自動運転AIチャレンジ
「自動運転AIチャレンジ」に出場した新入社員たちと、彼らをサポートした先輩社員が集い、挑戦の軌跡を振り返ります。
ヤマハ発動機は、日本最大級の自動運転技術競技大会「自動運転AIチャレンジ」に、新入社員4人からなるチームで挑み、3位を獲得しました。参戦した新入社員とサポートした先輩社員が、約4カ月間にわたる挑戦の軌跡を振り返ります。
Crosstalk Member
大会に参加した新入社員
技術・研究本部 技術開発統括部
エネルギーマネジメント研究部
技術・研究本部 技術開発統括部
知能化研究部
技術・研究本部 技術開発統括部
知能化研究部
技術・研究本部 技術開発統括部
エネルギーマネジメント研究部
サポートした先輩社員
技術・研究本部 技術開発統括部
知能化研究部
技術・研究本部 技術開発統括部
知能化研究部
「自動運転AIチャレンジ」とは
公益社団法人自動車技術会が主催する、日本最大級の自動運転技術競技大会。「CASE」「MaaS」と呼ばれる新たな技術領域における、これからの自動車業界を牽引する技術者の発掘・育成を目的とした取り組みとして実施されています。2025年大会には、全国の大学、研究機関、企業から249チームが参加しました。
なぜ新入社員が参戦?
真剣勝負を通じて、ヤマハ発動機の技術者としてのマインドを養成
私たち技術開発統括部は、これまでにない技術を通じてヤマハ発動機の企業目的である「感動創造」を実現することを目指し、「知能化」「エネルギーマネジメント」「人間研究」の3つ技術領域で研究開発に取り組んでいます。単に困りごとを解決するだけでなく、独創性や挑戦心をもってお客さまに提供する価値を生み出すことを大切にしており、そのためには研究者・技術者自身が楽しみながら技術に向き合うことが重要と考え、さまざまな取り組みを進めてきました。
「自動運転AIチャレンジ」への参加もその一つです。これまでは主に中堅社員が自己啓発的に参加してきましたが、今回は初めて、新入社員に部門研修の一環として挑戦してもらうことにしました。真剣勝負の場を通じて、ヤマハ発動機の技術者としてのマインドを養ってもらうことが狙いです。
TALK1 配属直後からの挑戦
参加した新入社員は全員、自動運転について知識も経験もない状態からのスタートでした。まずは参加が決まった時の心境を聞きました。
「自動運転AIチャレンジ」に出場すると聞いた時、どう感じましたか。

聞いたのは入社して2カ月たった頃、技術開発統括部に配属された直後でした。社外の大会に新入社員だけで参加すると聞いて、正直「そんなことあるんだ」と驚きました。ただ、ヤマハ発動機は「挑戦する会社」という認識はもともとあったので、その社風を考えると、どこか「らしいな」とも感じました。同時に、自分も本当にヤマハ発動機の一員になったんだ、という実感が湧いたのを覚えています。

私は学生時代にヤマハ発動機でのインターンを経験しています。その時から「自由闊達な会社」という印象は持っていました。しかし実際に配属されたその日に「大会に出ます」と聞いて、本当に固定観念にとらわれない会社なんだな、と改めて感じました。AIの経験はほとんどなかったですが、「面白そうだな」というのが率直な第一印象でしたね。

私も入社前から「ヤマハ発動機は自由でチャレンジ精神旺盛」と聞いてはいましたが、研修の段階からそれを体感するとは思っていませんでした。いきなりの大会参加で、「本当にそういう会社なんだ」と驚きました。一方で、初対面のメンバーや、初めて取り組む自動運転という分野に対して、不安があったのも正直なところです。

大会という性質上、良くも悪くも結果がはっきり出るプロジェクトなので、ワクワク感と同時に、多少のプレッシャーも感じました。ヤマハ発動機がレースや競技への挑戦を大切にしている会社だということは知っていましたが、それが社外へのアピールだけでなく、社員の成長機会としても重視されているんだ、と実感しました。

キックオフミーティングで「優勝を目指します」って言った時、皆さん「えーっ!?」みたいな感じだったよね(笑)。でも、私たちにも「勝てるだろうか」という心配はありました。ただ一方で、新人に任せてみるというのは、ヤマハ発動機らしい、面白い取り組みだとも感じていました。どうすれば皆さんが力を発揮できるかを考えることが、サポートする側としてこのプロジェクトで一番悩んだ点ですね。

