全日本ロードレースで史上初の金字塔!
中須賀克行&YZF-R1が4年連続チャンピオン
開幕戦2位から始まった圧巻の大逆転劇
2015年、「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を結成し、ファクトリー活動を再開したヤマハ。そのエースはもちろん、全日本JSB1000で3連覇中、通算5度のチャンピオン獲得の経験をもつ中須賀克行である。チーム監督は中須賀が師と仰ぐ吉川和多留、チーフエンジニアは中須賀のマシンセッティングを知り尽くした水谷清孝が担当。メカニックもこれまでと同じ気心の知れたスタッフが集い、中須賀には心強いチーム構成となった。
開幕戦は、当初の予定より1週間遅れで行われた鈴鹿2&4レース。中須賀の駆る「YZF-R1」はベースマシンをフルモデルチェンジした新型であったことから、そのデビューレースとしても注目を集めたが、予選4番手、決勝2位に甘んじた。
「マシンのポテンシャルが高いことはわかっていた。でも、旧型のライディングが体に染みついているせいか、それを引き出し切れてない。もっとマシンに歩み寄らなければ」と語った中須賀は、翌週の第2戦・オートポリスでさっそく反省点を修正。チームも限られた時間のなかで必死に解決策を探ってマシンを作り上げ、みごとポール&ウィンを成し遂げた。
「新型マシンということで、まだセッティングが完全ではないが、中須賀選手の実力で優勝することができた」と吉川監督。チームは、第3戦・ツインリンクもてぎまで約1ヵ月のインターバルを利用して、マシンの仕上げに入った。
こうして新型R1を手の内に収めた中須賀は、ツインリンクもてぎで圧巻のポールtoウィンを達成すると、第4戦・SUGO、鈴鹿8耐を挟んだ第6戦・オートポリスでもポール&ウィンを果たす。さらに第8戦・岡山国際の予選は、前週もてぎのMotoGPで8位入賞を果たした勢いそのままに、自らが持つコースレコードを1秒以上更新。決勝も序盤から独走して快勝し、ランキング2位に40ポイント差をつけて鈴鹿の最終戦・MFJ GPに臨むことになった。
この大会、黄色地に黒のスピードブロック、ヤマハ創立60周年記念カラーに身を包んだ中須賀は、予選Q1から全開。鈴鹿8耐でポールポジションを獲得したポル・エスパルガロの2分6秒000さえも上回る、コースレコードの2分05秒192を記録。さらにQ2でも2分5秒台、6秒台前半のタイムでライバルたちを寄せ付けず、決勝2レースのポールポジションを決めた。
レース1は10周の超短期決戦。さらにウォーミングアップ走行で転倒者が出たため、9周で再スタートとなったが、それでも中須賀は後続に3秒以上の大差で優勝。全日本ロードレース史上初の4連覇、通算6度目のJSB1000チャンピオンに輝いた。
レース2は、スケジュール遅延で当初の20周から15周に短縮。さらに赤旗による中断も発生するなか、ポールシッター中須賀はレース中盤から一気にスパートして完勝。開幕戦を除くすべてのレースでポールポジションと優勝を獲得し、「ヤマハライダーとして、この偉業を成し遂げられたことを誇りに思う」と語った。
60周年カラーのYZR-M1で日本GP入賞
全日本第8戦・岡山国際の直前、中須賀は2015年もMotoGPシリーズ第15戦・日本グランプリにワイルドカード参戦を果たした。マシンはヤマハ創立60周年記念カラーを施した「YZR-M1」である。
その初日、フリー走行で転倒を喫した中須賀だが、「これでスイッチが入った」と、その後はセッションごとにタイムを短縮し、土曜日の予選1回目で目標にしていた1分45秒台に入る1分45秒496をマーク。Q2進出はならなかったが、5列目15番手スタートとなった。
そして決勝、鈴鹿8耐でともにチームを組んだエスパルガロ、ブラッドリー・スミスと接戦を演じ、中須賀はスミスに次ぐ8位でゴール。「スミス、ポルとのバトルは楽しかった」と満足げにレースを振り返った。
「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の尾方宏彰監督は「開発という見地から、十分すぎる貴重なデータを得ることができた」と高く評価。全日本担当の吉川監督も「日本グランプリに出場したおかげで、しばらくYZR-M1の開発ライダーに移っていた中須賀の軸足が、レーシングライダーに戻った」と語ったが、日本グランプリで経験したすべてが、全日本の岡山国際、そしてMFJ GP完勝への布石となったのは言うまでもない。
野左根、3度の表彰台でトップライダーへ
2015年、ヤマハは若手育成にも力を注ぎ「YAMALUBE RACING TEAM」を発足させた。ライダーは2013年の全日本J-GP2チャンピオンで、昨年からJSB1000に参戦する野左根航汰と、2010年からJSB1000に参戦している藤田拓哉の2人を起用。チーム監督には、かつてのファクトリーライダー難波恭司が就いた。
そのなかで、めざましい活躍を演じたのが野左根。開幕戦・鈴鹿2&4レースを予選8番手、決勝5位で終え、第2戦・オートポリスでは一時トップを快走する場面さえ見せたのだ。結果は転倒リタイアとなったが、「ものすごい自信になった」と野左根。続くツインリンクもてぎは野左根のホームコースでもあり、強豪を抑えて予選4番手。決勝はスタートをミスしながら中盤以降巻き返して3位。初めての表彰台に立った野左根は、「中須賀さんと一緒だから最高にうれしい」と話し、中須賀も「よく頑張っている」と笑顔を見せた。
一方の藤田は、鈴鹿でのプレシーズンテストで好タイムを連発していたものの、開幕戦に向けた金曜日の練習走行で転倒して負傷。3レースの欠場を余儀なくされた。
復帰戦となったのは、セミ耐久レースとして行われた第4戦・SUGO。野左根と藤田がペアを組み、1台の「YZF-R1」を走らせた。ウエットの公式予選は、藤田がタイムを出して7番手。ドライとなった決勝では野左根が好調ぶりを発揮して順位を上げ、2人の総合力で3位表彰を引き寄せた。
しかし、開幕からの出遅れを取り戻すことは容易でない。続く第6戦・オートポリスを10位で終えた藤田は「他のライダーがレースを戦いながらマシンのセットアップを進めているのに、僕は今回が実質的な開幕戦。やはり3レースの欠場が響いている」と焦る気持ちを吐露した。それでも最終戦・MFJ GPは、春のテストで好タイムを記録した鈴鹿が舞台。予選Q1を8位で通過し、予選Q2も7番手につけたが、決勝日のウォームアップでまたも転倒。ついに欠場やむなく、ランキング18位でシーズンを終えた。
第6戦5位の野左根は、第8戦・岡山国際で今季3度目の3位表彰台に立ち、「もう3位は経験済みなので、2位、そして優勝を狙えるよう努力したい」と語り、ランキング3位で最終戦に臨んだ。そして決勝レース1、6番手スタートからポジションをひとつ上げ5位に入った野左根は、2番手スタートのレース2で最後の勝負に出る。
しかし、トップ争いを演じていた10周目、レースは赤旗中断。再スタート後もトップを狙い果敢に攻めるが、2周目に無念の転倒、リタイア。ランキング7位にとどまったが、来季に向けて大きな手応えを掴むシーズンとなった。