ロス低減と小型化に貢献するエンジン
ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。
軽量・コンパクトでハイパワー、高い信頼性と優れた環境性能を併せ持つヤマハ船外機は、世界180もの国や地域で愛用されています。その累計生産台数は、第1号機の「P-7」(1960年)から数えて、およそ50年間で1000万台を超えました。「軽く小さく、高性能な製品」を目指したモノ創り ― その少し欲張りな目標が、新たな発想や技術の革新によって同時に達成されることがあります。たとえばヤマハ市販製品としては初めてオフセットシリンダー採用の小型船外機72ccの「F2.5A(日本市場では「F2A」)」(2002年)(#1)もその一例です。 小排気量の船外機は、動力性能でライバルと差が出にくいと言われますが、徹底したロス馬力低減を図り、細部に最新技術を織込んだクリーンで小さな高級品なのです。
「F2.5A」の活躍シーンは、主にヨーロッパを縦断する運河のネットワーク。総計5万kmに及ぶと言われる運河網で、静かなクルージングを支え、またビーチでのレジャーでも活躍しています。この4ストロークは、低燃費、低騒音はもちろん、船外機の課題と言われていた徹底的なコンパクト化を達成したことが特徴。その鍵が「オフセットシリンダー」でした。この仕組みは以後、各モデルの用途毎に最適化され、150PSの「F150A」など船外機だけでなく、50ccスクーター「Vino」から、「YZF-R1」など最高峰スポーツモデル、そしてモトクロッサーまで(#2)、多くのモデルにそれぞれの製品特性に合わせて最適な設定で織り込まれています。
オフセットする技術
ピストンは、燃焼室内の爆発により押し下げられ、これがすべての駆動力の源となります。しかし厳密には、真下に向かって押し下げられているわけではありません。わずかながら斜めの力が働くことでピストンはシリンダーの壁に押し付けられ、これが摩擦によるロスを生み出します。この摩擦ロスはコンロッドを長くすることで低減できますが、それではエンジン自体が重く大きくなってしまいます。
この相反する二つの問題を同時に解消するオフセットシリンダーは、シリンダー内の圧力が最も大きくなる瞬間に、ピストンとコンロッドの軸が重なるよう、シリンダー及びピストンの中心とクランクの中心をオフセットさせる技術です。こうすることで、ピストンとシリンダーの壁の摩擦は低減され、同時に燃焼によるエネルギーを効果的に引き出すことが可能になりました。「F2.5A」では、ボア54mm×ストローク31.5mmに対し、10mmのオフセットを設定することで、燃焼効率を向上するとともにコンパクト化にもつなげています(#3)。
オフセットシリンダーは、そのオフセット値の設定により、燃費や出力、レスポンスなどにも影響を与えます。製品特性に合わせて最適な設定を開発するところに技があります。