それと、いかにスキルを習得してもらうか、ですね。今回の大会参加はOJTの一環です。単に大会に向けての技術を学ぶのでなく、今後の業務にも活かせるスキル、例えばタスク管理ツールを使って業務を整理するスキルなども身に付けてほしいと考えていました。

TALK2 サポート環境とチームワーク
先輩社員はどのような意識でサポートしたのか、参戦する社員はそれをどのように感じていたのか、などを語り合います。
サポートする側としては、どのような関わり方を意識していましたか。

「自立して進められるように見守る」ことですね。自分たちで考えて動けている間は、できるだけ干渉しないようにしていました。また、技術そのものよりも、仕事の進め方や周辺ツールの使い方、部内の他の社員との橋渡しといった部分を中心にサポートしていました。

悩んでいそうだと感じても、こちらからはあえて口を出さない。まずは自分たちで考えてもらうことを優先しました。

私たちにも「まずは自分でやってみよう」という意識がありました。ただ、時間がかかりそうなときや、本当に詰まったときは、すぐ相談できる環境だったのが心強かったです。

サポートする立場としては「少し任せすぎかな」と不安になることもありました。

いえ、困ったところだけ的確にサポートしてもらえた印象です。最初は開発の進め方をしっかり教えてもらって、その後は任せてもらえた。そのバランスがちょうど良かったと思います。

毎日開催された「朝会」でサポーターの皆さんに進捗や悩みを共有できたのも助かりました。

同期同士ならではのチームワークはいかがでしたか。

とても話しやすかったですね。仕事のことだけでなく、たわいない雑談もできる関係だったので、情報共有や分からない点の相談も、その都度気軽にできていました。

遠慮せずに否定も肯定もできる関係性なのが良かったと思います。意見がぶつかることもありましたが、最終的には全員が納得した上で方針を決めていくことができました。

フロアの一角に私たちのチーム専用のスペースを用意してもらえたのも大きかったです。周囲を気にせずに話せて、ワイワイと楽しく取り組めました。

面白いなと思ったのは、皆さんがそのスペースの座席配置を自主的に変えていたことです。

「ここが君たちの作戦会議室です」と案内された直後に変えました。最初は対面配置だったのですが、それだと画面を見せながら話し合う際に手間がかかってしまう。そこで「コの字型」に机を並べ替え、全員がその内側に座る配置に変更して、お互いの画面を見やすくしたんです。

スムーズに話し合いを行うのにとてもいい配置でしたね。新人ならではの柔軟な発想がいきなり形になっていて感心しました。

TALK3 予選敗退の危機
まず、オンラインシミュレーションによる予選がありました。大手自動車メーカー各社を含む計249チームが参加する中、決勝に進めるのは、学生クラス・一般クラスのそれぞれ上位8チームのみという厳しい条件でした。
予選ではどんな役割分担だったのでしょうか。

私は、モデル予測制御(MPC)を担当していました。

パラメーターの最適化を追究していました。

車両が自分の位置を正確に把握するための「自己位置推定」を担当しました。

私は全体を見ながら、経路生成など複数の機能を担当していました。チーム全体の方向性を考える役割です。
予選は突破できそうだ、という手応えはありましたか。

期間が2カ月あったので、最初は「どう転ぶかわからないな」という感じでした。ただ、中盤に入ってくると、「これは結構厳しいぞ」と。プログラムを提出すると順位が出る仕組みで、予選開始直後には2位や3位に入ることもあったんですが、すぐに更新されてしまって。一時期は予選通過圏外の12位くらいまで落ちたこともありました。

「このままだと落ちる」という焦りは、正直ありました。そこだけは何とか避けたい、というのが共通認識でしたね。

当初は、比較的古典的な方法と、最先端技術を取り入れる方法、2つの方向性を並行して進めていました。でも残り2~3週間になって「もう絞らないと無理だよね」とみんなでホワイトボードを囲んで議論して、最終的に古典的な方法に一本化しました。

予選を通して結果が出ていたのが古典的な方法だったから、何が何でも通過するならそっちだよね、と。

泥臭くてもいいから勝ちにいく。4人で話し合ってそこに振り切った判断をしたわけですね。勝利にこだわるヤマハ発動機らしい姿勢だと感じました。
最終的に予選の順位はどうなったのでしょうか。

一般クラスで2位に入ることができました。うれしいというよりは、まずは決勝に進めて、正直、ほっとしましたね。

自分も一番は「ほっとした」ですね。「次につなげられたな」という感覚がありました。

ただ、1位との差が0.7秒くらいで。あと少しで1位だったな、という悔しさもありました。

TALK4 練習会での大失敗
シミュレーションによる予選を2位で突破し、次は実機を使って行われる決勝に向けての準備です。決勝本番の3週間ほど前に練習会がありました。
練習会に向けての取り組みについて教えてください。

