ヤマハ発動機の技と術

技術の広がり

“アルミ合金”という材料開発

「素形材を大事にする人だった」。初代ヤマハ発動機社長・川上源一を知る技術者が、こう振り返りました。素形材とは、鋳造・鍛造などの工程によって製品の形に近付いた素材のこと。経営者として辣腕を振るった川上源一ですが、いち技術者として本質の大切さを看破していました。その血脈は、現在のヤマハ発動機にも色濃く息づいています。

ヤマハの製造工場には、多種多様なアルミインゴット(#1)が並んでいます。それらはまるで、腕利きの料理人が厳選した食材のよう。どんなオーダーにも応えられるように取り揃えられ、かたちになる時を待っています。
ヤマハが製造しているモーターサイクルや船外機には、スポーツから実用まで、非常に幅広い用途があります。また、いずれも屋外で使用され、過酷な条件下で高い耐久性を発揮しなければなりません。人の感性に寄り添う繊細さも必要です。
それらのニーズに丹念に応えること。そして素形材を大事にすること。多種多様なアルミインゴットが並んでいる様子は、このふたつが重なり合っていることの証でもあります。

居並ぶアルミインゴットの銀色の鈍い輝きはどれも共通していますが、中身は実にさまざま。鋳造用と鍛造用では含有成分が異なりますし、鋳造用でも主に重力鋳造に使われるアルミとダイキャストに使われるアルミとでは特性が違います。「アルミ」とひとことで言っても、シリコンやマグネシウムなどが含有されている合金です。それら含有物の微妙な配合率のバランスが、レシピとなって特性を決めているのです。
ヤマハは、アルミそのものの研究開発も重視しています。1993年には、塩水にも耐える優れた耐食性を備えたアルミ合金「YDC-30」(#2)を実用化。船外機用エンジンの最下部に位置するボトムカウリングやロアケーシングに採用し、海水に浸かるという悪条件下でも信頼性の高さを発揮すると同時に、流木などの衝突にも耐える強度を確保しています。

鋳鉄ライナーが不要で、冷却性向上、軽量化、製造コスト削減などを果たしたオールアルミシリンダー「DiASil(ダイアジル)シリンダー」では、従来のダイキャスト法では鋳造性が困難とされたシリコン粒子20%含有アルミ材の使用に挑戦。独自のCFアルミダイキャスト技術を応用することで、ハイシリコンアルミ合金の鋳造に成功し、よりローコストで高性能なエンジンシリンダーを実現しました。DiASilシリンダーは現在、小排気量スポーツモデルを中心に採用していますが、今後は船外機用エンジンや自動車エンジンへの適用も視野に入れ、さらなる開発を進めています。

素材へのこだわりが美味しい料理を生み出すように、素材へのこだわりが優れた製品を生み出す。ヤマハはそう考えて、日々、材料研究を推し進めています。

(#1)製造工場に並ぶアルミインゴッド

(#2)独自開発のアルミ合金「YDC-30」が採用されるヤマハ船外機