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2010 MotoGP 前半戦を振り返って:モトGPグループリーダー、フィアット・ヤマハ・チーム総監督 中島雅彦

2010 MotoGP 前半戦を振り返って
モトGPグループリーダー、
フィアット・ヤマハ・チーム総監督 中島雅彦
2010年8月6日

2010年シーズンの前半戦は、まさに波瀾万丈というほかないレースの連続だった。開幕戦カタールGPに勝利したバレンティーノ・ロッシは、第4戦イタリアGPで右脚開放骨折の重傷を負い、今季を絶望視されたものの、40日後の第8戦ドイツGPで劇的な復活を遂げた。その間、チームメイトのホルヘ・ロレンソは安定した強さを発揮し、4回のポールトゥウィンを含む6勝を達成。一方、マシン面では、エンジン使用規制ルールという新しい制約条件のもとで、今までにない過酷な戦いを強いられている。前半9戦の分析と回顧、そして、サマーブレイク後の9戦を戦い抜く覚悟を、フィアット・ヤマハ・チーム総監督であり、モトGPグループリーダーである中島雅彦に語ってもらった。


驚異の回復力と才能


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 シーズン前半9戦を終えて7勝という成績は、昨年の前半9戦中6勝という実績と比較しても、全体の流れとして目標どおりに推移している、と感じています。ただ、今シーズンはバレンティーノのケガとホルヘの安定した強さ、というふたつの大きな要素があるので、昨年とはおおいに違っている、とも言えるでしょうね。
 バレンティーノのケガに関しては、開幕戦のカタールGPを終えてトレーニング中に肩を負傷したのが最初のアクシデントです。当初は、それほど大きな問題ではないと聞かされていたので、気にはしつつもあまり大げさにはとらえていなかったのですが、第3戦フランスGPで、『これは何かおかしいな』と感じました。本人は口に出して言わないけれども、明らかに乗り方が変わってきているんですよ。それは走行データでもハッキリと見て取れる。本来なら彼が得意とするブレーキングが、肩の状態が悪いためにどうしてもかばいながらになっているんです。すると、ブレーキングでアドバンテージを取れないために、セッティングの方向性が変わってくるんです。ブレーキングが甘くなると、フロントを充分に沈めることができないので旋回しなくなる。旋回できないと加速ができない。その不利を補うためには走り方を変えなくてはならない。走り方が変わると、それに合わせるためにオートバイのキャラクターも変わってくる、というわけです。
 一方のホルヘは、ウィンターテストで親指をケガして出遅れたものの、そこからうまく回復してくれて、私たちもビックリするくらいの安定した強さを発揮しはじめていました。バレンティーノにしてみれば、そのような高い緊張感の中で無理せざるをえなかったという状況も、イタリアGPでのプラクティス中の事故につながったひとつの遠因になったのではないか、という気がします。

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 あの転倒に対しては、タイヤの温まりかたに問題があった等のいろんな意見もありますが、タイヤに問題があったわけではありません。皆、同じ条件で走っているわけですから。あの周回の走りをパート別に見ていけば、あるセクションまではゆっくり走っていたのに、転倒したコーナーの手前から全開で走りだしたとか、そういった細かい事実も確かにあります。では、その原因は何だったのか。自分のペースを作るという意味で、およそ彼が犯すミスではない、ということを考えると、やはりどこか自分に合わない部分を感じながら戦っていたのではないか、と私は感じています。
 脛骨開放骨折と腓骨骨折という大ケガだったので、復帰はどれだけ早くても後半戦のチェコGPだろうという前提で考えて、準備を進めていた、というのが正直なところです。にもかかわらず、40日あまりで復帰し、しかも復帰戦のドイツGPでは最後まで表彰台を争って4位、翌週のU.S.GPでは3位表彰台を獲得するのですから、本当に驚きました。復帰後のバレンティーノはあいかわらず肩と脚をかばっているし、それに応じて彼本来のスタイルから乗り方が変わっているのも事実ですが、それでも極力、乗り方の変化、セッティングの変化を出さないようにと自分自身が心がけている。その状態であのレベルで走れてしまう才能には、ちょっと恐ろしいものすら感じますね。まさに走るため、オートバイに乗るために生まれてきたような人物なんでしょうね。つくづくそう感じます。

