低速自動運転システム

「移動」の未来を創る、時速20km未満のモビリティ。

ヤマハ発動機と聞くと、バイクをはじめとした
「速い乗り物」のイメージが強いかもしれない。
しかし実は「ゆっくり走る乗り物」の分野でも活躍している。

ゴルフカーをベースにした電動小型車両による
「低速自動運転システム」。

最高速度時速20km未満のこのモビリティは
人々の生活スタイルを変え、
今までにない価値を創造する可能性を秘めている。

地域における公共交通の維持。
運転免許を返納した高齢者の移動手段確保。

こうした社会課題解決に貢献することを目指し、
今、全国各地で地域と連携した取り組みを展開しながら、
開発が進められている。

PROJECT MEMBER

西村 政哉

制御システム研究
西村 政哉

STORY1

「ワクワク」

現在、さまざまな企業が自動運転に関する技術開発に取り組んでいる。
ヤマハ発動機と自動運転の関わりは、いつ始まったのか。

ヤマハ発動機は自動運転の取り組みを、20年以上前から始めています。1996年に電磁誘導式の自動走行ゴルフカーを実用化し、その後はゴルフ場に限らず、テーマパーク内で使うランドカーなどにも使用されてきました。

ターニングポイントとなったのは2014年。ランドカーの公道走行が認められ、石川県輪島市で手動運転により市街地を巡る新交通システムの実証実験が開始されました。2016年には電磁誘導による公道での自動走行が可能になり、全国各地の自治体で社会実験的に低速自動運転車両を活用する動きが高まっていきました。

私が低速自動運転システムに携わり始めたのは、2016年から。それまではバイクの車体制御を担当し、安定性を高めるための技術開発を推進してきました。今とはまったく異なる分野です。

正直に言いますと、ヤマハ発動機が低速自動運転システムの開発に取り組んでいることは、異動の辞令を聞いた時に初めて知ったんです。「えっ、そんな取り組みを進めていたんだ」と。しかも自動運転と聞いて「相当難しい仕事になるぞ」と思いましたが、それよりも新しい分野に挑めるワクワク感の方が大きかったですね。

グループリーダーから「自動運転の低速モビリティを使った、ラストワンマイルの移動手段を実現する」という目指す未来を聞いた瞬間、率直に共感を覚え、「実現して社会課題の解決に貢献したい」と思いました。

低速自動運転システム
低速自動運転システム

STORY2

「価値観」

グループリーダーの話す未来像に共感を覚えた西村。
自動運転可能な低速モビリティを実現することで、社会がどう変化することを期待しているのか。

アメリカのフロリダ州には、高齢者の方がセカンドライフを楽しみながら暮らすコミュニティタウンがあります。その町では歩行者優先の町づくりが進められており、メインストリートの制限速度を低く設定。低速モビリティが交通手段として活用されています。町のコンセプトに合ったモビリティと交通ルールを導入したわけですね。また、ジョージア州には高校生がゴルフカートで通学している地区もあります。

アメリカはモータリゼーションの先頭を走る自動車大国ですが、一部の町ではこのように低速モビリティをうまく活用している実態があります。

一方で自分の体験として、遠州で生活していると自動車が必需品で、町の構造も自動車を主役にしてつくられているな、と感じることがあります。ベビーカーを押しているときに歩道の段差が気になったり。

近場の移動は自動運転の低速モビリティで十分。遠くに移動するときだけ自動車を使おう。そんなふうに人々の価値観が変わっていけば、住宅街を走る自動車の量が減り、住みやすさも高まっていくのではないか、と考えています。

日本でも低速モビリティが広く価値を認められて、社会実装されて、例えば自分の住む町で子どもに「公園で遊んでおいで」と安心して送り出せるような未来が来るといいな、と思います。

STORY3

「期待」

低速自動運転システムの実証実験は今、全国各地で活発化している。
なぜ自治体は、低速で走る自動運転車両に注目しているのか。

近年、高齢ドライバーによる事故が増え、「高齢者は免許を返納すべき」という議論が世の中で盛んにされています。

ただ、地方では簡単に返納できない事情もあります。「低速自動運転システムの実証実験をしたい」というご相談をよくいただくのは、高齢化率が上昇しているニュータウンのある自治体です。

免許を返納し、自動車を手放したいと思っている高齢者の方はたくさんいらっしゃいます。でも手放すと生活ができない。自動車が移動に欠かせないものになっているのです。

このような問題の解決に向け、自治体が巡回バスを導入するケースがよくあります。しかし、この手法は人手やコストがかかるという課題が残されています。

もしも自宅から無人で送迎できるようなサービスが低コストな自動運転によって実現可能であれば、高齢者の移動手段を確保できるのではないか。そんな期待とともに、ヤマハ発動機に実証実験のお声掛けをいただくことが多いと感じています。

私自身もさまざまな地域住民の方に、ニーズの聞き取り調査をしてきました。「低速自動運転システムは、いつ実現するとよいと思いますか?」と質問した際、「今すぐに欲しいです」という答えをたくさんの方から伺いました。

高齢者の移動手段の確保は、将来の課題ではなく、もう顕在化しています。みんな困っているし、ヤマハ発動機に期待している。できるだけ早く何とかしたい、という思いは強いですね。

STORY4

「判断」

低速自動運転の車両の開発には、高速道路などにおける自動運転にはない難しさがあるという。それは何か。

自動運転システムの開発に取り組んでいると「人間は普段、複雑な判断や行動を、いとも簡単にやっているんだな」と気付くことが多いですね。

例えば、地面にコンクリートブロックが落ちていたら、人間はブロックとぶつからないように運転を行います。一方、道路上に雑草が生えていても、これは柔らかい物体だから、避けなくても問題ない、と判断しますよね?

