技報No.2 eBook | ヤマハ発動機
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である以上,5〜6mのボートで,1mの波の中 ディープV船型へだうつ。ある。て我々は来た。一 般に船首が下がり過ぎて接水面積が増え,とても平底の利点を生かした使い方とは言えないのでがしばしば報じられた。でしか考えられないという思いが牢固として抜き難かった。当時の船は,衝撃をやわらげるため前部での船底勾配を大きくするだけで,トランサムにおける勾配はたかだか10度ぐらいのものであった。高速艇が波間を走れば必ずジャンプをする。船尾まで大きな船底勾配をつけないと,衝撃が激しいものになるのは自明である。しかし,滑走面の効率を考えたらそれは出来ないことと決めつけ ハントはこの事実を素直に受け入れた結果,衝撃の緩和と高速性を見事に両立させることになるのである。なぜ我々はこれに気が付かなかったの 彼は,船体の中央から船尾にかけて一様に25度の船底勾配をつけたバートラム31を造り上げ,我々が経験して来た“10度”を一気に2倍半へ高めてしまったのである。写真を見ると,バートラム31は高速になると動圧で船体が浮き上がり,接水幅,従って接水面積が減じて摩擦抵抗が減る様子がわかる。その抵抗減が,勾配の増加に起因する滑走面の効率の悪さを補うのであろう。また,たて長の滑走面が縦安定を良くして,絶好の船底迎え角を保持するのに都合が良さそうであった。結果的にスピードを犠牲にしないで良い乗り心地が得られるから,外洋レースで勝つのだろう。 一方,平底の船は本当にその特徴を生かして使われているだろうか。平底の効率は確かに良い。しかしそれは,4度付近の迎角を保った場合のことで,逝角を保つためにはレース艇のような段付艇(ステッパー)にするか,三点支持艇(スリーポイント)にして前の支え角度を保ってやらねばならない。そのような工夫のない普通の船型では, 何故そのことに気付かなかったのか。写真を見ただけで容易に理解できるだけに無念であった。理屈がすんなりと受け入れられるだけに,この船きた。そして、平均速度を維持するための,船や装備のあるべき姿が頭の中でだんだん形になってくるのを感じるのだった。それまでに,転覆の限界と船型の関係についてずいぶん勉強して来たつもりだったが,体力が限界に達してからのことは考えてもみなかった。ショックを脚のバネで柔らげることが出来なくなると,速度を落とさざるを得ない。これはもう,船と装備で体力をカバーするしかない状態である。衝撃の柔らかい,方向安定の良い船を軽く仕上げて充分なパワーを乗せ,加速を良くして自由に波を拾って走れ,しかもジャンプ姿勢をコントロール出来るようにならないと,高い平均速度の維持はむつかしい。さらには,身体をうまくホールドする装備を工夫しなければならない。気が付くと,翌年のレースに向けて理想のボートの在りようを模索し始めているのだった。太平洋マラソンには勝ったが,20ノットという平均速度は,一般用プレジャーボートを良く整備すれば達成できるレベルであった。外洋レースで60km/hを保ちたいと私は考えた。スピードは50%アップしなければならない。 当時,米国の雑誌に,レイモンド・ハントの設計したバートラム31が外洋レースに活躍する様子 ハントは,多数の画期的なセールスボートの設計を完成させた高名なデザイナーであった。バートラム31は,船底の後半分に25度の船底勾配を付けたいわゆる「ディープV」の先駆で,当時としては特異であったが,穏やかなシアー(舷端の前後でのそり上り)とチャインのカーブが良く調和して,実に美しい姿をしていた。 それまで,われわれボート・デザイナーは「船底勾配が少なく平らな船型ほど抵抗が少ない」という固定観念を植えつけられていた。そして乗り心地と速力はトレードオフの関係にあり,その中一 6一

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