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大陸生成の謎探究に貢献した無人ヘリコプター

ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。

火山石採取用機材を吊り下げ、西之島の火口付近撮影に向かう「RMAX G1」

東京の南1,000kmの太平洋に浮かぶ西之島。2013年11月、39年ぶりの噴火活動があり溶岩流によって陸地面積を広げていきました。“地球上に陸地が生成されるメカニズムの縮図”として科学者から注目され、接近映像を紹介するTV番組の依頼をうけた私たちヤマハは、産業用無人ヘリコプター(以下無人ヘリ)「RMAX G1」を専用仕様に仕上げて提供・協力、2015年夏に映像収録、火山石サンプル採取活動をサポートしました。
食糧自給率向上を照準に誕生したヤマハの無人ヘリですが、今ではこのような農業以外の撮影や測量、ソリューションに稼働エリアを拡大。地震計測、火山地帯の磁場観測、地形測量、放射線測定、干潟観測などに動いています。西之島での働きは無人ヘリの可能性をまた示したのでした。

※NHKスペシャル 「新島誕生 西之島~大地創成の謎に迫る~」として2015年8月に放送されました。

将来性を視野に入れた「RMAX」の設計

日本の食糧自給率アップはかねてより国家的な課題でした。農地も狭く、生産者の高齢化と後継者不足、農村構造の多様化など、乗り越えるべきテーマがありました。害虫は春から秋にかけて、2世代目、3世代目と代替わりしながら稲に棲みつきます。鳥もやってきます。そこに薬剤散布を効率的に行える産業用無人ヘリの必要性がありました。
ヤマハは1987年、産業用無人ヘリ第1号「R-50」を発表、有効積載量20kgの薬剤散布用無人ヘリとしては世界初で、水田での薬剤散布での稼働が始まりました。モニター期間のデータ収集を経て1989年にはこの「R-50」(#1)を市販しました。
1997年には2代目となる「RMAX」を発売。10個のCPUを配し常に運転状況を把握し、万一の際にも異常部位を使わずに制御する機能を付加させました。薬剤散布の性能に加え、将来予想される新用途への適合も考慮した設計でした。自動飛行できる無人ヘリ開発を視野にしていたのです。ボタンひとつで自動的に離陸し、決められたコースを飛び離陸地点に自動的に戻り着陸できるというものを。とはいえ、1990年後半、農業分野での「RMAX」普及は横ばい状況にあり、先行開発による技術的裏付けは得たもの実用化は見送っていました。

観測・計測業務で稼働する「RMAX G1」

2000年3月、北海道・有珠山火山が活動を再開しました。周辺エリアは立ち入り禁止で火山活動の状況観測が急がれていたとき、ヤマハは建設省から依頼を受けました。火口付近の観測のための無人ヘリを提供できないかと。さっそくチームを組み、不眠不休の2週間の作業の末、可視外エリアで自動飛行できるシステムを構築。有珠山観測のための特別仕様の要請が、「自動航行型RMAX」(#2)の実現を促したのです。「RMAX」に標準装備のYACS(姿勢制御装置)用の姿勢センサーに加え、方位センサー、GPSセンサーを搭載し位置・速度などを検出でき、さらに精度を確保するためRTK-DGPS(リアルタイムキネマティックディファレンシャルGPS)を織り込んで実用化させました。
遠州灘の海岸線で飛行させ作動を確認すると、4月末に有珠山へ。有人ヘリでの観測をサポートする形で「RMAX」は火口付近まで飛び撮影に成功。世界初の可視外での飛行プログラムに基づいた自動飛行でした。地形変化や火山灰状況をクリアーなライブ映像として観測本部に届け、気象予測に必要な指標を提供、無人ヘリの力を示しました。

要請からわずか数週間でこのシステムを組み上げることができたのは、当時進めていた基礎研究の実績がありました。そしてこの実績が、「RMAX」の次世代型開発のスピードを一気に加速させていきました。
2003年には、農業用に高精度GPSを用いた「RMAX Type II G」(#3)を発売、2006年にはこの「Type II G」ベースに開発された自動航行型・産業用無人ヘリコプター「RMAX G1」(#4)が誕生しています。

この「RMAX G1」は、YACSと RTK-DGPS(リアルタイムキネマティック・ディファレンシャルGPS)システムで、事前にプログラムした飛行計画に基づき飛行が可能。視認できないほど遠くへ飛行し、正確に機体の位置を制御、GPSでの航行速度も確認でき指示した速度を守って飛行することも可能です。カメラや計測器などアプリケーション搭載でき、情報をリアルタイムに得られます。火山調査、地震データ収集など様々な場面で稼働しています。

可能性を示した西之島での「RMAX G1」

西之島の撮影・観測作業にあたっては姿勢制御や離発着基地、電波障害などといった新しいハードルもありました。
飛行を制御するには機体の姿勢角の検出が必要です。ジャイロセンサーで角速度を計測、それを演算(時間積分)して得るデータだけでは誤差がでるため、加速度センサーと方位センサーを併用して誤差を補正。ジャイロセンサーは電源ONする毎に角速度のオフセットが入るため、静止時に除去する仕組みを「RMAX G1」には織り込んでいますが、揺れる船上では勝手が違いました。
火口から4km離れた太平洋上の船から離陸させる必要がありました。揺れる小型舟の上では静止状態を得られず、ジャイロ起動に誤差が生まれます。そこで拡張型カルマンフィルターと呼ぶ推定システムを応用して解決したのです。 
「RMAX G1」は、離発着時は農業用と同様、操縦者が送信機を用いて操縦します。しかし揺動するところでは難易度が高く、離発着を確実に行うため水平な離発着面が不可欠。そこで船体の揺動をセンシングし離着陸台(#5)が常に水平となるよう電動モーターで制御しピッチ、ロール、ヨーの揺れをキャンセルする仕組みを構築し、離発着の確実性を担保したのです。
電波通信では、発信源からの電波が受信側に複数届いてしまうマルチパスと呼ばれる通信障害への対策も施しました。基地地点(船上)からの電波が海面に跳ね返って無人ヘリ側に届くと、電波が干渉し減衰されるからです。「RMAX G1」では外部要因で電波が受信できなくなったときは、自動で基地局まで戻れる仕組みを織り込んでいますが、この場合は搭載カメラ操作やサンプル回収用機材の操作も出来ません。そんな状況を避けるため基地局の送受信アンテナは高さの異なる2本とし、飛行ルートに応じてアンテナを使い分ける方法で対処したのです。
ヤマハの無人ヘリは、各分野の様々な新技術とのコンビネーションで、活躍シーンを広げているのです。

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