再び輝け、欧州 -構造改革の足跡と展望

欧州市場の中でヤマハは、2012年から14年にかけて欧州販売会社の統合・改革という構造改革を実施し、14年末から欧州一社化がいよいよ実現します。このプロジェクトの背景や狙い、取り組みについてYMENV会長の山路さんに説明していただきました。

山路 肇さん
上席執行役員 YMENV会長山路 肇さん

欧州連合の歴史と構造改革の背景

 多種多様な歴史、文化、言語を持つ国が混在する欧州は、EU加盟国28カ国で5億人の人口を持ち、2013年現在のGDPは13兆ユーロを超え、全世界GDPの4分の1を占めています。市場統合は1957年発足のEEC6カ国に始まり、ベルリンの壁崩壊に象徴される「共産主義から民主主義への移行」、「共通通貨ユーロの発行」を経て、さらに進化しつつあります。欧州でのヤマハビジネスは60年ごろの二輪車販売から55年がたち、長い歴史と屈指の売り上げ規模を持つ海外市場に成長しています。
 ヤマハは当初、欧州主要市場に対してインポーターである代理店を設置し、輸出・販売を開始しました。その後、欧州市場統合に沿い、YMENV欧州本部の設置、代理店の系列化、子会社化を進め、汎欧(全ヨーロッパ)物流面での強化としてパーツ汎欧倉庫、本体欧州倉庫を展開してきました(図1参照)。
 しかし、欧州内の組織や体質は昔のインポーター時代のままで、汎欧政策の浸透や欧州内の人材流動化への対応も限界がありました。つまり、各市場は独立採算制を重視し、多くの部分で個別最適を優先させたわけです。そのため、欧州統合の流れに沿った仕事の展開ができにくく、本部であるYMENVと子会社との間で一枚岩となる意思疎通も難しい部分がありました。
 一方、個別市場での販売展開は、それぞれの市場特性に適した政策や販売活動が展開され、それが欧州の強みでもあったわけです。私は過去、YMENV本部と代理店の両方で駐在の経験があり、意思疎通に苦労した経験が今回のプロジェクトに役立ちました。

取り組みの概要

 欧州でのもう1つの重要懸案事項だったのは欧州内工場再編です。それが終わった12年下半期から、上述の問題点を払拭(ふっしょく)しながら個別市場が持っている強みは落とさずにコスト削減を図るべく、大規模な販売会社の構造改革を開始しました。時は08年のリーマンショックによる継続的な市場の落ち込みという環境下でもあり、社内の一部にも何とかしなければという危機感があったのは構造改革を実施する上で不幸中の幸いでした。
 主な取り組みとして、
1.個別市場の強みを生かしながら、汎欧政策を浸透させるべく仕事のやり方を変える
2.欧州全体をOne teamとして捉えた意識改革の実施
3.その結果としての人員削減および販売コストの低減という3本の柱を目標に掲げました。
 YMENVの幹部社員および主要子会社社長で組織されたコアチームでの討議を経てグランドデザインを作り、社内労働組合の了解も得た上で、YMENVと子会社の混成による市場要望も入れた販売、マーケティング、管理にわたる8つのワーキンググループを立ち上げました。そして、仕事の標準化、本部と子会社間の重複業務の一本化(特に管理・営業サポート部門)、これらを踏まえた全欧ITシステム統合による業務の効率化を図りました。
 活動は1年以上に及び、通常業務に加えた活動でもあったため、メンバーにとって大きな負担となったことは否めません。しかし、問題意識を共有し、全員が目標に向かって一丸となり、それらが大きな駆動力になったことは、それぞれの組織で今後のリーダーシップを発揮する上で大きな成果でした。
 ワーキンググループで共有した目標の例を挙げると、業務標準化では、販売店オンライン商品発注/納期確認システムの導入、サービス管理業務圧縮を狙ったワランティー処理ルール/プロセスの統合。本部と子会社間の重複業務一本化では、マーケティング活動でのイベント業務/販促物制作の中央コーディネーション、各国決算業務/資金調達の中央管理化、汎欧人事政策と欧州内の人の流動化促進などが挙げられます。この中には、現在も進行中のプロジェクトもあります。

活動の成果と今後の期待

 今年初めから新組織が発足し、YMENV本部のマネジメントは日本人以外にイギリス人、フランス人、ドイツ人、スウェーデン人、オランダ人と、多国籍にわたっています。全員が子会社幹部の経験を持ち、スタッフレベルでも汎欧から多くの人材を登用しました。本部の戦略が市場にマッチしたものでなければならず、市場感覚を入れ、市場ごとのベストプラクティスを共有化し、政策の中に織り込みたいとの思いからです。今後、ヨーロッパ人による汎欧の視点でのヨーロッパ戦略が立案、展開できればベストです。拠点サイドでも、11ある拠点のうち6拠点で新しい拠点長が誕生し、ローカル化、世代交代が一層進みました。
 コスト削減では痛みを伴いましたが、人員は11年比3分の2以下の少数精鋭の部隊となり、販売経費を含めたコスト削減額は年間約32億円となっています。さらに、数字には表れない「欧州One team」という旗印の意識改革効果も期待されます。14年初めからの新組織、仕事のやり方の変革に加え、来月12月1日から順次会社形態が「ヤマハモーターヨーロッパおよびその支店」という形に変更となります(図2参照)。その結果、One teamという意識がより強くなり、全体最適を考えながら文化、歴史、趣味、嗜好(しこう)といった市場特性の違いを踏まえた事業活動が可能な土俵ができると思っています。
 欧州市場は今年に入り、市場の底打ち反転傾向、「MT-07」「MT-09」に代表される新商品投入、為替環境の好転により、業績面でも回復基調にあります。市場からのアウトプットとして、より鮮明に構造改革の効果を発揮できる状況になったといえます。
 欧州の二輪は、日本の明治初期に既に文化が芽生え、レースをはじめとした先進テクノロジーも欧州で導入され世界に発信されます。また、アウトドアスポーツの1分野として二輪が認められ、文化として浸透しています。この傾向はマリンでも同じです。こうした先進的市場の中で、もう1段上のレベルで顧客満足度、顧客納得度向上のための施策をヨーロッパ人主導で発信できれば、ヤマハのブランドイメージもさらに飛躍できると確信しています。欧州One team、市場感覚を持つ、という今回の構造改革の考え方がそのベースになればと期待しています。

欧州における二輪車とヤマハの歴史



欧州ヤマハの新たな販売拠点構造(現在はYMEの子会社)