フォーミュラE
「フォーミュラE」を舞台に奮闘する社員たちが、担当業務やその中での成長について語り合います。
ヤマハ発動機は、電気自動車のF1とも称される「フォーミュラE」に参戦しています。この活動に携わり、世界を舞台に電動技術の最前線で戦う若手社員3人と開発グループリーダーに話を聞きました。
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技術・研究・デザイン本部
AM開発統括部 第2技術部
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「フォーミュラE」とは
国際自動車連盟(FIA)が主催する、電気自動車による世界最高峰のフォーミュラカーレースです。すべてのチームに同一のシャシー(車体)とタイヤの使用が義務付けられており、各チームが関与できるパーツはパワートレイン(動力ユニット)やソフトウェア、リアサスペンションに限られます。また、決勝レースではバッテリー容量に制限があり、エネルギーマネジメントも勝負を分ける重要な要素です。
参戦チーム
ヤマハ発動機は、イギリスの「ローラ・カーズ」、ドイツの「ABT(アプト)」と共に「ローラ・ヤマハABTフォーミュラEチーム」として参戦しています。
ローラ・カーズ:レーシングカー・コンストラクター
ABT:チーム運営
ヤマハ発動機:パワートレイン開発・供給

ヤマハ発動機が参戦する意義とは?
世界最高峰の舞台で電動技術を磨く
地球温暖化をはじめとする社会課題を背景に、モビリティの分野では「電動化」が重要な技術の一つとなっています。ヤマハ発動機は「二輪車」や「エンジン」といったイメージが強いかもしれませんが、実は以前から四輪車向けの高出力電動モーターの開発にも取り組んできました。一方で、電動分野において、さらなる技術力の向上や経験の蓄積が求められているのも事実です。
そこで電動技術を飛躍的に高める挑戦の場として選んだのが、世界最高峰の電気自動車レース「フォーミュラE」でした。極めて高い技術レベルの環境に挑むことで、電動技術を磨く――それが、このプロジェクトに参戦する目的です。
TALK1 どんな仕事に取り組んでいる?
まずは今回の座談会に参加した若手社員それぞれに、フォーミュラEでどのような業務を担っているのかを聞きます。
まず若手社員の皆さんに伺います。フォーミュラEプロジェクトの中でどのような仕事に取り組んでいるのかを教えてください。

私は次のシーズンからマシンに搭載されるモーターの設計を担当しています。「電気で動くエンジン」を設計している、とイメージしていただけると分かりやすいと思います。

モーターは基本的に磁石や鉄で構成されています。専門用語では「電磁気構造」というのですが、テッキーさんは、その性能を最大限に引き出すための形状や組み合わせを追究しています。モーターの能力を左右する、とても重要な役割です。

私はエネルギーマネジメントを担当しています。フォーミュラEの決勝では使用できる電気の量がコースごとに定められています。規定周回数をより速く効率良く走り切るために、どのタイミングでどれだけの電気を使うかを制御する役割です。

私は2人が今話してくれたそれぞれの領域に携わってきました。以前はテッキーさんと一緒に次世代モーターのコンセプトづくりを担当し、車両全体として最適なモーターを検討していました。
現在は小杉さんと同じエネルギーマネジメントのグループに移り、限られたエネルギーをレースの中でどう配分すれば最も効率良く走れるのかを、データ解析などを通して検討しています。

TALK2 なぜ参加することに?
電気自動車によるフォーミュラカーレースになぜ携わることになったのか、経緯をそれぞれが語ります。
梅田さんは、どのような経緯でフォーミュラEプロジェクトにおいて開発グループリーダーを務めることになったのでしょうか。

私が入社以来所属しているAM開発統括部(旧 AM事業部)は、トヨタ自動車さんとの関わりが深く、古くはトヨタ2000GT、近年ではレクサスLFAなどに搭載される高出力でスポーティーなエンジンの開発に携わってきた歴史があります。
そうした中で、時代がエンジンからハイブリッド、そして電動へと移り変わる流れを受け、ヤマハ発動機としても電動領域に本格的に取り組むべきだという経営層の判断がありました。
私自身もトヨタ自動車さんのハイブリッド車の制御開発に携わるなど、電動技術に関する経験を積んできました。こうした背景があってフォーミュラEへの参戦が決定した際に、開発グループのリーダーを任されることになりました。

若手の皆さんは、どのような経緯で参加したのですか?

