ヤマハ発動機の技と術

車体・艇体

【LMWテクノロジー 2】
LMWの開発原点は割り箸だった!?

開発者の高野がLMW構造を具現化した模型

LMW最初の市販車である「TRICITY 125」の場合、技術の核となったのは前が二輪となっている点です。一般的なスクーターと同様の車体後部と、前二輪構造の車体前部を組み合わせることで、LMWを完成させています。
LMWのフロントまわりがどのように傾くのか。もしもそのイメージがうまくつかめないなら、天地が開いたダンボール箱を横にして、それを潰してみるとわかりやすいかもしれません(#1)。この場合、側壁は左右それぞれの車輪とサスペンション、上壁が車体と前輪部をつなぐ機構、下壁が地面となります。
じつは「TRICITY 125」の開発を担当した高野和久も、プロジェクトのスタート直後には、ごく身近なアイテムで前二輪機構の基礎的な概念を確立しました。そのアイテムとは“割り箸”と“輪ゴム”。 割り箸を適当な長さに折り、縦横に並べて輪ゴムで留めることで可動式にし、頭に描いた構造を立体的な模型とすることで、アイディアを固めていったのです。

(#1)LMWのフロント周りの傾きイメージ

LMWの基礎となるふたつの機構 前二輪/後一輪というレイアウトで、軽快感と安定感を両立した走行性能を実現するため、「TRICITY 125」のフロントまわりには、左右で独立した片持ちテレスコピックサスペンションと、これを支持して車体本体と連結するパラレログラムリンクを採用しています(#2)
前二輪をリーンさせる機構とサスペンションの機能を独立させるこのシステムにより、軽快感を支える深いバンク角、大きなハンドル切れ角を合わせて実現しているのです。

(#2)「TRICITY 125」のフロントまわり

安定感のある自然なリーンを生みだす
パラレログラムリンク
LMWは旋回時に前二輪が車体と同調してリーンすることで、自然な操縦感覚を生みだしています。その実現に欠かせないのが、前輪につながる左右独立式のフロントサスペンションを支持し、車体と結合する、パラレログラムリンクです(#3)
リンクそのものは、つねに平行を保つ上下2本のアームで構成されますが、これに左右のサスペンションを装着すると、リンクまわりを正面から見た場合、車体直立時には長方形、リーンさせると平行四辺形になるリンク構造が完成します。
パラレログラムリンクは基本的な構造がシンプルで、コンパクト化できる利点もあります。そして、左右タイヤの接地幅に変化が少ないことから、安定感のあるナチュラルな操縦感も実現しているのです。 ※パラレログラム(=parallelogram)は英語で「平行四辺形」の意味。

(#3)パラレログラムリンクの透視イメージ図

軽量化にも貢献する
片持ちテレスコピックサスペンション
フロントサスペンションには、一般的なモーターサイクルに広く使われるテレスコピック式と、スクーターなどの一部機種に採用されるボトムリンク式から、長所と短所のバランスおよび自然な乗り味の実現を視野に、テレスコピック式を採用。
当初は、ホイール両側にフォークがある両持ち式も検討しましたが、デザイン性なども考慮して片持ち式を採用しました(#4)
結果的に、「TRICITY」はフロントホイールの内側に片側2本ずつのフォークを隠し持つことになり、アイデンティティのひとつとなっています。
この構造は、車体の軽量スリム化と、LMWに求める機能を同時に満たすための選択でもあります。
ちなみに、片側2本のフォークのうち前側はガイドパイプの役割を果たし、後側にのみクッション機能を与えています。
■テレスコピック式とボトムリンク式の違い テレスコピック式 二輪車の大半がこの方式を採用する。径が異なる2本の筒が、望遠鏡のように伸縮。過剰に沈み込むと時車体姿勢に悪影響を与える可能性もあるが、量産性や信頼性に優れる。
ボトムリンク式 一部のベーシックスクーターやビジネスバイクなどに使われる方式。軽量で低コスト化も図れるが、寸法上の制限によりストロークを大きく取りにくい。

(#4)片持ちテレスコピックサスペンションの透視イメージ図

基本概念は「ハードワークな前輪の仕事をわける」こと 「TRICITY」は前二輪構造により、フロントタイヤが受け持つ仕事量が分散され、負担が軽減されています。とくに旋回時や制動時に余裕が増えることが、LMWが持つメリットのひとつです(#5)
その一方で、ヤマハ独自の技術とこだわりで、乗り味を限りなく二輪に近づけることで、より多くの人が「リーンする楽しさや爽快感」を味わえる性能が追求されています。

(#5)タイヤの接地荷重イメージ(ヤマハ社内実証実験データより作成)

LMWがコミューターに与えた副産物 一般的な小中排気量スクーターは、リアの足回りとエンジンを一体化したユニットスイング方式を採用することから、車体後部が重い傾向となる構造となっていますが、「TRICITY 125」では、前二輪機構を採用することで、自然に前後重量バランスを取ることができたのです。
MotoGPマシンと同じような重量配分を実現(#6)したことが基礎として、自然かつスポーティな乗り味を追求して開発は進められていったのです。

(#6)理想的な前後の重量配分

LMWが持つ8つのメリットとは? LMWはより多くの人にモーターサイクルの醍醐味を味わってもらえる乗り物です。走行条件ごとにメリットを洗い出してみましょう。

●段差通過時(#7)
前二輪それぞれに独立して取りつけられたサスペンションとLMW機構が両方働くことで、段差や衝撃を吸収する役割を果たします。

●石畳・荒れた路面での走行時(#8)
前二輪それぞれに独立して取りつけられたサスペンションとLMW機構が両方働くことで、石畳や荒れた路面でも、ギャップの吸収性が高く、良好な乗り心地をもたらします。

●濡れたマンホール・石畳・トラムレール・砂まじりの道路での走行時(#9)
前輪の左右どちらかがグリップを失ったとしても、もう片方がグリップしていれば、滑りやすい路面状況でも影響を受け難くなります。ゆえに前輪のスリップによる転倒リスクが低減します。

●巡航時(#10)
LMWは、軽快、機敏でスポーティなハンドリングと車両の性能から生まれる安定感によって、新しい楽しさを提供します。

●コーナリング時(#11)
独自のLMW機構により、旋回時には前二輪が車体と同調してリーンし、路面の変化にもしっかりと追従するので安定感が高いこと。旋回時、外輪か内輪のどちらかがグリップを失ったとしても、もう片方がグリップしていれば、滑りやすい路面状況でも影響を受け難くなります。ゆえに前輪のグリップによる転倒リスクが低減されます。

●ブレーキング時(#12)
LMWは直進時に万が一の急停止の場合でも、前輪がロックしにくいため、前輪ロックによる転倒リスクが低減されます。前二輪であることによって高いグリップ力が得られるため、制動力が高まります。

●横風がある状況(#13)
前二輪のため、急な横風でもふらつきが少なく安定感が高いこと。

●低速走行時(#14)
前二輪のため、発進直後や停止直前のハンドルのふらつきが少なく、安定感が高いこと。

(#7)段差通過時

(#8)石畳・荒れた路面での走行時

(#9)濡れたマンホール・石畳・トラムレール・砂まじりの道路での走行時

(#10)巡航時

(#11)コーナリング時

(#12)ブレーキング時

(#13)横風がある状況

(#14)低速走行時