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Yamaha Journey Vol.24

ヤマハ ニュースメイトT90Nに妻を乗せて走る高田典男による、11回に渡る南米ツーリング体験記です。

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憧れの南米大陸を、心ゆくまで味わい尽くす。

高田典男

NEWSMATE T90N

#01 朗らかに生きる人々の日常に溶け込んで。
コロンビア

1950年代、20代だった高田典男さんにとって南米への旅は、まさに見果てぬ夢でした。それから40年の月日が流れ、かつての青年は当時の情熱をそのままに南米大陸縦断の旅に挑みます。それも11回にも亘って。奥様とのタンデムツーリングで積み重ねた走行距離は11万211キロ。地球を二周して余りある距離です。彼をそこまで引きつける南米の魅力とは何なのか。

メデジンは盆地にあり、なだらかな丘陵地帯に住宅街が広がる。

メデジン

山間にある、人口8000人弱の小さな町。家並みはとてもカラフル。人々はとても素朴!

サレント

尖塔が美しいラ・エルミタ教会。カリ市民の心のよりどころ。

カリ

海辺は、泳ぐよりもロン(ラム酒)を飲みながらクンビア(軽快な2拍子のコロンビア伝統音楽)を踊るのが、よく似合う。

トルー

アンデスの大地は、バイクで駆ける歓びを教えてくれる。

南米大陸を旅するなら、1年以上の長丁場になる。その間、バイクに乗れないなんて、とても我慢できない。クルマではなくバイクでの南米縦断旅行を選んだのはそんな思いがあってのことです。実際コロンビアの旅を振り返ると、バイクで駆け抜けた素晴らしい道のことばかりを思い出します。なかでもメデジンからカウカシアまでのルートは、延々と走っていたくなるほどの気持ち良さ。このあたりは標高1500〜2300メートルほどの山岳地帯ですが、赤道のすぐ近くだから1年を通して春のような暖かさです。山肌は青々とした草木に覆われていて、まさに常春。アンデスの爽やかな風を全身に受けながら、美しい山々の間を駆け抜けていると「ああ、南米を走っているのだな」という実感が込み上げてきます。
山道を抜けて市街地へと降りると、今度はあちこちに咲いた蘭(カトレア)の花に目を奪われます。蘭はコロンビアの国花で、人々から愛されている花です。民家の軒先には花瓶が吊るしてあって、驚くほど大きな蘭が花びらを揺らしています。こんな見事な風景を目にしながら、バイクで駆けるひとときは何ものにも代えられません。
ちなみに山岳部を走るにしても、市街地を走るにしても、1日の走行距離は250〜300キロほど。1日走った先で、3日ほど観光を楽しむのが、私たち夫婦の平均的なペースです。これを守っていれば体への負担を気にせずに長旅を続けることができます。後ろに妻を乗せたタンデムツーリングですから、無理は禁物です。

ゆっくりと時間が流れる小さな村を愛して。

コロンビアに行くなら、サレントを訪ねるといい。そう教えてくれたのは、エクアドルで同じホステルに泊まったアメリカの旅人です。サレントはアンデスの麓にポツンと佇む小さな村。国道を離れて、未舗装のグネグネ道を進むと、突然パッと目の前が開けて、コロニアル様式の美しい建物が姿を現します。道ばたでは伝統的な民族衣装を着たおじいさんたちが、何をするわけでもなく佇んでいる。この村にはのんびりとした空気が溢れています。近代化とともに多くの土地で失われてしまった素朴な豊かさが、この村にはまだ残されています。
この村に惚れ込んだ私は、コロンビアを走るたびに足を運んできました。ここでは、散歩をしたり、仲良くなった村人とお酒を酌み交わしたりと、何でもない日常に溶け込むのがお約束。サレントを拠点に、ヤシの木の原生林を見に行ったこともあります。ヒョロッとしたヤシが無数に生えた景色はなんともミステリアスで、不思議の国に迷い込んだようでした。村の近くには温泉が湧く谷もあります。岩の間からブクブクと湧き出す熱泉を、小川の水で薄めれば天然の露天風呂のできあがり。日本では温泉から眺める景色というと、なんとなくモノクロな印象ですが、ここは常春の国なので、あたり一面が青々としています。周囲360度を緑に囲まれた空間で、ポツンとお湯につかる。こんな贅沢があることもサレントの楽しみです。