着実な成長の鍵


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 バレンティーノの負傷欠場という大きな穴を埋め、その不利を補う以上の大活躍を見せてくれたのが、ホルヘです。
 ホルヘは、一年一年、素晴らしい成長を遂げていますね。開幕戦から2戦、3戦と経てくるなかでも、自分のレースをしっかり分析しています。それぞれのレースで自分はどこが悪かったのか。その悪いところを良くしていけばさらに自分は伸びる、と自信を持っているから、進んでいく方向性にも迷いがないんです。たとえばスペインGPで勝ったときでも、レースに勝ったこと自体はとても喜んでいるけど、その一方で、なぜ序盤はペースが遅かったのかということを考えて、自分なりの答えを持ってくる。そして、そのためにやらなければならないことに一生懸命取り組もうとします。
 たとえばスペインGP翌日のテストでも、クラッチを3つ潰すくらいスタート練習をやりましたからね。我々にしてみれば『おいおい、もうクラッチがないぞ(笑)』とも思うし他のテスト項目もあるんだけど、彼にとってはそれが今一番大事なことなんですよ。ライダーによっては、他のライダーの真似をしてかえって自分のリズムを崩してしまう場合もありますが、ホルヘの場合は違う。自分のいいところも弱点も理解したうえで、自分の走りのバランスを崩さないようにしながら、弱点を克服していこうとする。若いのによく考えてるな、と感心します。

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 自分のことを客観的に見られるようになってきた、といってもいいでしょう。今までは、技術的なところまで踏み込もうとしてかえって空回りしていた部分もあったんですが、それではダメなんだ、ということがわかってきたんでしょうね。実際に、今でもホルヘとは口論になることがあるんです。自分で一生懸命考えてきて、ここを直さなければいけない、と意見を言うのは以前と同じなんだけど、でも最後には『わかった、じゃあ、あなたたちのいうことをやってみる』と、相手の意見を受け入れる幅の広さを持つようになってきた。大人になったかどうかというと、まだ子どもだと思うけど(笑)、ただ、オートバイに乗ること、いい成績を出すこと、そのためにはどうすればいいのか、と真剣に考える姿勢は同世代の他の若者にはないプロフェッショナリズム、自らを律する行動規範を持っています。
 バレンティーノとの違いは、走ってみて感じたこと、理解したことをきっちりと人に伝える能力。その面での成長は、今後の課題でしょうね。ライダーのコメントをあとで検証してみると、まさにそのとおりにセンサーが反応していることにビックリする、というのがバレンティーノだとしたら、ホルヘはまだそのレベルまで至っていない。しかし、彼は自分で感じ取ったものに順応する能力が高いんです。オートバイに責任を転嫁しないタイプなんですね。多少大きなセッティング変更を試したときに、他のライダーがこんなに変わっちゃ走れないよとか、これは僕には合ってないよと不平を言っても、ホルヘは『僕にとっては同じかなあ』ということが多い。幅が広い、大きな懐を持っているライダーだな、と感じますね。

寡黙なアメリカンと陽気なアメリカン


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 順応性の高さでいえば、ベンも素晴らしい資質をこの前半戦で実証してくれました。WSBから変わってきて1年目で、サーキットもオートバイも違う、パドックの雰囲気も違う、という状態のなかで一生懸命走って、高い順応性を発揮していますね。金曜午後の1回目のプラクティスが終わると、初めてのコースでもだいたいトップテン圏内に入っていて、能力の高さは充分に披露していると思います。まだ1年目でシーズンも半分を経過したところだから、今後はもっと彼の成長を見られると思いますが、あの若さにもかかわらずもの静かで落ち着いていて、しっかりと結果を出していくのはさすがです。
 とはいえ、序盤数戦はタイヤの違いにかなり戸惑ったようです。スペインGPとフランスGPでは転倒リタイアになりましたが、行こうと思ったときにタイヤが反応してくれず、特にフロントの感触を掴むのに苦労したところがありました。それも少しずつ学んできて、イギリスGPでは3位表彰台。難しいコンディションのレースでしたが、その頃になるとベンもタイヤ特性を掴んできていました。今年のイギリスGPは初開催地で、皆と同じ条件で走れるレースだけに、心中にも期するものがあったようで、明らかにプラクティスの最初から気合いが入っていたことが見て取れました。あの表彰台は、彼の自信になったと思います。その後数戦は惜しい結果が続きました。1年目ということを考えれば本当によく頑張ってくれているし、今後が楽しみなライダーです。

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 ベンは、彼の信条なのかあるいはそう振る舞うように教育されてきたのか、アメリカ人にしては珍しいくらいにふだんは物静かで冷静ですが、秘めているものは熱い男ですよ。バイクから降りた直後や、モーターホームで話をするときは、我々にしか見せない顔を見せてくれることもあります。そういう意味では、ホルヘと共通したところがあるかもしれませんね。
 チームメイトのコーリンはというと、一見したところ去年より成績が悪いという評価になってしまうのかもしれませんが、ラップタイムを見ると、実はほとんどのサーキットで去年よりも良くなっているんです。ベストラップや総タイムも、去年よりいい。ただ、いかんせん周りのライダーが速い。コーリンはベテランの域に入っている選手で、自分の一番良かった時期と比較すると維持をするのが精一杯という年齢になっているし、自分では一生懸命やっているつもりでいても体がついていかない部分もある。その状態のなかで、よく頑張ってくれていると感じています。しかも、彼はキャリアが豊富な分、開発に関わる重要なコメントを、ベテランらしくブレのすくない評価として返してくれますから、やはり彼はいろんな意味でヤマハのベースを確認してくれるライダーだと思っています。
 実際に、金曜午後の最初のプラクティスでコーリンの走りを見れば、ヤマハのスタートセッティングが間違っていないことを確認できます。タイヤについてもしっかりと良い評価をしてくれるので、いろんな意味で、ヤマハの指標になるライダーですね。