人間は、目で認識した情報から、物体の種類や柔らかさを判断している。認識した情報と、過去の経験からこのような判断を行っているわけですが、人間と同じレベルのことを機械にやらせようとすると、非常に難しい。

アイコンタクトもそう。人間は普段、運転しているときにアイコンタクトを使って、それとなしに相手の行動を推察しています。一時停止の交差点に止まった車同士が「お先にどうぞ」「先に行きますね」と、目で合図しますよね。それを機械にさせるにはどうしたらよいのか。

このように市街地エリアで適用される自動運転は、検討すべき課題が多方面にわたり、自動車専用道路における自動運転技術の開発とは違った難しさがあります。

人間と同じことのできる自動運転を実現するのが理想ですが、難しい場合は別の手段で解決しなければなりません。どうすれば解決できるんだろうと、メンバーみんなで知恵を絞りながら開発を進めています。

低速自動運転システム
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STORY5

「新技術」

全国各地で行われている、低速自動運転システムの実証実験。
磐田市で開始された実証実験では、新たな技術が取り入れられた。

自動運転を実現するに当たっては、車両が「今、自分はどこにいるのか」を正確に把握する技術がキーポイントになります。「位置推定技術」と呼ばれているものです。

磐田市で開始した実証実験では、VGL(バーチャルガイドライン)という新たな位置推定技術を取り入れました。アスファルトの模様をカメラで読み取りながら、自車の位置を把握する技術です。

アスファルトの模様が人間の指紋のような役割を果たすイメージですね。事前に路面の画像を撮影しておいて、走行中に撮影した画像と照合すると、車両が「自分は今、ここにいるんだ」と分かるわけです。

ヤマハ発動機が持つ位置推定技術には、すでに製品化された電磁誘導方式があります。雪上路でも位置検出が可能という利点がある一方、この方式は地中に誘導線を埋設する工事が必要となります。

VGLにはインフラ工事が不要で、自動走行の経路もフレキシブルに設定できるというメリットがあるため、活用を試みました。

その他に、3D-LiDAR(ライダー)による位置推定技術開発にも取り組んでいます。レーザー光で周囲構造物の距離を測定し、自動運転車両の状態をリアルタイムで立体的に把握する技術です。

電磁誘導方式、VGL、3D-LiDAR、それぞれに一長一短があるため、どのような組み合わせにしたら移動サービスとして適切なものが提供できるかを、各地での実証実験を通じて検討しています。

STORY6

「意義」

実証実験の場では、意外な人から、意外な言葉をもらうことも。
磐田市での実証実験は、開発しているシステムを社会が求めていることを改めて実感する機会となった。

実証実験の場で、地域住民はもちろん、官公庁の方々と話をする機会もあります。

磐田市での実証実験を始める際、ある官公庁の方から「この自動運転車両で、子どもたちを毎朝、学校まで自動的に送り届けてくれるようなことって、できないんですかね」と、低速自動運転車両の社会実装について期待を込めたコメントを頂いたことが印象に残っています。

また、別の方からは「新しい乗り物を社会実装しようとしているので、既存の価値観にとらわれず、低速モビリティとしての最適な形を目指してください」というアドバイスを頂きました。

低速モビリティの実証実験を行うと「乗用車同等の快適装備が欲しい」という意見が出ます。一方で、低コストで実現可能な移動サービスを求められていることも事実です。

この辺りのバランスを取り、新しいモビリティとしての形を社会に提案していくことが重要だと感じています。

低速自動運転システム
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STORY7

「感動創造」

低速自動運転システムは今、実証実験の段階。
今後の製品化と社会実装に向けての意気込みを西村に聞いた。

低速自動運転システムは、ヤマハ発動機の長期ビジョン「ART for Human Possibilities」の一環としての取り組みでもあります。会社の期待にも応えていきたいし、何より地域住民の方々から意見を直接伺っていますから、できるだけ早く実現して、少しでも社会課題の解決のお手伝いをしたいと感じています。

自動運転の開発といえば、「人がハンドルを握っていないのに動いている!」といった映像に注目が集まりがちですよね。しかし製品としてリリースしていくためには、信頼性やコストなど、目に見えない部分の開発も同じぐらい重要だと考えています。低速自動運転システムの製品化と社会実装に向けて、多方面で力を発揮できるよう、総合的にエンジニアリング力を磨いていきたいですね。

私たちの開発している低速自動運転システムには、バイクのような乗り物としてのワクワク感はないかもしれません。しかし、移動手段がないために外出を諦めていた方々が「今日は遠出を楽しんでみよう」と思うきっかけを作ることはできます。そのようなバイクとは違った形での感動創造を提供できると信じて、実現を目指しています。

低速自動運転システム
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若手社員による開発者座談会は企業研究NEWS「低速・自動運転車両で日本の未来を開くpdf」でご覧いただけます。