腹の底から熱くなるような、本場のサルサ・ミュージック。

サレントに向かう途中で立ち寄ったカリも、忘れられない街です。ここはコロンビアでも指折りのサルサの街。若い頃から南米の音楽が大好きな私にとっては、さながら聖地です。もちろん、街の人たちも大の音楽好き。サルサはもちろん、タンゴやクンビアがいろんなライブハウスで演奏されています。どのバンドも演奏が上手くて、決まってエネルギッシュです。
このエネルギーは、私の目には街の活気そのものです。カリは今がまさに伸び盛りの街。市街地の中心にエルミタ教会という歴史的な建築物を残しつつも、郊外ではどんどん開発が進んでいます。新しいものと古いものとが絶妙のバランスで共存することで放つ不思議な魅力は、ここでしか味わえません。

アレパ、チーズ、コーヒー。朝食はローカルなスタイルで。

旅をするなら、現地の人と同じものを味わいたい。これもこだわりのひとつです。コロンビアだったら、街の広場で地元の人々とともにした朝食がいい思い出。私のお気に入りはアレパというトウモロコシの粉を焼いた料理で、焼きたてのアレパに乗せたチーズがトロリと溶けたところを大きな口で頬張ると最高。飲み物は、もちろんコーヒーです。当時のコロンビアには、まだ低品質なコーヒー豆しか流通していなかったにも関わらず、旅先だとこれが旨い。爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んで「今日はどこに行こうか」と妻と相談しながら手にする朝食はシンプルだけど絶品です。
ほかだと、山岳地帯でよく目にしたマスなどの川魚も旨い。アンデスの清流で大きく育った魚を、豪快に丸焼きするのだからそれも当たり前。付け合せはバナナのフライです。マスとバナナというと、普通の日本人にはびっくりな組み合わせですが、これがなんとも絶妙。一方、これが海沿いの街だとテーブルをにぎわせるのは新鮮な海魚です。ここでは丸ごと一尾をからりと揚げていただきます。たっぷりとまぶしたスパイス。仕上げにさっと絞ったレモン。ほかにはないエスニックな味わいに舌鼓。ちなみにコロンビア人はレモンが大好きで、何にでもレモンを絞ります。あれには毒消しの意味もあるはず。私がお腹を壊さなかったのも、いつもレモンたっぷりだったおかげでしょう。

気の赴くままに、どこへでも。それがバイク旅の魅力です。

コロンビアの魅力を数えだしたらきりがありませんが、やっぱり一番は「人」です。コロンビアの人はオープンでとてもフレンドリー。例えば食堂で隣に座った人に「ここだと何がおいしいの?」と話しかけると、それをきっかけにすぐに仲良くなれます。それでいて食事が終われば、「じゃあね!」とパッとお別れする。明るくて、さっぱりしていて、本当に気持ちのいい人たちです。一方で、少しルーズなところがあるのはご愛嬌。こればかりは文化の違いだと割り切ることです。それどころか、彼らの大らかさに救われたこともあります。あるときホテルの宿泊券を紛失して困り果てていた私を前に、大した確認もせず「いいよ、いいよ!」と笑顔で泊めてくれました。なにごとも杓子定規ではないのがコロンビア流です。「昔は日本もこうだったよなあ」と懐かしく感じることもあります。

コロンビアの大らかさに触れたせいか、私の旅は回を重ねるごとに大らかでゆったりとしたスタイルに変わっていきました。かつては「走ること」そのものを目的にしていたこともありますが、今はまったく違います。細かな計画は立てず、気の赴くままにバイクを走らせます。気に入った街に出会ったら、そこでのんびりと過ごす。気が向いたらまた走りだす。コロンビアをはじめとした南米の国々を旅することで見えてきた、私の旅の形です。


高田典男/和子

1938年 静岡県浜松市生まれ。
20代の頃より、音楽を通じて南米大陸に憧れを抱く。定年退職後の2000年、ロサンゼルスからサンパウロまでの42,000キロを582日間かけてバイクで縦断。その後も2017年までに、11回に渡って南米大陸をバイクで旅する。旅の累計日数は1,894日、総走行距離は11万211キロに及ぶ。

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