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コラムvol.29

ヤマハのレース活動50年の歴史をコラムでご覧いただけます。Vol.29「YZR250世紀末決戦!最終周、最終コーナーの攻防」

vol.29 2000/RR/World Grand Prix YZR250世紀末決戦!最終周、最終コーナーの攻防

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チームメイトどうし、中野真矢とオリビエ・ジャックの争いは、シーズン半ばの第6戦イタリアGPで1位、2位を分け合ったあたりからヒートアップ。2000シーズン中2人そろって表彰台に上がったレースは、4回のワンツーフィニッシュを含めて10回を数え、チームスタッフまでも熱狂させた

 息が詰まりそうなほどの、接近戦が続いている。
 2000年世界GP250クラスは、オーストラリア・フィリップアイランドで最終戦を迎えていた。決勝レースをリードしているのは、銀色に彩られたYZR250(0WL5)に乗る中野真矢。背後には同じマシンのチームメイト、オリビエ・ジャックがぴったりとつけている。3周目、ホンダの加藤大治郎をかわしたジャックが2位に上がって以降、中野とジャックの差が10分の1秒を上回ることはなかった。
 銀色のマシンで疾駆する2人、どちらの目の前にも世界タイトルがあった。最終戦を迎えた時点で、中野252ポイント、ジャック254ポイント。ゼロと言い換えてもいい両者の差は、どちらか先にフィニッシュした方がチャンピオンの座に就くことを意味している。
 テック3チームの監督、エルベ・ポンシャラルは、決勝前夜、中野とジャックに「クリーンなレースをしてほしい。少なくとも、ライバルにタイトルをプレゼントするようなことだけはするな」と言い含めた。
 2人のどちらが優勝しても、ヤマハにとって'90年のジョン・コシンスキー以来10年ぶりのGP250タイトル獲得だ。しかし、ランキング3位にはホンダの加藤大治郎がつけており、彼もまたチャンピオンの可能性を残していた。無茶をすれば逆転を許すことになりかねない。
 だがポンシャラルの心配をよそに、2人の走りは火花を散らす。コーナーで速い中野、ストレートが伸びるジャック。それぞれの持ち味を生かしながら、まるでダンスを踊るかのようなテール・トゥ・ノーズが続く。
 ジャックは、先行する中野に時おり仕掛けるそぶりを見せるが、前には出ない。後ろから中野を観察し、「どうも今日はシンヤのマシンの方が速い」と感じていた。「シンヤをパスして前に出ても、すぐに抜き返されるだろう」
 かたや中野も、後ろのジャックを一気に引き離せるだけの差がないことを知っていた。何度かコーナーへの進入でラインをクロスさせるシーンがあったが、お互いに牽制しあうだけで、レースは動かないまま過ぎていた。
 だが、このまま終わるはずはない。静かに緊迫した戦いは、ついに最後の1周を迎えようとしていた。加藤はいつのまにか10秒近く後方。2台のYZR250が奏でる甲高いエキゾーストノートだけが、まるでシンフォニーのようにフィリップアイランドサーキットに響いている。

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そのクライマックスはやはり最終戦。息を飲むマッチレースはジャックの大逆転劇で幕を閉じ、誰もがお互いを労う柔らかな笑顔を見せた

 テール・トゥ・ノーズのまま、ファイナルラップが進む。そして最終コーナー、中野を先頭に2台のYZR250が立ち上がってくる。中野はブロックラインを取らず、きれいにレコードラインをトレースする。世界チャンピオンの座は、すぐそこにあった。
 その時、中野の耳が、徐々に大きくなるジャックのマシンのエキゾーストノートを捕らえた。しかし、もはや中野にできることは自分のラインを守り、アクセルを全開にすることだけだった。
 2人のYZR250が並び、そのままコントロールラインを通過。0.014秒、指先の分だけ早くチェッカーを受けたのは、ワンチャンスに賭けたジャックだった。
 チームメイト同士の想像もできない決着に、ポンシャラルは喜びとも悲しみとも受け取れる複雑な表情を浮かべた。そして言うべき言葉も失って、ただ「信じられない」と繰り返すばかりだった。

 クールダウンラップをゆっくりと周回しながら、ジャックと中野の2人は互いの健闘を称え合う。それぞれに持てる力を出し切ったレース。ジャックは中野の手を取り、「シンヤ、おまえもチャンピオンだ!」と高々と天に突き上げた。

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