練習会で初めて実機に触れることになるので、「まずは実機のデータを取ろう」という話になりました。位置情報や、車両の向き・加速度を測る機器を準備しました。私はこれまでハードの測定機器を扱った経験がほとんどなかったので、何を選ぶかはかなり悩みましたが、メンバーやサポーターの方と相談しながら準備を進めました。

予選の時は各自が比較的自由に開発していましたが、決勝を見据えると時間が限られているので、そうはいかなくなりました。練習会までに「何をやるか」をある程度絞り込み、話し合いながら役割分担を決めていった時期でした。

決勝の前に実機を走らせられる機会が練習会の1回しかなかったので、とにかくその1回でできるだけ多くのデータを取る、というのが大きな目的でした。
練習会の結果はどうだったのでしょう。

それが、大失敗に終わったんです。失敗の内容は大きく分けて2つあります。1つは、実機用に作成した自動運転システムが、まったく思うように動作しない。壁にぶつかって1周もできない状態でした。もう1つは、複数の自動運転システムを状況に応じて切り替えるオペレーションの仕組みがうまくできていなくて、現場で混乱してしまったことです。

タイトなスケジュールの中、突貫で仕上げたプログラムで臨んだ練習会だったので、ある程度覚悟はしていましたが、やはり思うようにはいきませんでした。「ここだけはデータを取りたい」というポイントを狙ってはいたものの、現実はなかなか厳しかったですね。

走行中の実機にコマンドを送る役割を私が担当していたのですが、クルマが想定外の動きをした瞬間にパニックになってしまって。うまく対応できず、悔しさが残りました。
その失敗を受けて、決勝に向けてはどのように立て直していったのでしょうか。

本番まで3週間しかなかったので、「残りの期間で何をやるか」をはっきり決める必要がありました。全部はできないので、改善すべき点を絞り込み、優先順位をつけて開発を進めていきました。正解が見えない中での判断は難しかったですが、決断しないと前に進めない状況でした。

決勝まで実機で検証できないため、シミュレーションやログ解析を中心に、本当に正しく動くかを確認していきました。「試せない中でつくる」というもどかしさはありましたが、できることを一つずつ積み重ねていくしかなかったですね。

失敗した時はがっかりしましたが、「つぶすべき課題が明確になった」と切り替えました。人が判断してコマンドを送るのは限界があることがはっきりしたので、決勝に向けては、その部分を自動化する方向に舵を切りました。

TALK5 いよいよ決勝!
決勝は、大会が用意したレーシングカートを自動運転で走らせて、20分間の持ち時間の中で1周の最速タイムを競います。当日は雨模様の不安定な天候でした。
決勝は2日間にわたって行われたんですよね。当日の状況から教えてください。

2日間とも雨だったことは予想外でしたね。

しかも勝負の2日目は、途中までは晴れていて、私たちが走る前から雨が降り始めてしまった。

出走前は練習会で走れなかった記憶がよみがえって、「ちゃんと走るかな」と心配な気持ちが強かったです。

雨で滑りそうな箇所を確認して、速度や経路をどう修正するかを朝から細かく調整していました。


ただ、雨は決してネガティブなだけの要素ではない、とも考えていました。3週間前の練習会でかなり完成度の高い走りをしていたチームがあり、同じ晴れの条件で勝つのは厳しいと感じていました。雨で条件がリセットされたことで、全チームが同じスタートラインに立てた感覚はありましたね。

実際に走り出したときの気持ちはいかがでしたか。

さまざまな状況を想定して複数のシステムを用意して臨んだのですが、1周目は安全重視で走らせました。そのため1周目については、タイム自体は良くなかったのですが、まずはとにかく1周できたことにほっとしました。そこから加速度や経路を少しずつ攻める方向に切り替え、タイムを上げていきました。


私はコース内で実機の挙動を見て、「もう少し内側を攻められそう」「ここは滑っていない」といった情報を伝える役割でした。タイムが縮まっていく動きを目の前で見ることができて、すごく面白かったです。

その情報に応じてシステムを切り替えていく中で、「こう変えたら、こう動く」という予測通りに実機が動いてくれるのを見た時は、とても感動しました。画面上のシミュレーションとはまったく違う感覚でしたね。

私も同じ気持ちでした。練習会ではぶつかった箇所のメモになっていた記録用紙が、本番では一枚の記録用紙では収まらないくらいラップタイムを記録することができ、成長を感じました。

ベストタイムが出た瞬間は、思わずガッツポーズが出ましたよ。

最終的な結果は?

