本文へ進みます
新たな工法

エンジン新色塗装 金属よりも金属らしい質感を

人とロボットが尊重し合うエンジン塗装ライン

ピストン、コンロッド、クランクシャフトなど、その主要パーツのほとんどが新設計の「MT-09」の3気筒エンジン。アジャイル(軽快)な走りの根源を成すコンパクトな新エンジンは、その外観も美しい。エンジン塗装の新色「クリスタルグラファイト」が求めたのは、金属よりも金属らしい質感。ローグロス(半つや)の仕上げが表面処理の美しさをさらに際立たせている。エンジン塗装の現場がチャレンジした久しぶりの新色投入。そこでは互いの天賦を尊重し合う、人とロボットの見事な連携と分業が行われていた。

熟練
職人の
手さばき。

丁寧な前処理を受けた3気筒エンジンが、アルミの地肌をむき出したまま工程ラインに吸い込まれていく。作業者の手で送り出されてからおよそ1時間。旅を終えたエンジンは、やがて美しい「クリスタルグラファイト」をまとって再び出発点へと戻ってくる。隊列を組んで旅する間、人間と接することは一切ない。ライン上に設けられたブラックボックスの中では、ロボットが熟練職人のような手さばきで塗装を行い、さらに、焼き付け、乾燥、冷却の各工程もすべて自動化されている。

本社工場にこのエンジン塗装ラインが完成したのは2015年のことだった。マットブラックの塗装工程にイノベーションがもたらされた。前処理から塗装までのすべての工程が根本的な見直しを受け、その結果、ラインが占有する面積はおよそ3分の1に、工程の数においてはおよそ4分の1まで圧縮された。その革新の主役は、職人の技をティーチングによって叩き込まれ、高難度かつ繊細なその技を高速で何度でも再現してみせるロボットの存在だった。吹付けの圧力、塗料の量、ノズルの距離と角度、しなやかなアームの動きはまさにクラフトマンのそれである。

人機が
尊重し合う
ライン。

エンジン塗装現場の一角に、こじんまりした白い部屋がある。塗装の現場に白壁は珍しい。その白さが、この部屋で行われている手作業の繊細さを物語っていた。そこでは塗装ロボットに「クリスタルグラファイト」の顔料を供給する前工程が行われている。

温度や湿度が厳格に管理された空間。この一室で顔料と有機溶剤をブレンドする。この単純な工程にこそ自動化が必要とも思われるが、そうはいかない。人間の細胞が数字に表れない情報を感知する。その肌感覚に積み上げてきた経験知が乗ってくる。「たとえば湿度。機器の表示は55%。でも、55%という数字にもいろいろある。気温も同じ。数字だけに頼っていたら良質で均一な顔料はつくれない」。一斗缶に木べらを差し込み、ゆっくりと撹拌する。その光景は一見原始的にも見え、また酒造の杜氏の優雅な所作にも似ている。回し、捏ね、手首を返すたびに、金属質の流体がきらめく。その出来上がりを待つのは最新の塗装ロボット。「この工程だけはロボットにも任せられない。クリスタルグラファイトっぽい顔料ならつくれるだろうが、本物はできない」。人機は互いに誇りを持ち、そして互いをリスペクトし合っている。

品質と
性能を訴える
存在感。

エンジンに吹き付けられる塗料は、車体とは比較にならないほど過酷な環境に晒される。なにしろあれほど高熱を発するエンジンに、四六時中ぴったりと吸着していなければならないのだから。さらに、モーターサイクルの心臓とも言えるエンジンの外観は、その品質や性能を見る者に訴えかける使命も担っている。陽光の下でも、ガレージの中でも常に美しい存在感を放っていなければならない。

1時間の旅を終えて、金属よりも金属らしい質感を手に入れた3気筒エンジンは、その後、何段階もの、そして何人もの厳しい目をくぐり抜けて良品として認定を受ける。数にすれば数百基に1基あるかないかの確率だが、ロボットによるわずかな手元の狂いも見逃されることはない。

エンジン塗装は、車体色ほどバリエーションが多いわけではない。その一方で新色の導入には大きなエネルギーがかかる。久しぶりの新色の導入。金属を超える金属感をまとったエンジンが完成した。

これが、 ヤマハの手

ページ
先頭へ