私は入社当初からこのプロジェクトに参加しています。大学時代にモーターの研究をしており、配属後、ちょうどフォーミュラEのプロジェクトでモーター設計の人材が必要だという話があって、声をかけてもらいました。

テッキーさんに関しては大学時代の研究内容も十分に把握していたので、ぜひチャレンジしてほしいと打診しました。新人であることに不安はまったくなく、むしろ「新人だからこそ、型にはまらずに自由な発想で、一番性能の出るモーターをデザインしてほしい」と考えていたんです。こうした思いは、最初に本人にも伝えたよね。

はい。とてもうれしくて、わくわくしました。「レース? それは熱い!」と。

私は入社後、電気自動車の車両制御を担当していて、3年目くらいのタイミングで「フォーミュラEプロジェクトに参加してほしい」と依頼を受けました。もともとレースが好きでF1もよく見ていましたし、学生時代には学生フォーミュラで電気自動車の開発に携わっていたので、声をかけてもらった時は純粋にうれしかったですね。

私は入社後、バイクの部品設計を担当していました。実は就職活動時から「電動分野に挑戦したい」という思いがあったので、その後「セルフ・バリュー・チャレンジ制度(現 セルフ・キャリア・チャレンジ制度)」という異動制度を利用して、現在所属するAM開発統括部へ異動しました。そこで自動車用モーターの設計を1年ほど経験した後、フォーミュラEのプロジェクトの話をいただきました。
丸井さんもレースには興味があったのですか?

とても好きです。私も学生フォーミュラの経験者ですし、入社後も社内の8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)チームを手伝ったりしていました。なので、ヤマハ発動機がフォーミュラEに参戦するという話を聞いた頃から、「面白そうだな」「やってみたい」と周囲によく話していたんです。おそらくそれが回り回って伝わり、気が付いたらトントン拍子で決まっていました。

そうですね。人員を増やしたいと考えていた時に、部署のマネジメント層から「フォーミュラEに興味を持っているメンバーがいるよ」と聞いて、ぜひ来てほしいと。丸井さんの当時の上司にも相談しましたが、「自分の仕事にしっかり向き合い、全力で取り組むタイプ」と話していました。フォーミュラEは華やかに見えて、ハードな面もある仕事です。その中でも丸井さんなら活躍できる、という評価があっての参加でした。
TALK3 通常の開発業務との違い
量産製品の開発業務とフォーミュラEでの開発業務には、どのような違いがあるのかを聞きました。
フォーミュラEプロジェクトでの仕事は、量産製品の開発業務と比べてどんな違いがありますか。

一番の違いは、開発のスパンがとにかく短いことです。フォーミュラEは1年に17戦前後のレースが開催されます。世界各地を転戦するチームに帯同し、日本とドイツの開発拠点も行き来しながら、次のレースに向けて完成度を高める。そんな短距離ダッシュを繰り返すような開発を、シーズンを通して繰り返しています。

開発スピードも、判断スピードも、量産開発と比べて圧倒的な速さが求められますね。量産製品の開発では多くの承認プロセスがありますが、レースではその場で自ら判断しなければならない場面も多い。一人ひとりが持つ裁量の幅が非常に大きいのが特徴です。

レースウィーク中は特にそうで、明確な正解がない中、「これが一番良いはず」と自分で判断して、その場でアップデートしていくことが求められます。量産製品のように時間をかけて合意形成するのとは大きく違いますね。

最初の頃はどう判断すればよいのか分からず、戸惑うことが多かったですね。ただ1年間経験して、「今、何が求められているか」を理解し、迅速に判断できるようになったと自分なりに感じています。
そうした短いスパンの中では、チームでのコミュニケーションも重要になりそうですね。

レース活動では、ドライバーが、量産製品でいうところの“お客さま”になります。そのコメントによって開発の方向性が決まります。ドライバーからは鋭い指摘を受けることが多いので大変です。


海外のチームメンバーとのやり取りでは、ストレートに意見を伝えることが求められます。角が立たないよう遠回しに考えを言う文化が日本にはありますが、それでは伝わりません。ただ、そもそも英語で遠回しな表現をするのは難しいため、慣れるとむしろやりやすい面もあります。

私はまだチームメンバーとやり取りする経験が浅いので、正直、英語でのミーティングは緊張します。しかしどんどん場数を踏める環境にいるので、海外メンバーとのコミュニケーション力を短期間で鍛えられている感覚はあります。

1年間チームに帯同して、最初の頃はうまくできなかった「どう説明すれば相手が納得するか」を考えて話せるようになりました。チームのメンバーと対等に議論し、主体的に提案できるようになったことは、大きな成長だと実感しています。

