Vol.1: 「バイクは体重移動で曲がる」と言うけれど・・・。

バイクに乗り始めて17年になります。バイクに惹かれるのは、やはりコーナリングの爽快さです。でも「コーナリングが綺麗に決まった」と自分で思えることは、時々かな・・・。そもそもバイクが何故曲がってくれるのか・・?どうやれば上手に曲がれるのか・・・?という基本が、よくわからないんです。

コーナリングはバイクの醍醐味

なるほど。では真由さんは、どのようにしてバイクで曲がりますか?真由流の曲がり方とかありますか?
またどうしたらバイクは傾いて曲がるのでしょう・・・?

そうですね。コーナーでは先の方、出口に視線を向け、曲がる内側のフットレスト(#1)を踏みつける、という感じですかね。

(#1)「曲がるきっかけ」をつくることに役立つ時もあるフットレスト

確かに、教習所などのスラロームでは曲がるきっかけをつくる操作として、フットレストを踏むということはありますね。デモ、まゆさん一般道でコーナリング時に毎回踏んでます?
私は、曲がる時に全く踏まないとは言いませんが、ツーリングなどでは殆ど踏んでません。だって、フットをレストさせるところですから。(^^ゞ

そうですか。なら、やっぱりバイクを十分に寝かせることもポイントですかね。内側に体重を移動してやるのも重要かと・・・。
MotoGPのライダーも、思いっきり内側に体重を移動しているし、膝を擦ったり、肘を擦りそうにしたりしてコーナリングしています。やはりバイクを傾けるて曲がるのは、体重移動ですかね。

たしかにMotoGPなどでは、大胆な「ハングオンスタイル」(#2)が一般的ですね。でもそれは、バイクを傾けて曲がるための”条件”とは言えません。あれはコーナーで、遠心力とのバランスをとる工夫のひとつ、とボクは見ています。何故ならモトクロスではライダーがリーンアウトの姿勢を取ることが多く、曲がる方向とは逆に体重をかけていますよ。(#3)つまり体重を移動する側と、バイクが傾いて曲がる向きとは同じではない訳ですよ。

(#2)MotoGPでの「ハングオン」シーン

(#3)曲がる向きとは逆に体重を掛けるモトクロスシーン

MotoGPも、モトクロスもやはり体重移動でバランスをとっていることには違いないですよね。やはり傾けて曲がることと「体重移動」は繋がっていると思いますが。違ってますか・・・・?

んじゃ、ひとつ映像を紹介しましょう。これはヤマハ発動機の研究開発のひとつです。マシンにロボットが跨り操縦し、サーキットを走行するという映像です。
https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/motobot/
映像を見る限り、このモトボット君は全く体重移動していませんよね。と言うか出来ません。なのに、このマシンはサーキットを高速でコーナーを気持ち良さそうに曲がって走れています。


これは電子制御のチカラでマシンとロボットを制御しているわけでしょ。人が扱うバイクでは、違和感も少々。
体重移動できないモトボット君はどうやってバイクを傾けてコーナリングしているんですかね。
ハンドルを操作している?一瞬反対にきっているとか?

いま、「ハンドルを一瞬反対にきる」って言いましたね。いい表現です。ちょっと専門的用語になりますが、それを“逆操舵”(#4)と言います。例えば右に”逆操舵”すると、マシンはその反対側(左側)に倒れようとします。皆さん経験があると思います。そこが実は鍵です。
ライダーは曲がるとき、意識するしないにかかわらず、”逆操舵”をしています。その角度はとても微小で、曲がりたい方向と逆にハンドルを”押す”と言った方が、むしろ感覚にあうかもしれません。

(#4)「逆操舵」:軽くハンドルに力を加える(押す)と、その反対方向にバイクは曲がる性質があります。

へーッ。ハンドルを曲がりたい方向と逆に押すことでバイクが傾いて曲がってくれるということですね。

そう。左に曲がるなら、右に僅かにハンドルをきります。逆操舵です。
例えるなら、傘を手のひらの上で立ててバランスをとった状態をイメージしてみましょう。左に移動しようとする場合、一瞬手のひらを右に動かすと、傘は左に倒れ始めますね。そして左に手を動かすと、傘はバランスをとったまま左に動いてくれます。バイクのコーナリングはそれととても似ています。(#5)
つまりライダーは逆操舵することで、旋回したい方に車両をバンクさせ、あるバンク角になると逆操舵を無意識にやめ、腕の力をぬくことで、バイクは自然に曲がる方向にハンドルをきっていきます。
するとバイクはバランスをとってバンクしたまま気持ちよく曲がっていくのです。これらの動作をライダーは無意識でやっています。しかもその舵角は極僅かで、コンマ数度から2度程度。だからライダーとしてはハンドルを操作した感覚が、ほぼないのですよ。

(#5)ライダーの「逆操舵」は、傘でバランスをとる動作に似ている

へー。そうですか。逆操舵ですね。

MotoGPライダーも、コーナーでのハンドルのきれ角はそれぞれ違いがあるようです。凄くハンドルをきることもあれば、そうでないことも。それが高度なGPテクニックなのかも。そんなことを考えながら、MotoGPの車載カメラの映像を眺めると、面白いかもしれません。

なるほど。ありがとうございます。バイクを傾けて曲がるために、実は人がハンドル操作しているんですね。でも、人間はなぜ、そんな高度な操縦が無意識のうちに出来るのでしょうかね。

ヒトは、重力のある地球で誕生し進化してきたわけです。だから自然に、重力などと上手にバランスして暮す“技”を身に付けてきたのでしょうね、きっと。

”バイクは体重移動で曲がる”と言うのは、都市伝説かもしれません。