インド社会と共感し、新たな道を切り拓く

インドの二輪車市場は、年々伸び続け、2012年には中国を抜いて世界第1位となりました。ヤマハ発動機では、インドをインドネシアと並ぶ主要市場と位置付け、インドにおける二輪車事業の加速を図っています。
今回の特集では、就任から3年を経て、インドでのビジネス展開に確かな成果を手にしているIndia Yamaha Motor Pvt. Ltd. (IYM)の鈴木啓之社長に今後の成長の道筋について聞きました。

Profile

India Yamaha Motor Pvt. Ltd.
社長 鈴木 啓之

1978年4月、ヤマハ発動機入社。
PT. Yamaha Indonesia Motor Manufacturing副社長などを経て、2010年3月、ヤマハ発動機取締役上席執行役員に就任(現任)。2010年11月、India Yamaha Motor Pvt. Ltd.社長に就任、現在に至る。

鈴木 啓之

インド二輪車市場の現状

直近では、ガソリン価格をはじめとした物価の上昇や、金利の高止まりなどによる消費マインドの冷え込みを受け、市場全体の伸長が鈍化していると言われています。しかし、当社が得意とする分野のひとつであるスクーターの出荷台数は2011年、2012年と2年連続で20%成長を遂げ、インドの二輪車市場におけるスクーター占有率は、2011年は18%、2012年は23%と割合を高めてきています。アジア地域のスクーター占有率の平均は30~40%となっており、インド市場も近い将来、そうした構成になってくると見込んでいます。
また、インドでは、女性の社会進出の加速を背景に、女性ユーザーに適した、扱いやすいコンパクトなモデルのスクーター開発を行い、それらの装いを新たにすることで、若者やファミリー層にも展開し支持を集めています。

インド二輪車市場の現状

ヤマハ発動機の製品戦略

当社では、デザインや新しさを重視する若い女性をターゲットとした『CYGNUS RAY』の販売を2012年9月より開始しました。開発者・評価者として女性従業員に参加してもらい「女性が乗りやすい女性向けのモデル」の開発を徹底するとともに、ブランドイメージ「クール&ビューティ」を象徴するインドの国民的映画女優・ディーピカー・パードゥコーンさんをブランドアンバサダーに起用したことなどが奏功し、当社のインド初のスクーターは市場に受け入れられました。また、『CYGNUS RAY』のコンパクトで扱いやすいといった特徴が女性だけでなく男性からも好評を得たことから、2013年5月には、スクーター第2弾として男性向けに『CYGNUS RAY Z』を導入し、順調に出荷が伸びています。
一方で、IYMはヤマハブランドのイメージを浸透させる活動として、高級価格帯製品を通じて、スポーティ、スタイリッシュ、トレンディ、レーシングといったメッセージを発信し続けてきました。こうした高品質ブランド浸透活動により、「豊かな生活、楽しい生活」に直結するブランドとしての憧れがインドの国民の間で醸成されつつあります。今後は、高級価格帯製品の拡販はもちろんのこと、スクーターカテゴリーの強化、さらには若者やファミリー向けモデル領域への参入を通じて出荷台数を拡大し、2017年には中期経営計画の目標である市場シェア1割の獲得を目指しながら、「インドにヤマハあり」の存在感を示していきたいと考えています。

スクーター領域の輸出拡大を視野に入れた生産能力の強化

伸長するスクーター需要に応えるため、スラジプール工場の生産能力を100万台へと引き上げるほか、チェンナイ工場(生産能力180万台)の建設を進め、2018年には280万台体制を確立する計画を進めています。現在、インドでの活動は、国内のみならず、出荷台数の約3割がアフリカや周辺諸国への輸出となっており、新規市場開拓の拠点という重要な役割を担い始めています。IYMがアフリカで描こうとしているビジネスモデルは、インドのモデルとの親和性が非常に高いため、インドでの取り組みが貢献する地域は多いと見ています。ここでの頑張りがアフリカでの販売拡大に直結すると言えるでしょう。