テッキーさんは、世界各地を転戦するチームには帯同していないんですよね。

はい、モーターの設計は基本的に日本で行っています。

フォーミュラEでは、モーターは一度登録するとシーズン中に仕様変更ができず、同じ設計のものを2年間使うルールになっています。レース現場でモーターを触る機会は基本的にないため、日本で開発に注力してもらっています。
フォーミュラEのモーター設計に取り組む魅力はどのような点に感じていますか。

いかにしてモーター効率を0.1%でも上げるか、そこを突き詰めていくのが大変であり、同時に面白いところでもあります。構成するさまざまな部品について細かな工夫を積み重ねることが、最終的な性能向上につながります。非常にチャレンジングな仕事です。

TALK4 うれしかった瞬間
ローラ・ヤマハABTフォーミュラEチームは、アメリカ・マイアミで開催されたシーズン11第5戦で2位となり、参戦後初となる表彰台を飾りました。その瞬間について聞くと意外な展開に!?
これまでの活動の中で印象に残っている「うれしかった瞬間」は?

私の場合は、イギリスでのテストですね。自分が設計したモーターがレースマシンに搭載され、実際に走る姿を見た瞬間です。それまではモーター単体でテストを行い、性能を確認していましたが、車両として走るシーンを目の当たりにした時は感動を覚えました。
試験室で問題なく動作することは確認できていても、走行する姿を見るとやはり感慨が違う?

違いますね。レースに向けてのテストなので、ドライバーの操作がとても激しいんです。アクセルのベタ踏みを繰り返すような荒い扱いにもちゃんと耐えてくれて「ドライバーに追いつけた」という感覚がありました。
初めてチームが表彰台を獲得した瞬間は、皆さん、かなりうれしかったのではないでしょうか。

当時、現場にいたのは私と小杉さんですね。私はもう、素直にうれしくて涙が出ました。フォーミュラEを任されてから2年半、なかなか結果が出ない時期も長かったので。一緒に苦労してきたローラ側のメンバーと、ピットで抱き合いました。

もちろん、チームが表彰台に上がれたこと自体はうれしかったです。ただ、正直に言うと、その成果は自分が担当しているエネルギーマネジメントが決定的な要因だったわけではなく、レース展開に助けられた部分も大きかった。「エネルギーマネジメントで勝てた」と言える結果をいつか出したい、という思いの方が強かったです。

私はその時はまだチームに帯同していなくて、日本で次世代モーターの設計をしていました。結果を見て「良かったな」とは思いましたけど、梅田さんが日本に持ち帰ってきたトロフィーには触ることができませんでした。自分が関わって、ちゃんと結果を出してからじゃないと持つことはできない、という気持ちでした。

同じ感覚です。自分が直接取り組んだモーターで本当の喜びを味わいたいと思いました。
皆さん、そこは喜びよりも、自分がチームにどう貢献できたかを大事にしていますね。

みんな技術者としてハングリーなんです。頼もしいです。

TALK5 チャレンジする風土
ヤマハ発動機には、伝統的に「挑戦」の風土があります。今回の座談会メンバーは、その風土をどのように感じているのでしょうか。
ヤマハ発動機の風土についてはどう感じていますか。

入社してからずっと感じているのは、チャレンジが会社の文化として根付いていることです。私自身もこれまで主体的に新しいことに挑戦して、仮に失敗しても責められることはなかったですね。今のフォーミュラEのチームも同じで、私から細かく指示を出すことはほとんどありません。それぞれが自立して、自分でチャレンジして、前に進んでいます。

私はもともと積極的にチャレンジするタイプですけど、それをちゃんと受け止めてくれる会社だと感じています。「思い切ってやってみましょうよ」と遠慮なく言えるし、それを実践できる環境ですね。

ゴールは示してくれますが、そこにどうたどり着くかは任せてもらえる。その自由さは、すごくやりやすいです。もちろん大変な面もありますけど、自分で課題を見つけて、手段を考えるのが好きなので、合っていると思います。

量産部門にいた頃もチャレンジの機会はありましたが、フォーミュラEに来てからは、自由度がさらに高くなったと感じます。このチームは特に、「やりたい」「挑戦したい」という気持ちを押さえつけられることがない。こんなに任せてもらっていいのか、と思うくらいです。

一つだけ補足すると、皆さんが自由に取り組めている前提には「ちゃんと成果を出している」という事実があります。自分でマイルストーンを設定して、結果を出している。だから細かく管理する必要がない。それは私が若い頃に育った環境とも重なります。周囲のマネジャーも取り組みと成果をしっかり見てくれています。成果を出せば、次のチャレンジにつながっていくこともまた、この会社の風土なんだと思います。
TALK6 得たものをどう活かすか
世界最高峰の電気自動車レースで培った経験を、将来どのように活かしたいか。それぞれの思いを聞きました。
フォーミュラEへの参加を通じて得られるものを、将来、どのように活かしていきたいですか。

