要するのですか?
「新パーツ制作は大変な作業ですから、しばらく時間がかかります。そして今も自社工場ですべての作業が行われています。新型カムシャフトや新型シリンダーヘッドが必要だということになれば、まずどんなものが必要なのかをはっきりさせなければなりません。
 それから設計し、製造し、それから性能と信頼性のテストを行うわけです。これは長いプロセスを要しますから本来ならば最低でも1ヵ月はかかるでしょう。レース期間ならば、あるひとつのパーツを要求したとすれば次のレース、つまり2週間後に受け取ることができる場合もあります。もちろんもっとかかるものもあります。たとえばイタリアGPで投入された新型シャシーのアイディアは開幕戦の日本GPから始まっていました」

--------中期的展望において、開発に関するプライオリティは何ですか?
「トップスピードはそれほど悪くありませんが、加速性能を伸ばしたいと考えています。またシャシーに関してもさらなる改良を進めています。
月曜日にはここでテストを行い、その後の1ヵ月もオランダ、イギリス、ドイツととても忙しくなるでしょう。そのあともう一度テストを行い、夏休みに入ります。
 というのも、今シーズンの規則の改定によりこの期間はどのチームもテストを行ってはいけないことになったからです。これは同時にチームメンバー全員にとってありがたい、ほっとできる期間になりました。テストセッション、ふだんの残業に加えて、毎回のように投入される新パーツとの格闘と、何と言っても今年は大変でしたから。日本人スタッフも短い休みを取りますが、彼らはきっと、シーズン後半戦にむけて日本に帰っても仕事を続けることになるのです。」


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