一般クラスで3位入賞を果たすことができました。天候も含めて運の要素もあった大会でしたが、その中で3位を取れたのは素直に満足しています。

表彰台に立てたうれしさは大きかったです。ただ、総合1位の学生チームは本当に洗練された走りをしていて、運を除いても勝てなかっただろうな、という悔しさもありました。

できることはほぼすべてできた感覚があります。冷静に考えると、この3位が今の自分たちの実力なんだと思いました。

練習会では1周もまともに走れなかったことを考えると、ここまで本番で走ることができたのは正直驚きでした。悔しさもありますが、それ以上に成長を実感できた大会でした。
サポーターの方からはどんな反応がありましたか。

「感動した!」と言ってもらえました。その先輩社員は大会が行っていたYouTube配信の解説役も現地でしてくださって、すごく盛り上げてくれたことも印象的でした。

私のOJTリーダーは現地には来られなかったんですが、「ずっとYouTubeで見ていたよ」と声をかけてもらって、ちゃんと見守ってもらえていたんだなと感じました。
TALK6 挑戦から得たものを次へ
大会参加を通じて得られたものと、それを今後にどう活かしていくか、などについて、最後に聞きました。
サポートした皆さんも、大会を振り返っての感想をお聞かせください。

予選をきっちり通過し、決勝でもしっかり結果を残してくれたのは本当に素晴らしかったですね。決勝前の練習会ではうまく動かない場面もありましたが、そこでの失敗を踏まえてきちんと立て直した。当日は想定外の雨という難しいコンディションでしたが、その中でも結果を出したのは見事でした。

シンプルに「誇りたい」という気持ちです。自動運転を専門に研究している学生や企業チームがいる中、未経験からスタートして3位という結果を出した。その過程で見せてくれた、未知の領域でも臆せず挑戦する姿勢や、独創性を発揮しながら戦い抜くマインドは、同じ新入社員や部内の技術者にとっても良いお手本だったと思います。まさにヤマハ発動機マインドを新入社員が体現してくれたと感じています。
こうしたマインドが身に付いたという実感はありますか。

「自分たちが主導して進める」というスタンスで日々取り組む中で、自然と身に付いていった感覚があります。

実際の製品の開発ではなく、競技への参加なので、ある意味「失敗できる」環境だったのも大きいですね。挑戦心を持って思い切り試せたのが良かったと思います。

そこは狙ったところでした。安全に失敗でき、結果も含めてすべて自己責任という環境に置くことで、主体性を引き出したいと考えていました。

この経験を通じて得たものを今後、どう活かしていきたいですか?

仕事の進め方を学べたのが大きかったです。特に毎朝のミーティングで「やること・やったこと」を共有する中で、自分自身をマネジメントする習慣が身につきました。これは今後の業務でも必ず活きると思っています。

計画を立てて実行し、振り返るというPDCAの回し方は、このチャレンジでしっかり経験できました。分からないことをどう質問するか、どうタイミングを見極めるかといった点も、今後に活きると思います。

チームで一つのソフトウェアを作る際の進め方を実践的に学べました。ファイル管理や役割分担、GitHubなどのツールの使い方も含めて、実務に近い経験ができたと思います。

私も目標設定とタスク分解の仕方が特に勉強になりました。ゴールから逆算して、どう要素分解し、どこから手を付けるか。管理ツールを使いながら実践できたのは大きかったです。
発表の機会も多かったそうですね。

大会主催のプレゼンや社内技術展など、発表の場がいくつもありました。大学時代の発表と違って、専門外の人にも伝える必要があり、その分、説明の工夫を意識するようになりました。

新人のうちから社外で発表する機会は、なかなかありません。これも大会に参加したからこそ得られた経験です。
最後に、マネジャーとして今回の取り組みの成果についてお聞かせください。

今回の自動運転AIチャレンジを通じて、技術力そのものだけでなく、「技術を楽しみながら挑戦する姿勢」を育てられたことが、一番の成果だと感じています。新入社員が主体的に考え、失敗も含めてすべてを自分たちの経験として積み上げていく姿は、サポーター社員にも良い刺激になり、立場を越えて相互に影響し合う関係が生まれました。非常に有効な取り組みだったと考えています。今後も継続していきたいですね。

※所属部署、記事内容は、取材当時のものです。