次世代環境対応エンジン完成
素でいいエンジンはポテンシャルが高い

当社は2010年2月、2015年を目標に08年比で50%の燃費を向上する次世代環境対応エンジンをコミューター用に開発すると発表しました。今年8月にベトナムで発売された「Nozza Grande(ノザ グランデ)」はこれを搭載したモデルです。
このエンジンの開発プロジェクトに当初から携わった、第1エンジン開発部の鈴木仁さんに開発ストーリーを伺いました。

鈴木 仁 さん
エンジンユニット エンジン開発統括部
第1エンジン開発部 部長
鈴木 仁 さん

原理原則重視の開発

 燃費向上50%という開発テーマは、それまでの常識ではちょっと考えられないような大きなものでした。そのため、MC部門のほかにAM、マリン、技術本部からも技術者が集められ、解析専門のスタッフにも加わってもらい、事業部から独立したプロジェクトとしてスタートしました。
 開発に当たっては、「デバイス(装置)に頼らない、素でいいエンジン」という基本コンセプトを決めました。その上で開発方針として、原理原則を徹底的に重視していくことを決めました。例えば、理屈ではこうなるはずという考えの下に設計したものが実験でその通りになるとは限りません。そうした場合でも、「とにかく実験結果は事実なのだから」とそのまま進めるようなことはせず、時間が多少かかっても原理原則にこだわり、結果が想定と違った場合にはその原因を徹底的に追究しようと決めたのです。
 ベンチマークもこれまで以上に徹底しました。通常は、シャシー(車台)の上で競合他社製品を走らせての性能調査が中心ですが、今回はエンジン単体を取り出し、燃焼室の中で混合気がどう燃えているのか、そこで出された力がどのような機械的ロスを経て最終出力に至るかまで、徹底的に分析しました。
 このように、それまでの開発とは一線を画した進め方でしたが、コミューターに向けたエンジンですのでそんなにお金は掛けられません。予算に縛りを掛け、燃費向上1%に許容するコストを具体的に設定してスタートしました。

燃焼改善・冷却性能向上・機械的ロス低減

 このエンジンの開発では、燃焼の改善がポイントになっています。具体的には、エンジンの圧縮比を従来よりもかなり高くしました。通常の空冷エンジンの圧縮比は9程度ですが、水冷と同等レベルの11です。高トルクによる快適な乗り心地と最適燃焼による燃費向上ができたのは、まさにこの高圧縮比によるものです。
 一方、圧縮比があまりに高いと燃焼室内の温度が上がり過ぎて、点火する前に混合気が勝手に燃え出すノッキング現象を起こし始めます。そこで、冷却性能をより高める工夫を随所に織り込みました。その1つが、冷却にとって重要なフィンの枚数を増やすことです。しかし、限られたスペースの中で枚数を増やすためには、フィン1枚1枚を極めて薄く作らなくてはなりません。これには製造部門にも協力を頂き、真空で吸い上げるなど、ダイキャストの技術でクリアしてもらいました。さらに、冷却用空気を効率的に送るために、ファンやダクト(空気の通り道)の形状なども検証しながら最適化していきました。
 燃焼スピードについても、解析技術とシミュレーション技術を駆使して見直しを図りました。一般的に、燃焼スピードが速いほど燃費は良くなります。しかし、ある時点を超えると燃費への効果は弱まり、音だけが大きくなってしまいます。分析の結果、燃費と音の最適バランス燃焼速度よりも、当社のこれまでのエンジンは早い燃焼をしていることが分かりました。そこで、ポート形状の変更などによって燃焼スピードの調整を図りました。その結果、燃費が向上し、音の問題も解決しました。
 燃費を向上させる上で重要な、機械的ロスの低減にも力を注ぎました。燃焼室で爆発した力が最終的な動力に至るまでのあらゆる金属接触部分のロスを徹底的に調べ上げ、それらを低減するためにさまざまな取り組みを行いました。例えば、ピストンリングの張力が最適かどうか。緩すぎるとオイル消費が大きくなり、きつすぎると抵抗が大きくなります。ベルトの張力、オイルシールの締め方、ベアリングのサイズなども、それが本当に最適かどうかを1つ1つ検証していきました。

ベースエンジン1つで高次元のチューニングが可能に

 こうした取り組みによって、クラス最高レベル低燃費の、素でいいエンジンを開発することができました。素でいいということは、発展のポテンシャルが高いということです。例えば、このエンジンをベースに、エアインテーク・マフラー・カムシャフトの3つを変更するだけで、走りと燃費・環境という要素を高次元でチューニングすることが可能になります。通常、キャラクターの違うエンジンを作る場合には多くの部品を新作しなくてはなりませんから、1つのベースエンジンで多彩なバリエーションができるということは大きなコストダウンです。まさにプラットフォームの理想的な姿だと思います。
 このエンジンは、今年8月にベトナムで発売した「Nozza Grande(ノザ グランデ)」に搭載されました。そして、「走りの楽しさと燃費・環境性能の両立を高次元で具現化する」という当社のBLUE CORE(ブルーコア)思想を代表するエンジンとなりました。
 今回のプロジェクトでは、素でいいエンジンの開発のためには原理原則を重視することがいかに大切かをあらためて感じました。特に、今後の環境規制対応を考えると、これからのエンジンはポテンシャルの高い、素でいいものになっていかざるを得ません。そうでないと規制対応のたびに大きなテコ入れが必要になり、多くの金額と人手が必要になってくるからです。
 開発スタッフに関しては、事業を越えてベテランを集めただけでなく、意識的に若手技術者にも加わってもらいました。それによって良いエンジンが出来たことは事実ですし、同時に、彼らの実力も大きく伸びたと思います。ベテランの中に若手が入るというのは、今後の開発チームの1つのモデルになると感じています。

BLUE CORE(ブルーコア)エンジンのカットモデル

BLUE CORE(ブルーコア)エンジンのカットモデル


プロジェクトに当たっての開発コンセプト