Yamaha Motor Revs Your Heart

ヤマハの未来を描くひと Vol. 01

オーディエンスとつながりたい

長屋明浩 AKIHIRO NAGAYA

PROFILE
ヤマハ発動機・執行役員デザイン本部長。
1960年愛知県生まれ。83年愛知県立芸術大学卒業、同年トヨタ自動車に入社し、初代レクサスLSなどのデザインに関わる。その後、レクサス企画部レクサスブランド企画室長、トヨタデザイン部長、テクノアートリサーチ社長などを歴任。2014年ヤマハ発動機に入社しデザイン本部長に就任、2015年より執行役員を務める。

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01 トヨタ、レクサス、ヤマハ。ときどきミュージシャン

長屋明浩さんのことをおおまかに説明すると、トヨタ自動車でデザインに携わったのちにヤマハ発動機に移籍して活躍している、“のりものデザイン業界の偉いひと” だ。そんな長屋さんが本業を離れて熱中しているのが、小学生のとき以来とぎれることなく続けている楽器演奏である。幼いころにはじめて手に入れたヤマハ製のトランペットや、それがきっかけですっかり虜になってしまった「管楽器」への想いはとくに強く、その後さまざまなバンドでプレイしながら今日に至っているという。インタビュー前、ご自宅にスタジオがあるとは聞いていたものの、いざたどり着いてみると目の前には木目の風合いがなんとも温かみのあるログハウスとガレージ。ホントにこのなかに、音楽スタジオがあるんだろうか……?

「ようこそ!」と自ら外までスタッフを出迎えてくれた長屋さん。初対面での印象は、「音楽業界でサクセスしたミュージシャン」という感じ。大企業の役員職に就くひと、という見え方はまったくしない。フレンドリーな語り口、カジュアルなスポーツウェア(長屋さんのもうひとつの趣味は、毎日欠かさないというランニングだ)、そして優しいまなざし。どれもがこちらの前のめりな気構えをスッとほどいてくれる。
高い吹き抜けのリビングを通り抜け、さっそく通してくれた地下室のスタジオの床には、撮影のために事前にそろえてくれた愛用の管楽器類がきれいに並べられていた。日ごろ見慣れたサックスやトランペットから、なかにはまったく音が想像できない異形のものも……。それらをひとつひとつ奏でながら、特色を丁寧に説明してくれる長屋さんにますます興味がそそられた。

02 人の気持ちに訴えるものに、それほど“幅”はない

「ぜんぶひとり、我流でマスターしたんです」。たぶん楽器は、人に教わるものではないと長屋さんは切り出した。初歩のステップを越えてしまえば、その先にある音楽の“本当に大事なこと”は誰にも教えることができないだろう、と。だから演奏に正解なんてないし、型にとらわれないジャズが、アドリブが多くて自由だから好きなのだと言う。ちょっと面白いのが次の言葉だ。
「人の気持ちに訴える歌や音に、じつはそれほど“幅”はないと思うんです。人間の好みなんて大きな違いがないからこそ、音楽も大勢のハートに届く。僕はそんなピンポイントの“快感のツボ”みたいなものを演奏しながら探していて、それを見つけることができたときは、何よりも興奮するんですよ(笑)」。
そんな演奏で観客が感動し、プレイヤーが客席と濃密なバイブスでつながった瞬間を、長屋さんは独自の表現で“神降ろし”と呼ぶ。

ちなみに毎日欠かさず行うランニングは肺活量をキープするためかと思いきや、トランペットもサックスも吹くために肺活量はさほど必要ないらしい。吹いていて苦しいのは、どこかプレイの仕方が間違っているから。「デザインも演奏と一緒で、ラクにプレーできるのが基本。力んでやっちゃダメなんです。プレーそのものに力を使うのではなく、一歩先の“表現”にパワーを使いたい。トランペット奏者の日野皓正さんは、『たくさん演奏したって楽器なんか上手くならない』と言ってるんですね。演奏に明け暮れるよりも、いろんな人生経験を積んだほうが、表現にプラスになると僕も思いますね」。そしてこれはデザインにおいても同じことで、どうやったらキレイな線が描けるかはさして重要ではなく、大切なのは観客、つまりプロダクトの先にあるユーザーとつながることなのだ。

03 相手を気持ちよくさせることだけを考える

「ライブのステージに立って奏でる音楽は、どこかシェフが作る料理に似てるんですよ」と話す長屋さん。美味しい料理とは、素材ひとつひとつの味が生きていながら、全体が絶妙に調和している。「美味しいこと・気持ちいいことって、人間にとってすごく本質的なことなんです。それを追求することで人間は幸せになれたし、その営みが文化や芸術を生んできた。人類が発展してきた大きな理由って、そこにあると思います。クリエーターは本質的なものは何かを捉えて、相手を気持ちよくさせることだけを考えたほうがいい」。インタビューの数日後、都内で長屋さんのバンドが開催するライブに赴いた。30名ほどを収容できる会場は立ち見がでるほどの盛況ぶり。クラシックジャズやフュージョン、さらにはラテンアレンジなども加わった多彩な曲目。そして実際に自分を含めて多くの観客がライブの間中恍惚の表情を浮かべ、じつに気持ちよく音楽に酔いしれたのだった。

では、デザインにおいては何をすれば “神”は降りてきてくれるのだろうか。
「余計なことはなるべく考えない。そのほうがいいデザインができますね。でも、コンペのように勝ち負けが決まってしまう状況も多い。そのときに大事なのは、どうやったら相手に勝てるかではなく、いかに自分に負けないようにするかということ。小手先のメソッドやスキルなんて無意味です。邪念や雑音は消し去り、ひたすら自分と向き合うことで本質に近づくことができるはず」。

04 イノベーションセンターの触媒(カタリスト)

現在、ヤマハ発動機のデザイン本部長としてヤマハデザインそのものを統括する立場である長屋さん。「僕のヤマハでの役割は、言ってみれば“触媒”みたいなものですね。組織を作ったり、道筋を示したり、コンセプトを提案したりと、デザインの志向や対象をみんなの目に見えるようにすること。そうすることでデザインの領域をより広げていきたいんです。」2017年に完成したヤマハモーターイノベーションセンターにも、そんな長屋さんの思いが込められている。2階から4階までが吹き抜けでつながり、各フロアには壁もドアもないという独創的なデザインは、内部の活発なコミュニケーションを促してシナジー効果を狙っている。

また、同じYAMAHAブランドを掲げるヤマハ発動機とヤマハ株式会社のデザイン部門によるコラボレーション「Two Yamahas」の共同プロジェクトも、長屋さんの“触媒効果”によるものだ。ふたつのヤマハが創業以来追求してきた「乗り物」と「音楽」は、どちらも人間の営みをより豊かにする文化であり、心に歓びを与えてくれるもの。まったく異なるふたつの企業が同じルーツを共有し、強い結びつきで協働できることもヤマハならではのバリューだという。
「デザイン本部という組織や、ふたつのヤマハブランド。僕はもっといろんな場所でいろんな人に“神降ろし”を起こしてほしいんですよ(笑)」そう言って長屋さんはいたずらっぽく微笑んだ。

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