CYGNUS RAY
CYGNUS RAY
スタイリッシュなデザインのコンパクトなボディに、女性に配慮したきめ細かな仕様を織り込んだスクーターです。

CYGNUS RAY Z
CYGNUS RAY Z
『CYGNUS RAY』のコンパクトで扱いやすい特徴などが男性からも好評を博したことから、男性をターゲットに開発しました。

「インドにヤマハあり」と言われる存在になるために収益性のみならず、
社会性、教育性を提供

企業には、事業を展開する地で果たすべき3つの目的があると考えています。まずは「収益性」の確立であり、事業規模の拡大や収益性の改善という経営ミッションの達成であることに間違いありません。しかしながら、将来にわたり、継続的にこれをやり遂げていくためには、やはり「インドにヤマハあり」のブランド力を持った存在になることが必要であり、そのためにも「社会性」や「教育性」の追求、実現が不可欠です。その地に雇用をもたらしながら共に価値を作リ出し、でき上がった製品がまた社会に貢献する。そうした循環をつくり、ビジネスフローのすべてにわたり貢献していくことが重要であると考えています。現在、加速している女性の社会進出についても、女性に喜ばれるスクーターを提供するだけでなく、働く場、学ぶ場も提供することで彼女たちの社会進出をさらに支援していく。現地の人を巻き込みながら、社会性、教育性を提供しながら、その成果として収益性を追求していく。これがIYMの方針です。

価値を生み出し、埋め込む力。
モノ創りは人づくり

私たちは、製品として二輪車を作っていますが、同時に人もつくっているということを常々、強く意識しています。私たちのミッションは、感動を与えるということであり、そのためには価値を提供することが必要です。そしてすべての価値は、従業員たちの意識や気づき、存在そのものによってもたらされます。だからこそ、人づくりが大事だと私は考えます。
それにはまず、従業員のモチベーションを上げることが重要です。これまでの私の経験上、モチベーションを上げると自ずとモラルやスキルも上がります。以前、惰性で働いている印象を受けた従業員に作業裁量を一任したことがあります。すると、これまでは言われた業務だけをこなしていたのが、自ら積極的に業務に関わるようになり、見違えるほど成長しました。自主性・自発性を持って働くことで自己責任も生まれ、ここインドでも仕事に従事して1年以上経過した従業員の大半が、自らの存在価値を自身で見出し積極的に仕事に取り組んでいます。自己実現と社会貢献を同時に果たす、このような正の回転が回り出したら、そのパワーは私たちが考える以上に大きな働きをするものです。

Revs your Heartを実現する
Revs MyselfがあふれるIYM

現在、ヤマハ発動機では、「Revs your Heart」をブランドスローガンに掲げていますが、その実現のためには、まず「Revs Myself」が必要だと考えています。自分が感動しないのに、人に感動を伝えることはできません。そして、IYMには「Revs Myself」があふれています。その結果、魅力のある、信頼性の高い、コスト競争力を備えた価値ある製品が生まれ、インドの人たちの支持が高まってきている。これが現在のインド事業の姿です。
今後もインドの人たちが持つポテンシャルを最大限に引き出しながら、共感・共鳴する職場づくり、製品づくりを継続し、拡大を続けるインド市場でさらなる存在感を示していきたいと考えています。

女性の社会進出を支援する取り組み

ウッタル・プラデーシュ州政府の産業訓練研究所に組立技術コースを設定

女性の社会進出を支援する取り組み

現在、スラジプール工場の二輪車エンジンや完成車の組立ラインでは、10代後半?20代の若い女性約200名が活躍しています。これは、インド・ウッタル・プラデーシュ州政府が開設している産業訓練研究所のプログラムの一環として、2012年9月にスタートした取り組みです。3年間、実際の生産現場での実地体験を通じて組立技術の取得・向上に従事し、試験に合格すると高等専門学校の卒業資格を得ることができます。家父長制が色濃く残るインドでは、女性の社会的地位が低く見られている風潮が依然、見受けられます。IYMでは、就業経験のない女性や教育を受けていない女性を受け入れているほか、お金を稼ぐだけではなく、自分は社会に貢献できる存在であるという自信を養える、高いモチベーションをもって取り組める仕事をつくることで、女性の自立と成長に貢献していきたいと考えています。