私としては、ヤマハ発動機を代表するような電動技術をいつか生み出したいと思っています。トヨタ自動車さんのTHS(Toyota Hybrid System)や、日産自動車さんのe-POWERのように、「ヤマハ発動機といえばこれ」と呼ばれるような、代名詞になる技術です。
そのためには、モーターだけでなく、インバータやバッテリー、制御といった周辺領域の知識も欠かせません。そうした技術を含めたパッケージとしての電動技術を、自分のキャリアの中で形にしていきたいです。

フォーミュラEの経験を一番活かせると感じているのは、開発スピードの考え方ですね。開発スパンが短いといっても、私たちはただせわしなく働いているのではなく、シミュレーションを活用するなど、開発プロセスそのものについても新しい技術や考え方を取り入れています。市場変化が速い中でいかに短い時間で新しい製品を出していくかは、量産製品の開発においても重要なポイントですので、今回の経験は確実に役立つはずです。

私はこれまで、ハードウェア、ボディ、パワートレイン、そして現在はソフトウェアと、かなり幅広く経験してきました。フォーミュラEでは特に、解析やシミュレーション技術に力を入れてきたので、その強みをさらに伸ばしたいと考えています。
モーター単体ではなく、インバータやバッテリー、さらには車両全体まで含め、システムとしてどう設計するか、いわゆるマルチフィジックスやデジタルツインの知識や視点を身につけていきたいですね。それは、四輪向けモーターに限らず、二輪やゴルフカート、ドローンなど、ヤマハ発動機が持つさまざまな電動製品に展開できるはずです。
リーダーの立場からは、こうした経験をどのように捉えていますか。

フォーミュラEに参加している最大の目的は、やはり技術の獲得です。テッキーさんと丸井さんが話してくれた電動コンポーネントの技術はもちろん、小杉さんが話してくれた開発プロセスの改善も重要なテーマです。
テストできる期間が極端に限られているフォーミュラEでは、シミュレーションや試験室内での開発精度をより向上させる必要があります。この経験を量産開発にも活かすための土台をつくることが、フォーミュラE活動の大きな価値だと考えています。

TALK7 電気・電子系学生へのメッセージ
ヤマハ発動機には、電気・電子系出身の人材が活躍できるフィールドが大きく広がっています。最後に、その魅力について語ってもらいました。
最後に、電気・電子系の学生の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

「ヤマハ発動機はバイクだけじゃない」というのは、ぜひ知ってほしいですね。フォーミュラEにも参戦して、世界を舞台に最先端の電動技術で戦っています。そういうところをまず見てもらえたらと思います。

電動の世界では、ハードに加え、その性能を100%引き出す「制御」がとても重要になります。小杉さんや丸井さんが取り組んでいるのも、素性の良いハードを、いかに最大限活かすかという部分です。ハードとソフト、その両方を本気で突き詰められる環境があるのが、今のヤマハ発動機だと思います。

私がヤマハ発動機に就職を決めた理由も、トップレベルのモーター開発に挑戦できる点でした。当時はまだフォーミュラEはありませんでしたが、高性能で軽量・高出力なモーターの開発に取り組む方針を発表していて、そこに魅力を感じました。今はフォーミュラEも加わって、さらに高いレベルのチャレンジができる環境になっていると思います。

私も、もともと電動モビリティに携わりたいという思いで就職活動をしていました。当時、モーターショーなどでヤマハ発動機の電動二輪コンセプトモデルを見て、エンジン車ではできないパッケージングや制御の面白さを感じたのがきっかけです。近年もヤマハ発動機は、自動車用電動駆動ユニット「e-Axle(イー・アクスル)」やハイブリッド航空機用4連結電動モーター、大型ドローンなど、本当に幅広い分野に取り組んでいます。調べていただければ、電気・電子系の学生にとって興味を持てるテーマがたくさんあると思います。
製品・事業が幅広いから、学生の皆さんが調べていくと「こんなこともやっているんだ」という発見がありそうですね。

実は私自身、ヤマハ発動機に四輪自動車向けエンジンを開発している部門があることを知ったのは、入社後だったんです。まさに「こんなこともやっているんだ」と興味を持ち、この部署への配属を希望しました。そこから今に至ります。

フォーミュラEは分かりやすい入口ですし、そこから「バイクだけじゃない」「いろいろな分野を舞台に世界中で活躍している」ということを知ってもらえたらうれしいですね。ヤマハ発動機ほど面白い会社はないと、私は思っています。

※所属部署、記事内容は、取材当時のものです。
