安原志、渡辺祐介が示した若手の確かな成長
レディースクラスでは安原さやがチャンピオン
IA1/ルーキー安原志が表彰台を獲得
2015年全日本モトクロス選手権において、ヤマハは新たな参戦体制を構築した。国内最高峰のIA1クラスで「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を復活させ、エースの平田優とIA2から上がってきた21歳・安原志のふたりが、ファクトリーチューンを施した「YZ450FM」で出場。IA2クラスでは、若手の育成を目的とした「YAMALUBE RACING TEAM」を新設。2014年「YAMAHA YSP Racing Team」に所属した渡辺祐介を、市販「YZ250F」で走らせた。
しかしIA1のファクトリーチームは、シーズン開幕前につまずいてしまった。チャンピオン最有力候補のひとりであった平田が、第1戦・九州大会の事前テストで右上腕部を骨折。その回復に予想以上の時間を費やしたため、2015年全戦の欠場を余儀なくされた。つまり「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を、IA1ルーキーの安原がひとりで背負うことになったのだ。
その安原は、IA1デビューレースの開幕戦・第1ヒートでいきなり5位に入賞し、周囲の期待感を一気に高めた。しかし、450ccマシンの強烈なトルクとパワーを繊細に操り、かつ30分+1周のレース時間と距離における争いを巧みにコントロールするベテラン勢は、そう簡単に突破できる壁ではなかった。
チームは、安原が備える潜在能力を評価しながら、IA1ルーキーという現実をかんがみて「まず6位以内」を目標に掲げていたが、それも簡単ではなく、9〜11位でチェッカーを受けるレースが続いた。
ファクトリーライダーとして、「自分は期待されている結果を残せていない……」という重圧に耐え、安原はシーズンを戦いながらスキルアップする努力を重ねた。チームスタッフも安原が置かれた状況を理解し、必要以上のプレッシャーを負わせないよう気を配り、マシンのセットアップやアドバイスで安原を支えた。その成果は、シーズン中盤以降、しだいにリザルトに結びついていく。
第6戦・東北大会で、安原は6位/7位の総合6位というベストリザルトを獲得。さらに第7戦SUGO大会の第1ヒート、IA1で初めての表彰台となる3位でチェッカーを受けたのだ。
この第7戦は土曜日から雨が降り続き、トップライダーさえスタックするとてつもなく厳しいコンディションだった。マディを得意とする安原は、スタート直後の1コーナーでエンジンをストールさせながら、1周目で4番手、さらに2周目には2番手へ浮上する抜群のスピードを発揮した。残念ながら、第2ヒートは最終ラップでスタックしてしまい11位となったが、2周目に3番手へ浮上し、レース中盤で2番手の背後に接近するなど、潜在能力の高さを存分に発揮した。
3位表彰台という結果を残すことで自信を得た安原は、ドライコンデイションの第8戦近畿大会でも健闘。第1ヒートで1周目9番手と出遅れたものの4位まで浮上しチェッカーを受けた。しかしシーズン最後の2大会、第9戦・関東と最終戦・MFJ GPはいずれも10位前後にとどまり、ランキング7位でシーズンを終えたが、MFJ GPで2015年世界選手権MXGPクラスのチャンピオンを獲得したロマン・フェーブルやAMA 250SX西地区チャンピオンのクーパー・ウェブなど海外の招待ライダーと同走。「予選でフェーブルに抜かれた後、しばらく着いて走ることができ、スピードの乗せ方、減速、ラインどりなどを学ぶことができた」と語り、今後の飛躍に期待を抱かせた。
なお、MFJ GPの表彰台は海外ライダーが独占し、1位/3位のウェブが総合2位、フェーブルは総合3位(3位/2位)となった。
また2015年シーズンのIA1には、ベテラン田中教世も「TEAM TAKASE with YAMAHA」から「YZ450F」で参戦。ランキングこそ安原に次ぐ8位にとどまったが、プライベーターでもチャンスがあれば勝利を狙うという強固な意志を貫き、開幕戦・第2ヒート3位、第8戦・第1ヒート2位など4回の表彰台を獲得。いぶし銀の走りで健在ぶりをアピールした。
IA2/奮闘! 未来のヤマハを背負う渡辺
IA2クラスを戦う19歳の渡辺は、前年以上の緊張感を持ってシーズンに臨んだ。新たに結成された「YAMALUBE RACING TEAM」は、若手育成という明確な目標を掲げたチーム。一戦一戦、成長の証しを積み上げ、結果につなげなければいけない。IA2クラスにデビューした2013年、3勝を挙げた渡辺は、そのトップレベルの速さをコンスタントに発揮できる強さが必要だった。