厳しいセッティングと台数規制


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 タイヤといえば、今年はブリヂストンのワンメークになって2年目ですが、硬め、柔らかめのコンパウンドともに、明らかに昨年より作動温度域が広くなってきています。
 フロントタイヤに関しては、ブレーキングの安定性を取るのか、あるいはコーナリング中のグリップを重視するのか、で好みははっきりと分かれるんですが、リアに関しては対応温度の幅が広くなっているので、柔らかめのコンパウンドでもレースができるようになっています。第9戦のU.S.GPでも、全員がソフトを選択していましたよね。その意味では、レース距離をマネージできるタイヤとしては確実に進歩しています。さらに、いくつかのコースではレコードラップも更新していますから、マシン、ライダー、タイヤを含めていい方向に動いていると言えるでしょうね。
 そのような状態のなかで、セッティングはますますタイヤに焦点が当たるようになっています。つまり、いかにタイヤの性能を最大限に引き出しながら、二輪車が本来持っている運動性能を最大限に引き出すか。これはライダーともいろいろ議論するのですが、運動性能を捨ててでもグリップを取りにいくのか、あるいは、グリップは我慢するから曲がるようにしてほしいと考えるのか。いいラップタイムを出せるかどうかは、そこのマネージメントにかかっています。ライダーも悩んでいるし、我々も悩んでいます。
 この悩みは年々増えていますね。ライバルメーカー、ライバル選手たちとのコンペティションを続ける中で、誰もがいい方向を模索しているわけだから、競争は年々激しく、重箱の隅をつつく状態になっている。電子制御も含めて、どんどん厳しくなってきていますね。
 しかし、今シーズンの開発面にとって最大のトピックは、ライダー1名につき年間6基というエンジン使用規制でしょうね。
 9戦終わった状態での印象は、けっしてラクな戦いではないな、というのが正直な感想です。にっちもさっちもいかない、というほどではないにしても、研究室の台上で評価した予測よりも実戦のほうが厳しかった、という感触はあります。燃費と信頼性と動力性能、という、それぞれがトレードオフ(相反)関係の要素を、どうやって最適な状態でバランスさせるのか。平均最高速にしても加速性能にしても、我々はライバルと比較してある程度のビハインドがありますから、その中でどうやっていい状態で戦っていくか、ということが後半戦に向けた大きな課題です。年間6基、といっても開幕直後に6基すべてのエンジンを封印してしまうわけではなく、使った分だけを、それ以上さわれないようにシールしていくので、我々としてはまだ組み立てていないエンジンが多ければ多いほど、グレードアップもできる分だけ有利になる、というわけです。

後半戦に向けて


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 第10戦のチェコGPから始まる後半戦は、ホルヘとバレンティーノを全力でサポートし、チャンピオン獲得を目指して戦っていきます。前半9戦のリザルトを見ると、冒頭にも言ったとおり9戦7勝という結果なので、ここまでは順調に来ているようにも見えます。ただし、我々は開幕から今まで順調だと感じたことは一度もありません。競争相手のプレッシャーを感じながら戦っている、というのが正直なところです。だから恐いのは、慢心。今はどう見ても我々がリードしている状況ですが、『なんとかこのままシーズンが推移してくれないかな』という慢心が一番恐い。常に危機感を持って戦っていかなければ、絶対にしっぺ返しを食らってしまう。逆の立場では、間違いなく必死で追い上げようとしているわけですから。その危機感を持つことと、ドイツGPでホルヘのエンジンがブローしたことを含めて前半戦の結果をしっかりとレビューし、自分たちがやるべきことをひとつずつ確実にこなしながら戦っていくしかない。チームとしてもライダーとしても、勝つためにはギリギリのところまで行く覚悟で臨みます。
 今はすでに、チェコGPのレース後に行うテストで投入するスペックも用意ができています。バレンティーノとホルヘに対しては、ファンの皆様を沸かせるいいレースをしてもらうためにきっちりとバックアップをしていきます。ライバル陣営の各選手も交えて、バレンティーノやホルヘ、ベンに、後々に語り継がれるような激しく素晴らしいバトルを繰り広げてもらうためにも、私たちは後半戦も全力で彼らを支え、ともに戦っていきたいと思います。


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