YAMAHA MOTOR DESIGN

ヤマハ発動機株式会社

DAYSIN THE STUDIO

デザインは技術革新とともに

製造技術の進化、素材の進化は
デザインの現場に
いくつもの革命をもたらした。
いままで出来ないと思っていた
造形が可能になる。
すなわち使う人への新しい提供価値が
生まれるということだった。
それに応えた者たちが、
設計エンジニアや製造のエンジニアたちだ。
それは、ヤマハエンジニアたちの
美意識の現れでもあった。

デザインは技術革新とともにデザインは技術革新とともに

アルミニウム特有の質感を視覚化

パーツの集合体であるモーターサイクルでは、塗装のみならず金属材料の質感が全体に及ぼす影響が大きい。

1980年代、SRX600の開発時に遡る。デザインスケッチから立体のクレイモデルに移行する際、担当デザイナーはある金属パーツの質感になみなみならぬ関心をもっていた。マフラーカバーであった。

通常であれば、形成した木材にシルバーの塗装を施し、ここは金属です、という見立てをすれば済む。しかし、デザイナーはそのたった一枚のアルミニウムパーツが全体に与える影響を考慮して、アルミ板を叩き出して造形や質感を表現してクレイモデルに取り付けた。

デジタル技術の進化により、現在では3DVR技術を用いて仕上がり感を予め確認することができる。光源を変えながら3Dの立体像をどの角度からも見ることが可能で、ハイライトや陰翳の検証が事前に行える。

アルミニウムの質感を最大限に表現したYZF-R1のアルミフューエルタンクは、このデザインプロセスを経て現実化している。

デザインは技術革新とともに

西海岸の陽光、沖縄の海西海岸の陽光、沖縄の海

宣伝手法にも各社それぞれスタイルがあり、ヤマハでは国内宣伝に外国人モデルを起用するケースはそう多くない。それでも初代JOGの導入コミュニケーションでは、陽光あふれるアメリカ西海岸でロケが行われた。きらきらとした光の中で底抜けに明るい若者たちが戯れている。

デザインと塗装の生産技術は常に密接な関係を築いてきた。当時はデザイナーと技術者による合宿も恒例行事として組まれていたという。

「JOGをキャンディのように彩りたい。そう、カリフォルニアの日差しを受けてきらきら輝くキャンディのように」。デザイナーはカメラを片手に湘南の海を歩き、カラーコラージュを作ってそれを再現した。

それを手がかりに、ヤマハの技術者たちは塗料会社との共同研究によるオリジナルのカクテルカラーの開発で応えてみせた。同系色、もしくは近似色相で上下層を構成し、着色材の下層と光輝材を含有させた上層(2コート・1ベーク)を合わせることで、従来のキャンディカラーや他社の同系色では表現できなかった深みと、3次元空間を演出する高輝感(きらきら感)を実現してみせたのだった。

こうして生まれたカクテルカラーは高級ツアラー、ベンチャーロイヤルにも採用された。開発で中心的な役割を果たした塗装技師は、「沖縄のサンゴ礁を飛行機から見てひらめいた」と説明したという。

デザインは技術革新とともにデザインは技術革新とともに

機能の価値をデザインに活かす

プレミアムヨッツEXULTには、最新技術とヤマハボートづくりの粋が結集された。たとえば離着岸時の操船を容易にする全方位の推進システムIPSの搭載もその一つ。

この装備が持つ価値に着目したのがデザイナーだった。「離着岸時の衝突リスクが少なくなるのだから、バンパーの役目を果たしていたガンネルはもはや不要なのではないか?」と考えた。

ガンネルとは、ハル(船体)とデッキ(甲板)をつなぐボートのフチにあたる補強材。それまでガンネルのないボートなど想像する者さえいなかったのではないか。

ボートの上と下という既成概念を取り払い、「船を一つの塊」として捉えたデザインは、デザイナーが思い描いた以上にかつてないほど斬新で流麗なスタイリングを可能とした。たとえばボート前方の表情豊かなバウ、そしてグラマラスでラウンディッシュな優雅な船体。

しかし、そのフォルムを立体で実現するためには、精度の高い製造技術も必要だった。製造の現場ではハルの左右分割型抜きという方法の確立に取り組み、実現した。

デザインは技術革新とともに

西海岸の陽光、沖縄の海西海岸の陽光、沖縄の海

「前輪と、モーターを含む後輪、そしてハンドルとシートの機能を美しくつなぎたい」――。

それは電動だからこそのひらめきだった。

「パズルを解くような気持ちで毎日悩んだ末、やがてそうした機能を単純につなぐ五角形が最も合理的だということに気づいた」デザイナーは、スケッチとほぼ同時になんと部品構成図まで描いてみせた。

もちろん一般的なものづくりのプロセスからは大きく逸脱した方法だったが、それを可能としたのは、機能部品が合理的に配置された必然のスタイリングであったことに加え、ヤマハがすでに会得していた優れたアルミ加工技術の存在が挙げられる。


デザイナーは当初、EC-02の象徴であるペンタゴンをCFアルミダイキャストで製造することをイメージしていた。薄肉の裏リブ構造による軽量化や仕上げの美しさを目指してのことだったが、注目を集めるEVにこの先端技術を投入すれば、ヤマハ固有の技術を世にアピールすることにもつながると考えたからだ。

いずれにしても、優れた加工技術を背景として頭に置きながら、ショーモデルのPockeは設計がまったく関与しないまま東京モーターショーで披露され、そのPockeをベースに量産のEC-02は世に送り出された。発想から構造まで一貫してデザインが主導したという点で、極めて稀有なプロダクトの事例といえる。

なお製品化においては、CFアルミダイキャストによる製造は見送られた。