開幕戦・九州大会、第1ヒートで2位表彰台を獲得したのも束の間、渡辺の前に壁が立ちはだかった。それは、公式練習や予選だけでなく、決勝中でも十分表彰台を狙えるタイムをマークしながら、スタートダッシュから1コーナーまでの接近戦で自分のラインを確保できず、多重クラッシュに巻き込まれてしまうことだ。さらに、後方から猛烈なペースで追い上げても、冷静さを失って転倒を繰り返してしまう。強いライダーになるための課題は、なかなか解消できなかった。
それに対し「YAMALUBE RACING TEAM」のスタッフは、一丸となって渡辺をフォロー。マシンのチューニングやセットアップはもちろん、ライディング、フィジカル、メンタル…… シーズンを戦いながら、“強くなる”ためのあらゆる要素を検討し、課題として掲げ、ひとつひとつクリアしていった。
その成果が現れ始めたのは、シーズン後半の第6戦・東北大会である。第1ヒート1周目で19番手と大きく出遅れたが、その後3番手まで挽回し、2015年2回目の表彰台を獲得。1周目を9番手で通過した第2ヒートも2番手まで追い上げ、両ヒートで表彰台に上がることに成功した。
さらにヘビーマディとなった第7戦・SUGO大会は、第1ヒートでトップを走行。優勝こそ果たせなかったが、再び2位を獲得した。こうした成長に渡辺は「スタートで遅れたとしても30分+1周のレース距離をフルに使い、戦い方を組み立てられるようになった」と自身の成長を噛み締めながら語った。
その後も好スタートから主導権を握る理想的なレースは実現できなかったが、第9戦・関東大会の第1ヒートではチェッカーを受けるまで着実にポジションを上げていく、極めて冷静なレースを展開して3位表彰台に上がった。
そしてSUGOでの最終戦・MFJ GPは、IA2クラスにAMA 250MXチャンピオンとなったジェレミー・マーティンなど海外ライダーが参戦。2015年IA2チャンピオンを獲得した富田俊樹(ホンダ)らとともに真剣勝負をしてみたいと考えていた渡辺だが、その気持ちが空回りしてしまい、土曜日の練習走行で転倒。左鎖骨骨折などにより欠場を余儀なくされた。常にトップを争うライダーには、冷静さだけでなく、勝負どころで自分の速さをアピールするチャレンジ精神も必要である。結果はともあれ、これもレースだ。
渡辺の最終ランキングは6位。そのひとつ上の5位を獲得したのが、「フライングドルフィン サイセイ」の岡野聖だった。第2戦関東大会の第1ヒートでIA初優勝を遂げると、そのスピードに冷静さを加えたライディングを続け、2位1回、3位5回というリザルトも含めてIA2クラスにおけるヤマハ勢最上位の成績を残した。
ベテラン安原さや、レディースの頂点へ!
2005年からヤマハYZを駆り、全日本モトクロス選手権レディースクラスへのフル参戦を続けていた安原さやが、ついに頂点を極めた。2006年に初優勝を達成、その後も常に上位を争ってきた安原だが、過去10年間におけるランキング最上位は2位。今シーズンは「自分はチャンピオンになれるライダーではないかもしれない…」と、悩みながらもチャレンジを繰り返してきた。10年を超えるキャリアを誇りつつ、2015年も少しでも速く、強くなるために練習を重ね、スキルを上げるための新しいトライも試み、勝つためにライディングスタイルも変更した。
その成果が結果に結びつくようになったのは、シーズン後半戦に入ってからだ。ケガなどの影響により前半戦は思うような結果を残せなかった安原だが、それでも着実に上位フィニッシュを続け、チャンピオンに手が届く距離を保ってきた。
タイトルを大きく引き寄せたのが、第7戦・SUGO大会。得意とするマディコンディションのレースで「絶対に勝つ」と心に決め、みごとシーズン初優勝を達成。さらに第8戦終了時点でランキングトップに浮上すると、そのプレッシャーに負けないよう、自分の理想とするレース展開を追求。「ドライでも結果を残さなければいけない」と考えた安原は、第9戦・関東大会で2勝目を挙げ、さらにリードを広げた。
しかし、「どんなカタチでもいいから、勝つことだけを考えた」という最終戦・MFJ GPは3位。内容では悔しいレースだったかもしれないが、安原にとって自身初、またヤマハにとっても2000年にレディースクラスが設定され初となるチャンピオンという結果で歴史に名を残した。
また、「TEAM KOH-Z」の本田七海と伊集院忍も健闘。それぞれランキング4位、6位の成績を挙げた。あくまでも優勝を目指すふたりは、2位や3位の表彰台に上がっても「悔しい! トップとの差はまだある」と反省を忘れない。その意欲あふれるライディングが続く限り、いつか夢はかなうと期待したい。