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ピストンの新素材と加工技術を開発 世界初の「パウダーメタルピストン」量産化を実現

1997年02月14日発表

 ヤマハ発動機(株)は、このほどエンジン用ピストンの新しい技術として、高い強度をもつピストン用アルミ合金の新素材開発と、この素材を使用してピストンを量産する「制御鍛造技術」を開発しました。
この技術により製造されるピストンは、「パウダーメタルピストン(PM-P)」と呼び、エンジンの機能を大幅に向上させるとともに、従来難しかった鍛造によるピストン製造の量産化を世界で初めて実現するものです。

 新開発の「ピストン用パウダーメタル材」は、従来の鋳造ピストン用アルミ合金材に比べ、耐熱性向上成分の鉄を多くし、高温から急激に冷やして凝固させたアルミ合金粉と、耐摩耗性を高めるシリコンカーバイト粒子を混合して固めたアルミ合金素材です。従来の鋳造ピストン用のアルミ合金材に比べて強度および耐摩耗特性が大幅に向上するため、ピストンの肉薄軽量化と耐久性向上ができ、エンジン設計の自由度を大幅に拡大します。
また、「制御鍛造技術」は、「パウダーメタル材」等の高強度アルミ合金を高精度かつ効率的に鍛造加工するための新しい生産技術です。アルミ合金の延性(加工しやすい伸びる性質)を最大限に利用するために、鍛造用金型の温度などの鍛造時の条件を総合的に制御するものです。

 これらの新技術は、従来の鋳造技術で実現できなかった高強度で加工が困難な素材による高品質ピストンの量産化を実現するもので、二輪車用、自動車用、船外機用、その他各種エンジンの量産ピストンに適用できます。
特徴は下記の通りで、性能、燃費、排気ガス対策、騒音対策、耐久性など、これからのエンジンに要求される基本特性の向上を可能にします。



パウダーメタルピストンの特徴

 従来の鋳造ピストン用アルミ合金比較で2~2.5倍(常温から高温域まで)の引張強度を持ちかつ耐摩耗性に優れるため

 

1.ピストンの肉薄、軽量設計が可能。(ピストン単体で約20%の重量低減/当社テスト値)
2.熱によるピストン天井部の変形が少なく、エンジンの限界性能(性能、燃費、排気ガス対策)を向上させられる。
3.シリンダーとの耐焼き付き性に優れ、シリンダーとピストンの隙間を詰められるので騒音対策が可能。
4.ピストンのリング溝などの耐摩耗性が向上し、耐久性を確保できる。



製造工程の特徴

 鍛造時の素材温度、金型温度、離型剤の塗布量とタイミングを総合的に制御し、アルミ合金素材の成形性がもっとも高い条件で成形することにより、鋳造に比べ約半分の時間で肉薄、高精度なピストンの連続生産が可能。

 なお、これらの新技術は、高強度・高精度が要求されるピストン以外のアルミ合金部品へも応用可能です。

 

高強度で耐摩耗性に優れた「ピストン用パウダーメタル材」開発

 エンジンのピストン素材には、高温強度が優れ、熱膨張が小さく、熱伝導、耐摩耗性に優れた特性が要求されますが、特に基本性能を決定づける特性が素材の強度と耐摩耗特性です。新開発した「パウダーメタル材」は、ピストン素材自体に要求される“優れた強度と耐摩耗性”に照準を合わせ研究開発をすすめてきたものです。耐熱性を向上させる鉄を多く含むアルミ合金素材を700℃以上の高温にて溶かし、いったん微粒の粉末状にして急激に冷やして凝固させ(急冷凝固粉末製造)、さらに耐摩耗性に優れるシリコンカーバイト(SiC)粒子を混ぜ、これを400~500℃に加熱して押し出し、固形化を図り形成します。



*新素材「パウダーメタル材」の製造プロセスイメージ図

上記の工程にて製造する「パウダーメタル材」は、①鉄やシリコンカーバイトなど強度や耐摩耗性に寄与する成分の最適化(鉄分1%以上、シリコンカーバイト最適量添加)が可能で、②均一な組織、③細かな結晶粒子が形成され、ピストンに最適な強度特性を達成。従来の鋳造用アルミ合金比較で、常温時に約2倍、摂氏400度には約2.5倍の優れた引張強度を実現しました。

なお、この「パウダーメタル材」は、住友軽金属工業(株)との共同研究にて開発しました。



*従来の「鋳造ピストン合金」と「パウダーメタル材」の強度の比較



鍛造ピストンの量産化を実現する「制御鍛造技術」について

 一方、新開発の「制御鍛造技術」は、ピストンの鍛造工程において、金型内部に組み込んだヒーターで金型の温度を最適に制御し、金型内に挿入されたアルミ素材合金の温度を400~500℃の間に保ちながら加圧することで、鍛造加工を効率的に行う生産技術です。

 一般に高強度合金を「鍛造」にてピストンに量産加工するのは、高強度が加工を妨げる形となり、困難とされていました。鍛造時にポイントとなる変形特性について一般のアルミ合金と比較すると、ピストン用アルミ合金の場合、伸びが著しく少なく、良好な成形性を示す温度領域が極めて狭いからです。



  「制御鍛造技術」では、上記の限られた温度領域での素材の変形特性を最大限に引き出し加工し易い状況とし、「鍛造」工程に活用するもので、具体的には①アルミ合金素材への初期加熱、②ピストンを金型から離型させる「離型剤」の開発と金型へ塗る量、時期の設定、③素材の温度を400~500℃間に維持するための金型温度の制御、④金型による最適圧での加圧、これらを総合的にプログラム化しています。



*「制御鍛造」技術の基本工程イメージ図

なお、「パウダーメタルピストン」は、当社の二輪世界GP用ファクトリーマシン「YZR500」に採用し、これまで研究開発を進めてきた素材です。
また、当社ではこの新技術により製造する「パウダーメタルピストン」を、一部のスノーモビルやモーターサイクルなど、熱負荷の高いモデルから採用投入してまいります。


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